国際・比較・未来SDGs・持続可能な開発
目標11.7の意味——SDGsから見た公園と誰一人取り残さない緑
要旨
本稿の目的は、2015年に国連総会で採択された持続可能な開発目標(SDGs)のうち、目標11「住み続けられるまちづくりを」のターゲット11.7が掲げる「安全で包摂的、利用しやすい緑地・公共空間への普遍的アクセス」という理念を、都市公園、とりわけ磐田市のような地方都市の街区公園に照らして検討することである。方法は文献整理と概念分析であり、ターゲット11.7の趣旨とその指標、関連する目標3・4・13・15との接続を順に取り上げる。
検討の結果、ターゲット11.7は「安全」「包摂的」「利用しやすい」「普遍的」という四つの形容を通じて、従来の日本の公園行政が主に面積と誘致距離という空間的な基準で語ってきた公園整備に、年齢・性別・障害の有無という利用者の属性の視点を明示的に持ち込む点に意義があると見通される。一方で、指標として用意された11.7.1(建成区域に占める公共オープンスペースの割合)と11.7.2(公共空間での嫌がらせ被害の割合)は、いずれも市区町村単位で容易に算出できるものではなく、国際目標を地方自治体の施策へ翻訳する「ローカライズ」には相応の困難が伴う。
本稿はさらに、指標に事業を合わせてしまう本末転倒——経済学者チャールズ・グッドハートの指摘に由来するとされる「グッドハートの法則」——への警戒を論じ、磐田市の公園100園のデータを手がかりに、地区ごとの偏りやバリアフリー設備の状況を示す。ただし当サイトの現地踏査は始まったばかりであり、指標が本来測ろうとする利用者の体感や排除の実態は、今後の踏査課題として残されることを正直に述べる。
キーワードSDGs目標11.7誰一人取り残さないグッドハートの法則公共空間ローカライズバリアフリー
1. はじめに——問題の所在
2015年9月、国連総会は「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択した。ここに掲げられた17の目標と169のターゲットが、いわゆるSDGs(Sustainable Development Goals・持続可能な開発目標)である。企業のロゴマークや自治体の広報誌、小学校の授業にまで、17色に塗り分けられた円環のバッジを見かける機会は多い。しかし、その中の一つ、目標11「住み続けられるまちづくりを」のターゲット11.7が、緑地や公共空間について何を述べているかは、意外なほど知られていない。
ターゲット11.7は、要旨として、安全で包摂的、利用しやすい緑地・公共空間への普遍的なアクセスを、とりわけ女性や子ども、高齢者、障害者に配慮して確保する、という趣旨を掲げている。この一文には、少なくとも四つの形容——安全、包摂的、利用しやすい、普遍的——が並んでいる。これらは互いに重なりながらも、それぞれ異なる論点を含んだ言葉である。本稿の出発点は、この短い一文を分解し、街区公園のような身近な公共空間に照らして読み直すことにある。
本稿の問いは三つである。第一に、ターゲット11.7が並べる四つの形容は、街区公園のような身近な公共空間に照らしたとき、それぞれ具体的に何を意味するのか。第二に、目標11は単独の目標ではなく、目標3(健康と福祉)、目標4(教育)、目標13(気候変動)、目標15(陸の生態系)など、他の目標と接続することではじめて全体像を持つとされるが、公園という対象を通してその接続はどう見えるのか。第三に、国際目標であるSDGsを、磐田市のような一地方自治体の公園行政、あるいは当サイトのような民間の公園データベースの活動へと具体化する「ローカライズ」の作業には、どのような困難と落とし穴があるのか。
なぜSDGsという枠組みからこの問いを立てるのか。理由は二つある。一つは、SDGsが2030年という期限と、目標ごとの指標という「測るための道具」を備えた、これまでにない規模の国際的合意だからである。もう一つは、測るための道具を備えたがゆえに生じる特有の危険——指標の数値を動かすこと自体が目的化し、指標が本来意味していたはずの利用者の体感や排除の実態から目が離れてしまう危険——を、公園という具体的な対象を通して検討できるからである。この危険は、経済学で「グッドハートの法則」と呼ばれる現象として知られており、第7節で詳しく取り上げる。
1.1 方法と立場
方法は文献整理と概念分析である。国連の2030アジェンダの文言、都市公園法制、そして公共空間論の古典——フレデリック・ロー・オルムステッドの公園論(1870)やエベネザー・ハワードの田園都市論(1898)、ジェイン・ジェイコブズの都市論(1961)——を参照し、それらの視点をターゲット11.7の読解に用いる。本稿は独自の統計調査や住民アンケートに基づくものではない。当サイト(ATAWI PARK)は磐田市の都市公園100園のデータベースであり、磐田市オープンデータと市施設ガイドの記載にもとづいて園名・種別・面積・地区・設備の有無を収録しているが、現地踏査(フィールドワーク)はこれから始まる段階であって、利用者が実際にどう感じているかについてのデータは持たない。本稿で「示唆」として述べる磐田市の公園の姿は、あくまで既存の公開データにもとづく見通しであり、踏査で確かめるべき論点はその都度明示する。
運営主体についても一言断っておく。ATAWI PARKは富士ヶ丘サービス株式会社が運営する公園データベースであり、同社は不動産業と介護事業を営む。本稿は同社の事業を宣伝するものではなく、あくまで公開データにもとづく学術的な論考として、SDGsという枠組みと公園という対象の関係を検討する。
1.2 本稿の構成
第2節でSDGsの成立の経緯とターゲット11.7の位置づけ、関連する目標を整理する。第3節でターゲット11.7の四つの形容——安全・包摂的・利用しやすい・普遍的——を街区公園に照らして一つずつ検討する。第4節でターゲット11.7に対応する二つの指標が実際に何を測り、何を測り損なうのかを検討する。第5節で目標3・4・13・15との接続を扱う。第6節で国際目標を地方自治体の施策へ翻訳する「ローカライズ」の困難を論じ、第7節で指標に事業を合わせてしまう本末転倒への警戒を、グッドハートの法則を手がかりに論じる。第8節で「SDGsは看板にすぎない」という反論を検討し、国内法との比較からSDGsの固有の意義を考える。第9節で磐田市の公園100園への示唆を、第10節で結論と今後の課題を述べる。読者としては磐田市周辺の子育て世代、行政や地域活動の関係者、公園やまちづくりに関心をもつ学生を想定し、専門用語は初出のたびに説明する。
