自然科学・環境哺乳類学

夜の公園にいるもの——都市の哺乳類とコウモリ・タヌキ・ネコ

富士ヶ丘サービス株式会社 大石浩之

学問領域:哺乳類学 公開・更新 2026-08-17 本文 約20,740字 読了目安 38分

要旨

本稿の目的は、哺乳類学の基礎概念——食性、行動圏、夜行性と薄明薄暮性、そして人の暮らしに寄り添って生きる動物を指すシナントロープという考え方——を用いて、都市公園を「哺乳類にとっての場所」として読み直すことである。方法は文献整理と概念分析であり、公園という対象そのものに関する哺乳類の学術研究が乏しいことを前提に、都市に暮らす哺乳類一般について明らかにされてきた知見を、公園という緑地の一類型に当てはめる形で検討を進める。

検討の結果、次の点が示される。第一に、都市の哺乳類の多くは人と生活時間そのものをずらすことで共存しており、そのために人の目にはほとんど入らないこと。第二に、都市に適応できる種とできない種を分けるのは、食性の幅広さ、行動の柔軟さ、人への警戒心の強さといった性質であり、飛翔性のコウモリ類と地上性の中型哺乳類ではその適応の様式が異なること。第三に、人が意図的・非意図的に与える食物は、個体の行動や個体群の分布を変える強い力を持ち、飼い猫・ノラ猫と野生動物の関係はとりわけ判断の難しい論点として残ること。第四に、これらの軋轢の多くは、生ごみの管理や餌やりをしないという生活習慣の水準で予防でき、そこに法制度が一定の枠組みを与えていること。

最後に、磐田市の都市公園100園を哺乳類学の目で読み、面積や植生、水辺との位置関係から緑地としての条件を整理する。ただし当サイトのデータには哺乳類の生息記録が含まれておらず、特定の公園の生息記録は本稿では一切書かない。哺乳類の目で公園を見る作業は、今後の踏査と関係機関の知見に開かれた課題として残されている。

キーワードシナントロープ行動圏薄明薄暮性餌付け都市生態学外来生物哺乳類学

1. はじめに——問題の所在

昼の公園と夜の公園は、同じ場所でありながら利用者がまったく違う。日中はブランコで遊ぶ子どもや散歩をする家族の場所であるが、日が沈んで人の姿が消えたあと、その同じ空間を別の生き物たちが通り過ぎていく。植え込みの下を抜けるもの、木立の間を飛び交うもの、フェンスの隙間から出入りするもの——それらの多くは哺乳類である。哺乳類は、鳥や虫と違って昼間の公園ではほとんど姿を見せない。夜行性であること、人を警戒すること、体の大きさに比して物陰に隠れる技術に長けていることが重なり、公園に暮らしていても気づかれにくいのである。

この「気づかれにくさ」を、体系立てて説明できる学問が哺乳類学である。哺乳類学は哺乳綱に属する動物の分類・形態・生理・行動・生態を扱う動物学の一分野であり、そのなかには、森や高山に暮らす種だけでなく、人の生活圏のすぐそばに暮らす種を対象とする研究の蓄積もある。都市に暮らす哺乳類は、姿を見せる機会こそ少ないが、都市という環境条件のもとでどのように食べ、どこを移動し、いつ活動するかについて、一般的な傾向が明らかにされてきた。本稿はその一般的な知見を、都市公園という一つの場所類型に当てはめて整理する試みである。

都市の哺乳類を論じる意義は、単に珍しい生き物を発見することにあるのではない。むしろ、人が自らの生活のためにつくった空間が、意図せずして別の生き物の生活の場にもなっているという事実そのものに意義がある。道路、住宅、公園という人の都合で配置された環境の断片を、哺乳類は独自の論理で読み替え、移動路や休息場所、食物を得る場所として利用している。この読み替えの仕組みを知ることは、公園という空間が人だけのものではないという、当たり前でありながら見落とされがちな認識を取り戻す作業でもある。

ただし、ここで最初に断っておかねばならないことがある。当サイト(ATAWI PARK)が扱う磐田市の都市公園100園のデータは、市のオープンデータ「都市公園一覧」を土台としており、そこに記録されているのは名称・種別・面積、そしてトイレ・砂場・遊具の有無といった、公園を人の施設として捉えた事実である。哺乳類の生息記録はいっさい含まれておらず、当サイトの現地踏査もまだ始まったばかりで、どの公園にどんな哺乳類が暮らしているかを当サイトは把握していない。したがって本稿は、特定の公園における生息記録を一切書かない。書けるのは、哺乳類学が都市の哺乳類について一般に明らかにしてきたことと、それを公園という場所に当てはめたときにどこまで言えるか、という範囲にとどまる。

人のまち見えない隣人
図1夜の公園には昼とは別の利用者がいる。人の施設として記録された公園を、哺乳類学の目で読み直すのが本稿の出発点である。

1.1 本稿の問い

本稿の問いは三つある。第一に、都市という人工的な環境に、どのような哺乳類が棲みつき、どのような哺乳類が姿を消していくのか。その違いを分ける条件は何か。第二に、都市の哺乳類の多くが夜行性ないし薄明薄暮性であることは、公園を利用する人の生活時間とどのような関係にあるのか。なぜ多くの人は、身近な公園に哺乳類が暮らしていることに気づかずに過ごせるのか。第三に、人が意図せず、あるいは意図して与える食べ物は、哺乳類の行動や個体群にどのような影響を及ぼすのか。とりわけ、飼い猫やノラ猫という、野生動物でありながら人と極めて近い関係にある動物を、公園という場所でどう考えればよいのか。

これら三つの問いは、それぞれ「種の側」「時間の側」「人との関係の側」から公園を見る問いである。哺乳類学は本来、動物の側から世界を見る学問であるが、都市に暮らす哺乳類を論じる以上、人の暮らしと切り離しては成立しない。人が出す生ごみ、人が管理する植栽、人が敷く舗装、人が飼う動物のすべてが、都市の哺乳類の暮らしを直接に形づくっているからである。公園は、緑地でありながら人の利用が最も密な場所の一つであり、三つの問いを同時に考えるのに適した対象と言える。

1.2 方法と構成

方法は文献整理と概念分析である。行動圏や食性といった哺乳類学の基礎概念を定義した古典的な研究、都市に暮らす肉食性哺乳類やコウモリ類に関する研究、そして人が動物に与える食物の生態学的な影響を扱った研究を手がかりに、概念を整理し、公園という場所に当てはめる。数値については、法令や省庁の指針に明記のあるものを除き、具体的な割合や個体数を挙げることを避け、「〜とされる」「〜という研究群がある」という書き方にとどめる。野生動物との接触や健康に関わる事柄は断定せず、判断は保健所や動物病院、自治体の担当部署といった関係機関に委ねる。

構成は次のとおりである。第2節で哺乳類学の基礎概念——食性、行動圏、シナントロープ——を整理する。第3節で都市の哺乳類が夜行性・薄明薄暮性であることと、人との生活時間のずれを論じ、第4節で都市に適応できる種の条件を検討する。第5節では飛翔性という特殊な適応様式を持つコウモリ類を扱い、第6節で地上性の中型哺乳類の代表としてタヌキを取り上げる。第7節で餌付けが行動を変える機構を論じ、第8節では飼い猫・ノラ猫と野生動物の関係という難しい論点を扱う。第9節で軋轢の予防と法制度の役割を整理し、第10節では磐田市の公園100園への示唆を、当サイトの手元にある事実の範囲で述べる。第11節は結論と今後の課題である。読者としては、磐田市周辺の子育て世代、行政や地域の関係者、そして公園や身近な自然に関心を持つ学生を想定している。

2. 先行研究と概念の整理——食性・行動圏・シナントロープ

哺乳類の暮らしを理解するうえで基礎となる概念の一つが食性である。哺乳類は食べるものによって大きく、植物だけを食べる植食性、他の動物を食べる肉食性、そしてその両方を食べる雑食性に分けられる。この分類は固定的なものではなく、同じ種であっても地域や季節によって食べるものの幅が変わることが知られている。とりわけ雑食性の種は、季節ごとに手に入りやすい食物へ切り替える柔軟さを持ち、この柔軟さこそが、のちに述べる都市への適応のしやすさと深く関わってくる。

もう一つの基礎概念が行動圏(ホームレンジ)である。行動圏とは、一頭ないし一群の個体が採餌・休息・繁殖といった日常の活動のために利用する範囲を指す。この概念を最初に整理し、なわばり(テリトリー、他個体を排除して防衛する範囲)と行動圏(必ずしも排他的ではない利用範囲)を区別したのは、アメリカの哺乳類学者バートンW・バートが1943年に発表した論文であり、以来、哺乳類の生態を論じるうえでの基本語彙として定着している。行動圏の大きさは種によって大きく異なり、体が大きく肉食性であるほど広い行動圏を必要とする傾向があるとされる。都市という環境で哺乳類が暮らせるかどうかは、その種が必要とする行動圏の大きさを、緑地の広さと配置がどこまで満たせるかという問題として整理できる。