2. 先行研究と概念の整理——SDGsの成立とターゲット11.7の位置づけ
SDGsは2015年9月の国連総会において、全会一致に近い形で採択された。前身にあたる「ミレニアム開発目標(MDGs、2000〜2015年)」が主に開発途上国の貧困削減を対象としたのに対し、SDGsは先進国を含むすべての国が取り組む普遍的な目標として設計された点に特徴がある。17の目標には、貧困、飢餓、健康、教育、ジェンダー平等、水、エネルギー、経済成長、産業、不平等、まちづくり、生産と消費、気候変動、海洋、陸上生態系、平和と公正、パートナーシップが並ぶ。SDGsの理念を貫く標語として広く知られているのが「誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」である。この標語は、平均値としての達成ではなく、最も不利な立場にある人々の状況にまで目を配ることを求めるものと理解されている。
都市や公共空間について定めるのが目標11「住み続けられるまちづくりを(Sustainable Cities and Communities)」である。目標11には複数のターゲットが含まれ、住宅、交通、都市計画、文化遺産、災害、環境負荷などを扱うターゲットと並んで、ターゲット11.7が緑地・公共空間を扱う。本稿が主な対象とするのはこのターゲット11.7であるが、目標11単独では完結せず、健康を扱う目標3、教育を扱う目標4、気候変動を扱う目標13、陸上生態系を扱う目標15と接続することで、公園という対象の全体像に近づくと考えられる。次の表に、本稿が扱う目標と、それぞれの関連ターゲットの趣旨を整理する。
| 目標 | 本稿が扱う関連ターゲットの趣旨 |
|---|---|
| 目標11 住み続けられるまちづくりを | ターゲット11.7 安全で包摂的、利用しやすい緑地・公共空間への普遍的アクセス |
| 目標3 すべての人に健康と福祉を | ターゲット3.4 非感染性疾患による早世の減少と精神保健・福祉の促進 |
| 目標4 質の高い教育をみんなに | ターゲット4.7 持続可能な開発のための教育(ESD)の推進 |
| 目標13 気候変動に具体的な対策を | ターゲット13.1 気候関連災害・自然災害への強靱性と適応能力の強化 |
| 目標15 陸の豊かさも守ろう | ターゲット15.9 生態系・生物多様性の価値の計画・政策への統合 |
2.1 公園を公共の善とみなす思想の前史
緑地や公共空間を「誰もが使える善きもの」とみなす思想は、SDGsに先立つこと一世紀以上前から存在した。19世紀アメリカの造園家フレデリック・ロー・オルムステッドは、1870年の論考「公共の公園と町の拡張」において、公園を富裕層の庭園の代替物としてではなく、都市に住むあらゆる階層の人々が共有すべき公共の資産として位置づけた。同時代のイギリスでは、エベネザー・ハワードが1898年の著書『明日の田園都市』において、住宅・産業・農地とともに公共の緑地を計画的に配置する田園都市の構想を示した。20世紀に入ると、ジェイン・ジェイコブズが1961年の著書『アメリカ大都市の死と生』で、公園を含む街路や広場を、用途を単純化した都市計画がしばしば軽視してきた「人が集まり見守り合う場」として再評価した。
これらの思想に共通するのは、緑地・公共空間を装飾や余暇施設としてではなく、都市に住む人々の生活の質やつながりを支える基盤として捉える視点である。SDGsのターゲット11.7は、この一世紀以上にわたる思想の系譜を、国連という国際的な合意の言葉に翻訳したものと位置づけることができる。ただし、古典の著者たちが主に念頭に置いていたのは19世紀後半から20世紀の欧米の大都市であり、21世紀の日本の地方都市である磐田市の街区公園にそのまま当てはめられるわけではない。この移し替えの作業こそが、本稿の中心的な課題である。
2.2 目標には指標が伴う——測定という発想
SDGsのもう一つの特徴は、169のターゲットのそれぞれに、進捗を測るための指標が国際的に設定されている点にある。指標は、各国が共通の物差しで進捗を比較し、報告するための道具として設計された。この「測る」という発想自体は、都市公園法施行令が街区公園の誘致距離を250mと定めるように、日本の公園行政にもともと備わっていたものではある。しかし、SDGsの指標は、面積や距離といった空間的な基準にとどまらず、利用者の性別・年齢・障害の有無という属性別の内訳や、利用者自身の主観的な体験(安全と感じるかどうか)までを対象に含めようとする点で、従来の基準よりも踏み込んだものになっている。次節ではターゲット11.7の文言そのものを、第4節ではそれに対応する指標を、それぞれ検討する。
2.3 何を指標に選ぶかという判断
指標を設計する作業には、必ず選択が伴う。169のターゲットのすべてに、等しく精緻な指標が用意されているわけではなく、ターゲットによっては、比較的容易に地図や統計から算出できる指標が選ばれることもあれば、住民調査のような手間のかかる方法によらざるを得ない指標が選ばれることもある。ターゲット11.7に指標として面積割合が採用されたことは、それが世界中の都市で比較可能な、算出しやすい指標であったことと無関係ではないと考えられる。逆に言えば、「安全と感じるか」「歓迎されていると感じるか」といった、利用者の体感に近い論点ほど、指標化が難しく、後回しにされやすい。どの論点が数値化され、どの論点が数値化されずに取り残されるかという選択そのものが、すでに一つの価値判断を含んでいる。この点を自覚しておくことが、指標を鵜呑みにしない読み方につながる。
3. ターゲット11.7を読む——安全・包摂的・利用しやすい・普遍的アクセス
ターゲット11.7は、緑地・公共空間について「安全」「包摂的」「利用しやすい」「普遍的なアクセス」という四つの形容を並べ、とりわけ女性、子ども、高齢者、障害者への配慮を挙げている。四つの言葉は似た響きを持つが、それぞれ異なる論点を指している。本節ではこれらを一つずつ、街区公園という具体的な対象に照らして検討する。
3.1 「安全」の実務的意味
「安全」は四つの形容のうち、最も実務に落とし込まれやすい言葉である。日本の公園行政では、遊具の安全確保について国土交通省が指針を示しており、点検・維持管理の考え方が全国の自治体に共有されている。ここでの安全は、転落や挟み込みといった物理的な危険を管理するという意味での安全であり、後述する「包摂的」が扱う排除の問題とは性格が異なる。もっとも、SDGsの文脈における「安全」は、遊具の物理的な安全にとどまらず、暴力や嫌がらせを受けない安全、すなわち公共空間における人的な脅威からの安全までを含むと理解されている。この点は第4節で扱う指標11.7.2と関わる。なお、遊具の安全性や事故のリスクにかかわる個別の判断は、当サイトが断定できるものではなく、専門的な点検や関係機関の助言に委ねられるべきものである。
3.2 「包摂的」の意味——誰が排除されてきたか
「包摂的(inclusive)」という言葉は、裏を返せば「これまで誰かが排除されてきた」という認識を含んでいる。車いす使用者にとって段差や砂利敷きの通路が壁になること、視覚や聴覚に障害のある人にとって案内表示が届いていないこと、あるいは発達の特性によって特定の遊具や音、人混みが利用の妨げになることは、いずれも「遊具さえあれば誰でも遊べる」という前提を裏切る事実である。近年、こうした課題に応える設計として「インクルーシブ遊具」という考え方が各地の公園整備で取り入れられつつある。これは、車いすに乗ったまま利用できる複合遊具や、感覚に配慮したブランコの部品など、障害の有無にかかわらず一緒に遊べることを意図した設計を指す言葉である。ターゲット11.7が障害者への配慮を明示したことは、こうした設計上の工夫を、単なる先進事例の紹介にとどめず、公共空間の標準的な要件として位置づけ直す後押しになると考えられる。
3.3 「利用しやすい」と「普遍的アクセス」の二重性
「利用しやすい(accessible)」と「普遍的アクセス(universal access)」は近い言葉だが、少なくとも二つの異なる次元を含む。一つは物理的な近さであり、都市公園法施行令が街区公園に定める誘致距離250mのような、歩いて行ける距離の問題である。もう一つは経済的・制度的な障壁のなさであり、入園料や会員登録を必要とせず、誰でも無償で立ち入れるという都市公園の性格そのものに関わる。日本の都市公園の多くは後者の意味での普遍性を制度上すでに備えているが、前者の物理的な近さは地区や地形によって偏りが生じうる。ターゲット11.7が「普遍的(universal)」という強い言葉を選んだことは、一部の人だけが到達できる緑地ではなく、原則としてすべての住民が到達できる緑地の配置を求めていると読むことができる。
3.4 女性・子ども・高齢者への配慮という論点
ターゲット11.7が「とりわけ女性及び子ども、高齢者及び障害者」への配慮を挙げていることも見過ごせない。これは、公共空間の設計や管理が、しばしば健常な成人男性の行動パターンを暗黙の標準として組み立てられてきたという批判——都市計画やジェンダー研究の分野で指摘されてきた論点——を背景にしていると理解できる。見通しの悪い植栽や照明の乏しさが女性の利用をためらわせること、段差やベンチの少なさが高齢者の滞在を難しくすること、遊具の対象年齢表示が実態と合わず子どもの安全な利用を妨げることなどは、いずれも「誰にとっての利用しやすさか」を問い直す視点から見えてくる論点である。これらの論点をどこまで実証できるかは、当サイトのような踏査前のデータベースの手には余る問いであり、今後の現地調査や、発達心理学・ジェンダー研究など他分野の知見との接続を要する課題として、本稿では留保する。
3.5 四条件は独立ではなく、互いに支え合いまた競合する
以上に見た「安全」「包摂的」「利用しやすい」「普遍的」の四条件は、それぞれ独立に満たせばよいものではなく、互いに支え合う関係にもあれば、時に競合する関係にもある。たとえば、物理的に近い(利用しやすい)公園であっても、見通しが悪く安全と感じられなければ、実際には足が遠のき、結果として利用しやすさは損なわれる。逆に、防犯の観点から植栽を刈り込んで見通しを確保することは「安全」を高めるが、木陰を減らし、夏の滞在しやすさや第5節で扱う気候面での役割を弱める可能性もある。四条件を単純に足し合わせて評価するのではなく、ある条件を高める工夫が別の条件をどう動かすかという相互作用に注意を払うことが、ターゲット11.7を実務に落とし込む際の要点になると考えられる。
4. 指標11.7.1・11.7.2が測るもの、測らないもの
SDGsの各ターゲットには、進捗を国際比較するための指標が定められている。ターゲット11.7には二つの指標が対応するとされる。一つは、都市の建成区域(市街化された土地)に占める、性別・年齢・障害の有無を問わずすべての人が利用できる公共のオープンスペースの割合を測る指標であり、都市や人間居住の問題を専門的に扱う国連の機関が算出を担うとされる。もう一つは、公共空間において身体的または性的な嫌がらせを受けた人の割合を、住民調査によって測る指標である。前者は地図と土地利用データにもとづく空間的な指標であり、後者は住民への聞き取りにもとづく主観的な経験の指標である、という性格の違いがある。
| 項目 | 指標11.7.1(面積割合) | 指標11.7.2(嫌がらせ被害割合) |
|---|---|---|
| 何を測るか | 建成区域に占める、すべての人が利用できる公共オープンスペースの割合 | 公共空間で身体的・性的な嫌がらせを受けた人の割合 |
| データの性格 | 地図・土地利用にもとづく面積の計測 | 住民調査にもとづく主観的な経験の申告 |
| 算出の主体 | 都市計画・地理空間データを扱う専門部局や機関 | 国ごとの統計機関による調査が前提 |
| 磐田市データでの現状 | 当サイトは公園ごとの面積は持つが、市全体の建成区域の面積は持たず算出できない | 当サイトは利用者調査を行っておらず、算出の材料がない |
4.1 面積割合という指標が測り損なうもの
指標11.7.1が測るのは、あくまで面積の割合である。しかし、面積が同じ割合であっても、その緑地が住民の生活圏にまんべんなく分布しているか、それとも一部の地域に偏って存在するかによって、住民が実際に到達できるかどうかは大きく異なる。都市公園法施行令が誘致距離という「近さ」の基準を別に定めているのは、面積割合だけでは到達可能性を測れないことの表れでもある。また、面積割合という指標は、その公共オープンスペースが実際に安全で心地よい場所として維持されているか、雑草や不法投棄が放置されていないか、といった管理の質を反映しない。数字の上で緑地の割合が高くても、住民がそこを避けているならば、ターゲット11.7が本来意図する「アクセス」は実現していないことになる。