2.1 シナントロープという概念

都市の生き物を論じるうえで欠かせないのが、シナントロープ(synanthrope)という考え方である。これは「人とともに」を意味する語に由来し、人の生活圏に依存し、あるいは人の生活圏を積極的に利用して暮らす生物種を指す。都市生態学の研究では、都市に暮らす生物を、都市の環境にほとんど依存せず利用するにとどまる都市利用種、都市の環境に積極的に依存し個体数を増やす都市適応種、そして都市化によって姿を消していく都市回避種という三つの群に分けて論じることが一般的である。この三区分は鳥類の研究でも用いられているが、哺乳類においても同じ枠組みが有効であるとされる。

区分都市との関係哺乳類での典型例(一般論)
都市利用種都市の環境をあまり選ばず利用するハツカネズミ、ドブネズミなどの家住性の小型齧歯類
都市適応種都市の環境に積極的に依存し個体数を増やすタヌキ、ハクビシンなど雑食性で行動が柔軟な中型獣
都市回避種都市化とともに姿を消していくニホンジカ、ツキノワグマなど広い行動圏を要する森林性の大型獣

この分類で注意すべきは、都市利用種・都市適応種にあたる動物の多くが、もともと人の食料や住居に依存する形で分布を広げてきた家住性の小型齧歯類であり、人の生活と切り離せない歴史を持つ点である。一方、タヌキやハクビシンのように、本来は森林や里山を主な生息地としながら都市の緑地にも入り込むようになった中型の食肉目の動物は、都市化がある程度進んだ地域で個体数を増やす例が国内外の研究で報告されているとされる。ただし、この報告は地域や年代によって差があり、どの都市のどの緑地でも一様に見られる現象ではないことにも注意が必要である。

行動圏生息環境概念の整理
図2食性・行動圏・シナントロープという三つの概念は、都市の哺乳類を読み解くための基本的な道具である。

2.2 都市の哺乳類研究の広がり

都市の哺乳類、とりわけ都市の食肉目(イヌ科・ネコ科・イタチ科などを含む分類群)に関する研究は、北米やヨーロッパの都市を対象に蓄積されてきた。アメリカの哺乳類学者たちがまとめた『Urban Carnivores』という書物は、コヨーテやアライグマ、キツネといった都市に暮らす食肉目の生態と、それが人との間に生む軋轢、そして保全上の課題を横断的に整理した研究群の到達点として知られる。また、都市化と食肉目の関係を概観したベイトマンとフレミングの2012年の総説論文は、都市に適応する食肉目に共通する性質として、食性の幅の広さ、活動時間の柔軟さ、そして人への警戒心の弱さを挙げている。これらの知見は、そのまま日本の都市に暮らすタヌキやハクビシンにも一定程度当てはまると考えられている。

日本国内では、哺乳類の分類と分布を体系的にまとめた『日本の哺乳類』のような基礎的な図鑑・総説が、種の同定や生態の基本情報を提供する土台となっている。都市の緑地に暮らす哺乳類そのものを主題とした研究は、鳥類や昆虫に比べるとまだ層が薄く、公園という場所に限定した研究はさらに限られる。本稿が特定の公園の生息記録を書かないのは、当サイトの踏査がこれからであるという事情に加え、そもそも公園単位での哺乳類の記録が学術的にも希少であるという事情も背景にある。だからこそ、一般的な概念を丁寧に整理し、公園という場所に慎重に当てはめる作業に意味があると考える。

2.3 都市化勾配という視点

都市生態学では、しばしば都市化勾配という考え方が用いられる。これは都市の中心部から郊外、さらに農地や森林へと、人工的な土地利用の密度が連続的に変化していく様子を一本の軸として捉え、その軸に沿って生物相がどのように移り変わるかを分析する手法である。哺乳類についても、都市の中心部に近いほど都市適応種の占める割合が高まり、郊外や緑地の連続する地域に近づくほど、より多様な種、あるいは都市回避種に近い性質を持つ種が現れる傾向が指摘されている。この視点を公園に当てはめると、同じ「都市公園」という括りであっても、市街地の中心に近い小さな公園と、郊外の河川敷や大きな緑地に隣接する公園とでは、理論上出会いうる哺乳類の顔ぶれが異なる可能性がある。ただし、この違いを具体的に確かめるには実際の踏査と記録の蓄積が不可欠であり、本稿の段階では理論的な見立てにとどめざるを得ない。

3. 見えない同居人——夜行性・薄明薄暮性と人との生活時間のずれ

都市に暮らす哺乳類の多くが人の目に触れにくい最大の理由は、活動する時間帯そのものが人とずれていることにある。哺乳類の活動時間は大きく、昼間に活動する昼行性、夜間に活動する夜行性、そして日の出前後・日没前後の薄暗い時間帯に活動する薄明薄暮性に分けられる。都市に多く見られる中型哺乳類やコウモリ類の多くは、夜行性あるいは薄明薄暮性であり、人が活動する日中の時間帯を避けるように暮らしている。これは偶然ではなく、人という大型で数の多い、しかも予測しがたい存在を避けるための行動であると理解されている。