4.2 「安全と感じるか」という指標の難しさ
指標11.7.2が扱う「公共空間での嫌がらせ被害」は、面積のように地図から読み取れる数値ではなく、住民自身の申告に依存する。この種の調査は、対象者の選び方や質問の設計によって結果が大きく変わりうるうえ、磐田市のような一自治体、まして当サイトのような民間の公園データベースが独自に実施できる規模の調査ではない。当サイトは磐田市オープンデータと市施設ガイドの記載にもとづいて公園ごとの設備の有無を収録しているが、そこには「利用者がどう感じたか」という情報は含まれていない。したがって、本稿がこの指標について言えるのは、それが原理的に何を測ろうとしているかという説明にとどまり、磐田市の公園がこの指標において高いか低いかを判断する材料は、当サイトには存在しない。この限界を認めたうえで、指標が測れないものを測れるかのように扱わないことが、次節以降で論じる誠実なローカライズの出発点になる。
4.3 指標があることの意義
指標の限界を並べたからといって、指標そのものの意義が失われるわけではない。指標があることによって、公園という対象を「なんとなく緑があってよい」という漠然とした印象論から引き離し、面積・距離・設備・利用者の属性という具体的な論点に分解して議論できるようになる。分解された論点は、たとえ完全な数値化ができなくとも、行政・地域・当サイトのような民間データベースがそれぞれの持ち場でできる作業を明確にする効果を持つ。指標を万能の物差しとして崇めるのではなく、議論を具体化するための足場として使う、という距離の取り方が、本稿の基本的な立場である。
4.4 指標は固定されたものではない
SDGsの指標体系は、2015年に一度定められて以来、固定されたまま使われ続けているわけではなく、国際的な専門家グループによって定期的に見直しが図られる枠組みとして設計されているとされる。これは、指標の設計自体が発展途上であることの表れであり、現時点で「安全と感じるか」を測る指標11.7.2が住民調査という手間のかかる方法によっているとしても、将来的により扱いやすい代替の測定方法が示される可能性が排除されているわけではない。この見通しは、当サイトのような小規模なデータベースにとって、現時点で算出できない指標を将来にわたって永久に算出できないと結論づける必要はない、という含意を持つ。むしろ、今の時点でできること——面積・種別・地区・設備の記載という基礎情報を正確に整理し、蓄積しておくこと——が、将来指標の測定方法が更新された際に、磐田市の公園について語るための土台になりうると考えられる。
5. 目標3・4・13・15との接続——健康、教育、気候、生態系
目標11のターゲット11.7は単独で完結する目標ではない。緑地や公共空間は、健康、教育、気候、生態系という他の目標とも接点を持つ、複数の目標にまたがる対象である。本節では目標3・4・13・15の四つを取り上げ、それぞれが公園という対象とどう接続するかを検討する。ただし、いずれの接続も「関連づけられる論点がある」という水準にとどめ、因果関係を断定する統計値は挙げない。
5.1 目標3——健康と福祉、そして精神保健
目標3「すべての人に健康と福祉を」のターゲット3.4は、非感染性疾患による早世の減少とともに、精神保健及び福祉の促進を掲げている。屋外で体を動かすことや、緑のある環境で過ごすことが心身の健康と結びつくという研究群があるとされ、公園はこの文脈でしばしば言及される対象である。もっとも、個々の健康状態や運動の可否についての判断は、当サイトが断定できるものではなく、医療機関や関係機関の助言に委ねられるべきものである。本稿が述べられるのは、公園が身体活動や休息の場として位置づけられうるという一般的な見通しまでであり、特定の疾患や年齢層への効果を数値で示すことはしない。
5.2 目標4——教育、とりわけ持続可能な開発のための教育
目標4「質の高い教育をみんなに」のターゲット4.7は、持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development、ESD)の推進を掲げ、環境や文化多様性への理解を学習者が身につけられるようにすることを求めている。公園、とりわけ史跡や遺跡を含む公園は、この文脈で屋外の学びの場となりうる。磐田市の公園には、京見塚公園のように敷地内に京見塚古墳を含む例や、一ノ谷公園のように一ノ谷遺跡を含む例、御殿遺跡公園や遠江国分寺史跡公園のように遺跡そのものを公園として整備した例が、市施設ガイドの記載として確認できる。こうした公園は、遊具のある広場としてだけでなく、地域の歴史に触れる屋外の教材としての側面を持ちうる。ただし、これらの史跡がどの程度、実際に教育的な活動に用いられているかについての情報を当サイトは持たず、この点は今後の踏査課題である。
5.3 目標13——気候変動と緑のインフラ
目標13「気候変動に具体的な対策を」のターゲット13.1は、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)と適応の能力の強化を掲げている。緑地は、樹木の木陰による気温の緩和や、土や芝生による雨水の浸透など、都市の熱や水を和らげる「緑のインフラ」としての役割を担いうるとされる。夏季の熱中症対策としては、環境省が公表する暑さ指数(WBGT)の目安に沿って行動を判断することが推奨されており、公園を利用する際にも木陰の有無や時間帯への配慮が呼びかけられている。また、都市公園は災害時に避難や活動の場として利用されることがある施設であり、磐田市も大雨への備えなど防災に関する情報を発信している。もっとも、磐田市の個々の公園がどの災害区分の避難場所に指定されているかについては、当サイトが収録するデータの範囲を超えるため、本稿では立ち入らない。
5.4 目標15——陸の生態系との接続
目標15「陸の豊かさも守ろう」のターゲット15.9は、生態系及び生物多様性の価値を、国や地方の計画策定、開発プロセスに組み込むことを掲げている。都市の中の公園や緑地は、樹木や草地、水路とともに、鳥や昆虫といった生きものが行き来する小さな拠点となりうるという考え方があり、都市の生態系をつなぐ「緑のネットワーク」という発想で語られることがある。磐田市の公園には、竜洋昆虫自然観察公園のように名称からして自然観察を意図した公園も含まれる。ただし、個々の公園にどのような生きものが実際に生息しているかという情報は、当サイトが収録するオープンデータや施設ガイドの範囲には含まれておらず、この点も今後の踏査や専門分野との連携を要する課題として残される。
5.5 目標間には支え合いだけでなく緊張もありうる
健康・教育・気候・生態系という四つの目標は、いずれも緑地の存在を肯定的に支える方向で語られやすいが、それぞれの目標が求める具体的な設計は、常に一致するとは限らない。たとえば、目標13や目標15が重視する樹木の多さは、木陰や生きものの拠点としては望ましい一方、第3節で触れた「安全」——見通しの確保という意味での安全——とは緊張関係に立つことがある。また、目標4が期待する史跡の保全と、目標3が期待する身体を動かす広場の確保も、限られた敷地面積の中では優先順位の調整を要することがある。本稿はこれらの緊張関係について、どちらを優先すべきかという結論を示す立場にはない。むしろ、複数の目標を同時に満たそうとするとき、単純な足し算では済まない調整が必要になるという事実そのものを、公園という具体的な対象を通して確認しておきたい。
6. ローカライズの困難——国際目標を磐田市の公園行政に翻訳する
SDGsは国連加盟国が採択した国際的な合意であり、各国政府がまず責任を負う枠組みである。しかし、緑地や公共空間の整備・管理を実際に担うのは、多くの場合、都道府県や市町村といった基礎自治体であり、磐田市であれば都市整備課がその窓口にあたる。国際的な目標や指標を、個々の自治体が実行できる施策や基準へと具体化していく作業は、しばしば「ローカライズ」と呼ばれる。本節では、ターゲット11.7を磐田市の公園行政へローカライズしようとするとき、どのような困難に直面するかを検討する。
6.1 指標の分母が地方には存在しないという問題
第4節で見たように、指標11.7.1は都市の建成区域という分母に対する公共オープンスペースの割合を測る。この分母となる「建成区域の面積」は、都市計画区域や用途地域の指定など、専門的な土地利用データを要する数値であり、当サイトのような公園単体のデータベースが独自に算出できるものではない。磐田市全体としてこの数値を算出しているかどうかについても、当サイトは確認できる立場になく、本稿ではこの点を断定しない。国際指標をそのまま地方自治体に当てはめようとすると、多くの場合、分母となる基礎データの整備という、指標そのものとは別の作業が先に必要になる。これがローカライズの第一の困難である。
6.2 地区ごとの偏りをどう読むか——磐田市9地区の公園数
「誰一人取り残さない」という理念を地方自治体の単位で考えるとき、まず目につくのは地区ごとの偏りである。磐田市を9地区に分けた場合の公園数は、磐田市オープンデータにもとづく当サイトの集計で、見付21園、中泉14園、御厨13園、豊田28園、南部2園、向陽2園、竜洋13園、福田4園、豊岡3園である。豊田地区や見付地区に公園数が多い一方、南部・向陽地区は2園にとどまり、地区ごとの差は大きい。ただし、この差がそのまま住民一人あたりの緑地アクセスの差を意味するわけではない。各地区の人口や面積、住宅の密度といった分母となる情報を当サイトは持たないため、公園数の多寡だけから「南部・向陽地区は取り残されている」と断定することはできない。公園数という分子と、人口や面積という分母をあわせて検討することが、地区ごとの公平性を論じるための次の課題になる。
6.3 バリアフリー設備という代理指標の可能性と限界
指標11.7.1・11.7.2をそのまま算出できないとしても、既存のデータから「代理指標」となりうる情報を取り出すことは可能である。磐田市オープンデータの94行の集計では、車いす対応トイレの記載がある公園は34園、トイレの記載がある公園は69園、砂場は43園、遊具は64園である。こうした設備の有無の集計は、指標11.7.1が意図する「すべての人が利用できる」という条件の一部——少なくとも車いす利用者にとっての最低限の環境が整っているかどうか——を、大まかに代理できる可能性がある。ただし、トイレや遊具が「有る」という記載は、それが実際に使いやすい状態で維持されているかまでは保証しない。代理指標は、本来測りたいものの一部を映す鏡にすぎず、鏡そのものを目的化してはならないという注意が必要である。この論点は、次節で論じるグッドハートの法則の警告と直結する。
6.4 民間データベースが担いうる役割と、担えない役割
当サイトのような民間の公園データベースは、自治体が持つ公式統計の代わりにはなれないが、公開されたオープンデータや施設ガイドの記載を整理し、地区ごと・種別ごとに一覧化するという作業自体には意味がある。これは、指標を算出する作業ではなく、指標を算出するために必要な基礎情報を、誰もが参照できる形に整える作業である。ローカライズの困難の一部は、国際目標と地方自治体の間に立つ、こうした基礎情報の整理役の不在によって生じているとも考えられる。ただし、整理された情報がそのまま「達成度」を意味するわけではないことは、繰り返し確認しておく必要がある。
6.5 他の自治体との比較を安易に行わない理由
ローカライズを論じる際にしばしば求められるのが、「他の自治体はどこまで進んでいるか」という比較である。しかし、本稿はこの比較を行わない。理由は単純で、他の自治体が指標11.7.1・11.7.2をどのような方法と精度で算出しているか、あるいはそもそも算出しているかどうかについて、当サイトが確認できる確実な情報を持たないからである。確認していない数値をもとに「磐田市は進んでいる」「遅れている」と論じることは、本稿が第一に避けるべき捏造や誤情報の一種にほかならない。ローカライズの検討は、まず自らの手元にある確かなデータ——磐田市オープンデータと市施設ガイドの記載——の範囲を正確に見極めることから始めるべきであり、根拠のない比較によって議論を先取りしないことが、地に足のついたローカライズの第一歩であると本稿は考える。
7. 指標に合わせて事業をつくる本末転倒——グッドハートの法則の警告
指標を整えることには意義がある一方で、指標そのものが独り歩きし始める危険がある。経済学者チャールズ・グッドハートが1975年ごろの指摘に由来するとされる経験則は、しばしば「ある基準が目標に転じるとき、それはよい基準でなくなる」という言い回しで知られ、「グッドハートの法則」と呼ばれる。もともとは金融政策の文脈で語られた指摘であるが、今日では、教育・医療・行政評価など、数値目標が設定されるあらゆる領域で参照される警句となっている。本節では、この法則を公園行政とSDGsの関係に当てはめて検討する。
7.1 「量」を増やすことと「質」を上げることの違い
たとえば、車いす対応トイレの設置数を増やすことが自治体の目標に掲げられたとする。この目標自体は望ましいものであるが、目標が「設置数」という量的な指標に一本化されると、既存のトイレの一部を車いす対応に改修する際の使い勝手や、実際に車いす利用者が利用しやすい動線までは配慮されないまま、数だけが積み上がっていく可能性がある。あるいは、インクルーシブ遊具を「導入した公園の数」が指標化されると、地域の障害のある子どもや保護者の声を聞かずに、他の自治体の事例を模倣した遊具を一つ設置するだけで目標が達成されたことになりかねない。量的な指標は進捗を可視化する上で有用だが、それ自体が目的化すると、指標が本来代理しようとしていた「質」——利用者にとっての使いやすさや、包摂の実感——から離れてしまう。
7.2 データベースを作ることそのものが目的化する危険
この警告は、当サイトのような公園データベースの活動自体にも向けられるべきものである。100園の面積・種別・地区・設備の有無を収録し、一覧化することは、それ自体としては有用な基礎作業であるが、収録した項目の数や公園の数を増やすことだけが自己目的化すれば、当サイトもまた指標に合わせて事業をつくる本末転倒に陥りかねない。当サイトの現地踏査(フィールドワーク)が始まっていないことは、繰り返し述べてきた限界であるが、この限界を隠さずに明示すること自体が、グッドハートの法則への一つの対抗手段である。踏査によって初めて得られる、遊具の実際の状態や、木陰の有無、利用者の様子といった情報を、既存のオープンデータの集計だけで代替できるかのように装わないことが重要である。
7.3 それでも指標を手放さない理由
グッドハートの法則は、指標を持つこと自体を否定する主張ではない。むしろ、指標がどのような限界を持つかを自覚したうえで使い続けることの重要性を説く警句として読むべきである。磐田市の公園行政や、当サイトのような民間の取り組みにとって、指標をまったく持たなければ、そもそも何が課題であるかを共有する言葉すら持てなくなる。重要なのは、単一の指標——たとえば設備の設置数——だけに頼らず、複数の情報源(オープンデータ、施設ガイドの記載、そして今後の踏査で得られる現地の情報)を組み合わせ、数字が上がったこと自体を成果として祝うのではなく、数字の向こうにいる利用者の体験に立ち返り続ける姿勢である。
7.4 「測れないものは存在しない」という誤りを避ける
グッドハートの法則と対をなす、もう一つの陥りやすい誤りがある。それは、指標として測定できないものを、あたかも存在しないもの、あるいは重要でないものとして扱ってしまう態度である。利用者が公園で感じる居心地のよさや、ふと生まれる立ち話、子どもが遊具を通じて得る達成感は、いずれも数値化が難しいという理由で、指標11.7.1のような面積割合の議論からはこぼれ落ちる。しかし、こぼれ落ちることと、価値がないことは同じではない。本稿が指標の限界を繰り返し指摘してきたのは、指標を軽視するためではなく、指標が拾い切れない価値がなお公園には存在するという当たり前の事実を、数値化の議論の陰に埋もれさせないためである。当サイトの踏査がいずれ担うべき役割の一つも、この数値化しにくい価値を、記録という別の形で拾い上げていくことにあると考えられる。
8. 反論と比較——SDGsは公園行政に何をもたらすか、もたらさないか
ここまでSDGsのターゲット11.7を手がかりに公園を論じてきたが、有力な反論も想定できる。すなわち、SDGsは法的な拘束力を持たない自主的な目標にすぎず、都市公園法のような国内法がすでに面積や誘致距離の基準を定めている以上、屋根に17色のバッジを掲げるだけの「SDGsウォッシュ」——実質を伴わない看板の掛け替え——にとどまるのではないか、という反論である。本節ではこの反論を検討したうえで、SDGsという国際的な枠組みが国内法とは異なる形で持ちうる意義を、比較を通じて考える。
8.1 「看板の掛け替え」という反論の妥当性
この反論には一定の妥当性がある。SDGsのターゲットや指標には、国内法のような強制力も罰則もなく、目標に届かなくても直接の法的責任は生じない。また、17色のロゴを掲げること自体は容易であり、実質的な施策を伴わずに「対応している」と見せることも、理論上は可能である。この意味で、SDGsが自動的に公園行政を改善するという楽観はできない。しかし、この反論をもって「SDGsは無意味である」と結論づけるのは早計である。次に、SDGsが国内法とは異なる形でもたらしうる価値を、都市公園法との比較から考える。
8.2 都市公園法との比較——空間の基準と属性の視点
都市公園法及びその施行令は、街区公園の誘致距離250m・面積0.25haのように、主に空間的な基準によって公園の配置を規律してきた。この基準は全国一律に適用され、実務上の明確さという利点を持つ。一方で、この基準の文言自体は、利用者が女性であるか男性であるか、高齢者であるか障害者であるかを明示的に区別しない。区別しないことは、形式的な平等という意味では長所でもあるが、実際には特定の属性の利用者が結果として利用しにくい状況——たとえば段差の多い園路が車いす利用者を、見通しの悪い植栽が夜間の女性利用者を、遠ざけている状況——を見えにくくする面もある。ターゲット11.7が女性・子ども・高齢者・障害者を名指しで挙げたことは、空間の基準だけでは拾いきれない、属性ごとの利用しやすさの差という論点を、明示的に議論の俎上に載せる効果を持つと考えられる。
| 比較の観点 | 都市公園法・施行令(国内法) | SDGsターゲット11.7(国際目標) |
|---|---|---|
| 拘束力 | 法令として拘束力を持つ | 拘束力を持たない自主的な目標 |
| 基準の中心 | 面積・誘致距離という空間的基準 | 安全・包摂的・利用しやすい・普遍的という利用者視点の基準 |
| 属性への言及 | 利用者の属性を明示的には区別しない | 女性・子ども・高齢者・障害者を名指しで挙げる |
| 対象範囲 | 日本国内の都市公園 | 全世界の緑地・公共空間(先進国を含む) |
8.3 補完関係として理解する
以上を踏まえると、SDGsと国内法は対立する二つの選択肢ではなく、補い合う関係として理解するのが妥当である。都市公園法が定める空間的な基準は、公園という制度の骨格を全国一律に支える役割を担い続ける。その骨格の上に、SDGsのターゲット11.7が持ち込む「誰にとっての利用しやすさか」という視点を重ねることで、既存の基準だけでは見えにくかった論点——地区ごとの偏り、バリアフリー設備の状況、利用者の属性による経験の違い——を掘り起こすことができる。SDGsを「看板」で終わらせないためには、この掘り起こしの作業を、当サイトのような民間の取り組みを含む地域の複数の主体が、それぞれの持ち場で継続することが求められる。
8.4 十七の目標の中での優先順位づけという政治的判断
もう一つ想定される反論は、限られた予算と人員を持つ基礎自治体が、17の目標すべてに等しく取り組むことは現実的ではなく、公園という一分野にどこまでの優先順位を割けるかは、他の行政課題との兼ね合いで決まる、というものである。この反論も妥当である。SDGsは17の目標に優先順位をつけていないため、実際にどの目標にどれだけの資源を配分するかは、各自治体の政治的・行政的な判断に委ねられている。本稿は、公園行政が他の行政課題より優先されるべきだと主張するものではない。ここで確認しておきたいのは、優先順位づけという政治的判断そのものは、SDGsの枠組みでは意図的に地方に委ねられているという事実であり、ターゲット11.7の存在は、公園という論点を優先順位の議論の俎上に載せるための一つの根拠を提供するにとどまる、という限定的な理解である。
9. 磐田市の公園100園への示唆
本節では、ここまでの検討を、磐田市の都市公園100園という具体的な対象に照らして整理する。当サイトが収録する100園は、磐田市オープンデータ「都市公園一覧」94行と、市施設ガイドのみに掲載のある6園を合わせたものであり、種別は都市公園法にもとづく街区公園51園、近隣公園14園、都市緑地10園、地区公園4園、総合公園3園、運動公園3園、風致公園3園、広場公園2園、緑道2園、墓園1園、歴史公園1園、及び法対象外6園に分かれる。次の表に、種別ごとの園数と、国土交通省が示す誘致距離・規模の目安をあわせて示す。
| 種別 | 磐田市の園数 | 誘致距離・規模の目安(都市公園法施行令・国交省標準) |
|---|---|---|
| 街区公園 | 51園 | 誘致距離250m・面積の目安0.25ha |
| 近隣公園 | 14園 | 誘致距離500m・面積の目安2ha |
| 地区公園 | 4園 | 誘致距離1km・面積の目安4ha |
| 総合公園 | 3園 | 10〜50ha(規模の目安) |
| 運動公園 | 3園 | 15〜75ha(規模の目安) |
| 風致公園・歴史公園・墓園(特殊公園) | 計5園 | 規模の定めなし |
| 都市緑地 | 10園 | 0.1ha〜 |
| 広場公園・緑道・法対象外 | 計10園 | 都市公園法上の特殊な扱い、または法対象外 |
ターゲット11.7の「普遍的アクセス」という観点からは、100園のうち過半数を占める街区公園51園が、誘致距離250mという最も身近な単位で住民に接する公園群であることが重要である。9地区への分布は、見付21園、中泉14園、御厨13園、豊田28園、南部2園、向陽2園、竜洋13園、福田4園、豊岡3園であり、この分布と各地区の人口・住宅密度をあわせて検討することが、第6節で述べた地区ごとの公平性を具体的に論じる次の一歩になる。ただし、当サイトは各地区の人口データを持たないため、本稿の段階ではこの一歩を踏み出すことはできない。
9.1 「包摂的」の具体例としてのインクルーシブ遊具
第3節で述べたインクルーシブ遊具の考え方は、磐田市の公園にもすでに一部見られる。市施設ガイドの記載によれば、御厨地区の安久路公園には、インクルーシブエリアを含む複合遊具と、インクルーシブアイテムを含むブランコが設置されている。安久路公園は地区公園として32,001㎡の面積を持ち、車いす対応トイレも備える。こうした設備は、ターゲット11.7が掲げる「障害者への配慮」を、磐田市の公園行政がすでに一部実践していることを示す具体例として位置づけられる。もっとも、こうした設備が実際にどの程度使われ、どのような利用者にとって役立っているかについては、当サイトの現地踏査を通じて今後確かめるべき論点である。
9.2 バリアフリーと多世代——今之浦公園の例
見付地区の今之浦公園は近隣公園として13,675㎡の面積を持ち、市施設ガイドの記載によれば、屋根付広場や複合遊具、ふわふわ遊具、噴水広場、芝生広場に加えて3歳未満児遊具を含む「遊びと賑わいのゾーン」と、健康遊具やじゃぶじゃぶスポットを含む「憩いとふれあいゾーン」の二つの区域を持つとされる。この構成は、乳幼児から健康づくりを目的とする高齢者まで、幅広い年齢層の利用を想定した配置と読むことができ、ターゲット11.7が挙げる「子ども」と「高齢者」の双方に接点を持つ公園の一例といえる。トイレは車いす対応トイレを含めて設けられているとの記載もあり、駐車場も有りとされる。ただし、これらの設備が実際にどの程度、多様な利用者にとって使いやすい状態にあるかは、当サイトの記載からは判断できず、踏査課題として残る。
9.3 「取り残されやすい」条件を推測することの慎重さ
磐田市オープンデータの94行の集計では、トイレの記載がある公園は69園、車いす対応トイレの記載がある公園は34園、砂場は43園、遊具は64園であり、駐車場は33園にとどまる。この集計だけを見れば、トイレや車いす対応トイレの記載がない公園、あるいは面積の小さい都市緑地——たとえば17㎡の二之宮東第2緑地のような区画——は、ターゲット11.7の「普遍的アクセス」という観点から見て相対的に条件が厳しいと推測することもできる。しかし、面積の小さい緑地がすべて「取り残された」場所であるとは限らず、周辺により大きな公園があれば、小さな緑地はむしろ通り道や休憩の一点として別の役割を果たしている可能性もある。当サイトの踏査済(L2)は本稿執筆時点でゼロ園であり、こうした推測を確かな評価に変えるには、今後の現地踏査によって個々の公園の実態を確かめる必要がある。
9.4 駐車場の有無という、もう一つのアクセスの論点
第3節で述べた「利用しやすい」には、徒歩での近さだけでなく、車での到達可能性という論点も含まれうる。磐田市のような自動車移動の比重が大きい地方都市では、駐車場の有無が、遠方に住む家族や、徒歩・自転車での移動が難しい高齢者・障害者にとってのアクセスを大きく左右する。当サイトの集計では、市施設ガイドに「有り」等の記載がある、または当サイトが有と判定した駐車場を持つ公園は33園であり、100園の三分の一程度にとどまる。街区公園の多くは駐車場の記載を持たない一方、竜洋海洋公園や中央公園、安久路公園のように面積の大きい総合公園・地区公園には駐車場の記載があることが多い。これは、徒歩圏の住民を主な対象とする街区公園と、より広い地域から車で訪れることを想定した大規模公園とで、想定されるアクセス手段そのものが異なることを示している。ターゲット11.7の「普遍的アクセス」を検討する際には、徒歩でのアクセスと車でのアクセスという、二つの異なる到達手段をあわせて考える必要があるが、いずれの手段を重視するかによって、同じ100園のデータからでも「アクセスしやすい公園」の顔ぶれは変わってくる。
10. 結論と今後の課題
本稿は、SDGsの目標11のターゲット11.7を手がかりに、公園という身近な公共空間を検討してきた。ターゲット11.7が並べる「安全」「包摂的」「利用しやすい」「普遍的なアクセス」という四つの形容は、日本の都市公園法が主に面積と誘致距離という空間的な基準で語ってきた公園整備に、女性・子ども・高齢者・障害者という利用者の属性の視点を明示的に持ち込む点に意義があると見通された。この意義は、都市公園法を置き換えるものではなく、その骨格の上に重ねられるべき視点として理解するのが妥当である。
一方で、ターゲット11.7に対応する二つの指標——建成区域に占める公共オープンスペースの割合を測る指標と、公共空間での嫌がらせ被害の割合を測る指標——は、いずれも磐田市のような一自治体、まして当サイトのような民間の公園データベースが単独で算出できるものではなかった。国際目標を地方自治体の施策へ翻訳する「ローカライズ」には、分母となる基礎データの不足という、指標そのものとは別の困難が伴うことが確認された。
10.1 グッドハートの法則への応答として
本稿はまた、指標に事業を合わせてしまう本末転倒——グッドハートの法則が警告する事態——への警戒を論じた。設備の設置数のような量的な指標は有用であるが、それ自体が目的化すれば、指標が本来代理しようとしていた利用者の体感や包摂の実感から離れてしまう。この警戒は、行政や事業者だけでなく、当サイトのような民間の公園データベースの活動そのものにも向けられるべきものであり、収録する公園の数や項目の数を増やすことだけを自己目的化しないという自戒として、本稿は受け止めている。
10.2 磐田市の公園への示唆のまとめ
磐田市の公園100園については、9地区への分布に偏りがあること、安久路公園のようにインクルーシブ遊具を備える例や、今之浦公園のように多世代の利用を想定した区域構成を持つ例がすでに存在すること、そして磐田市オープンデータの集計からバリアフリー設備の記載状況を大まかに把握できることを示した。同時に、これらの記載がそのまま利用者にとっての実際の使いやすさを保証するものではなく、地区ごとの人口という分母の情報や、利用者自身の声が欠けていることも確認した。
10.3 今後の課題
今後の課題は主に三つである。第一に、当サイトの現地踏査を通じて、遊具の実際の状態、木陰やベンチの配置、園路の段差の有無など、指標や記載だけでは分からない情報を積み重ねることである。第二に、磐田市の地区別人口や世帯構成といった分母の情報が得られた場合に、公園数や設備の記載状況とあわせて、地区ごとの公平性をより具体的に検討することである。第三に、本稿が留保した利用者の体感や排除の実態については、発達心理学、ジェンダー研究、障害学、老年学など、当シリーズの他の論考が扱う視点との接続を通じて、今後さらに掘り下げていく必要がある。SDGsという国際的な言葉を、磐田市という具体的な場所の言葉へと丁寧に翻訳し続けること、そしてその翻訳の過程で指標そのものを目的化しないこと——この二つを両立させることが、本稿の結論であり、今後も続く課題である。
最後に、本稿の限界を重ねて述べておく。本稿は文献整理と概念分析にとどまり、磐田市の住民に対する調査や、公園の現地踏査にもとづく評価は行っていない。したがって、本稿が示した磐田市の公園100園への示唆は、ターゲット11.7という国際目標を読み解くための一つの見通しであって、確定した評価ではない。当サイトが今後、踏査を積み重ね、地区別人口などの分母となる情報を得ていく過程で、本稿が留保した論点の多くは、より具体的な形で検証し直されるべきものである。本稿はその検証に先立つ、概念の整理としての役割を果たすことを目指した。
参考文献
- 国連総会決議 A/RES/70/1「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2015年9月)
- 都市公園法(昭和31年法律第79号)・都市公園法施行令(国土交通省 都市公園のページ)
- 国土交通省「都市公園における遊具の安全確保に関する指針(改訂第3版)」(令和6年6月)
- 環境省「熱中症予防情報サイト」
- 厚生労働省「熱中症を防ごう」
- 磐田市「大雨への備え」(防災・安全のページ)
- チャールズ・グッドハート「グッドハートの法則」(1975年の指摘に由来するとされる経験則)
- フレデリック・ロー・オルムステッド(1870)「公共の公園と町の拡張(Public Parks and the Enlargement of Towns)」
- エベネザー・ハワード(1898)『明日の田園都市(Garden Cities of To-morrow)』
- ジェイン・ジェイコブズ(1961)『アメリカ大都市の死と生』(山形浩生訳、鹿島出版会、2010)
- 磐田市オープンデータ「都市公園一覧」(CC BY 3.0・出典:磐田市)
- 磐田市 施設ガイド(公園)
本稿は ATAWI PARK 編集部による総説的な論考であり、学会誌等の査読を経た学術論文ではありません。引用は広く知られた著作・公的資料に限り、磐田市固有の事実は当サイトのデータベースと磐田市の公開情報にもとづきます。個々の公園の設備・状態は現地でご確認ください。医療・安全に関する判断は医療機関・関係機関の指示を優先してください。