近年の研究は、この時間のずれが都市化によってさらに強まる可能性を示している。2018年に発表されたゲイナーらの研究は、世界各地の哺乳類の活動データを比較し、人の活動が活発な地域ほど、哺乳類が昼間の活動を減らして夜間に活動を集中させる傾向があることを報告した。つまり、もともと昼行性の傾向を持つ種であっても、人との遭遇を避けるために活動時間そのものを夜へずらすという行動の変化が、世界的な規模で観察されているというのである。この知見を公園に当てはめれば、日中は子どもの声と足音であふれる場所も、夜間には哺乳類にとって利用しやすい静かな空間に変わっている可能性がある。

薄明薄暮活動時間人とのずれ
図3多くの都市哺乳類は薄明薄暮性・夜行性であり、人の活動時間を避けて公園を利用していると考えられている。

3.1 なぜ気づかれにくいのか

活動時間のずれに加えて、体の大きさと隠れる技術も、哺乳類が気づかれにくい理由として挙げられる。多くの都市哺乳類は、鳥のように高い声で鳴いて存在を知らせることが少なく、体色も周囲の土や落ち葉の色に紛れやすい。植え込みの内部、側溝、フェンスの下といった、人が普段目を向けない隙間を移動経路として使うことも多いとされる。加えて、多くの種は人の姿を見つけると速やかに物陰に隠れる行動をとるため、たとえ日中に活動していたとしても、人がそれに気づく機会はさらに限られる。公園の来園者数が多い時間帯ほど、哺乳類の側が活動を控える、あるいは目立たない行動をとる傾向があると考えるのが自然である。

この「気づかれにくさ」は、公園を利用する人にとって二重の意味を持つ。一つは、日中に公園で過ごす人が、実際にはそこに暮らす哺乳類とほとんど遭遇しないという安心材料としての側面である。もう一つは、人が寝静まったあとの公園がどのような生き物の場所になっているのかを、日常の感覚では想像しにくいという側面である。この二つは矛盾するものではなく、時間帯によって公園の「主役」が入れ替わっているという事実の、表と裏の関係にある。

3.2 生活時間のずれが持つ意味

生活時間のずれは、人と哺乳類の共存を可能にする仕組みでもある。もし都市の哺乳類が人と同じ時間帯に同じ密度で活動していれば、遭遇の機会は今よりはるかに多く、軋轢も増えていたと考えられる。時間を分け合うことによって、同じ空間を異なる時間帯で使い分けるという、いわば時間的なすみ分けが成立している。この点は、公園という限られた面積の緑地が、人の利用と哺乳類の利用を同時に支えられる理由の一つとしても理解できる。

ただし、この時間的なすみ分けは、人の行動が変われば崩れることもある。夜間に公園を照らす照明が増える、深夜まで人の利用が続く、あるいは逆に人が餌となる食物を夜間に残していく——これらはいずれも、哺乳類が避けてきたはずの時間帯に人の気配や食物の手がかりを残すことになり、活動時間のずれ方そのものに影響を与えうる。次節では、この時間のずれを前提としたうえで、都市に適応できる種とできない種を分ける条件について検討する。

時間のずれという視点は、公園を利用する人の側の行動を見直す手がかりにもなる。早朝や夕方の薄暗い時間帯は、哺乳類の活動が比較的活発になりうる時間帯でもあり、この時間帯に公園を訪れる人が、普段より高い頻度で動物の気配——足音、物音、遠くに見える影——に触れる可能性は理論上ある。これは危険を意味するものではなく、多くの都市哺乳類は人を避ける性質を持つため、通常は人の姿を見つけた時点で距離をとる。むしろ、時間帯によって公園の表情が変わるという事実を知っておくことは、公園という場所をより立体的に理解するための素材になる。

4. 都市に適応する種、しない種——シナントロープの条件

第2節で整理した都市利用種・都市適応種・都市回避種という三区分は、なぜその違いが生まれるのかという問いを残す。都市化に適応できる哺乳類に共通する性質として、先行研究が繰り返し指摘してきたのは、食性の幅の広さ、行動の柔軟さ、そして人への警戒心の弱さという三点である。まず食性についていえば、特定の植物や獲物にしか依存しない専食性の種は、都市化によってその特定の資源が失われると生存できなくなる。これに対し、植物・小動物・人が出す食物残滓のいずれも利用できる雑食性の種は、都市という資源の乏しい環境でも食べ物を確保できる可能性が高い。

次に行動の柔軟さである。都市に適応する種は、休息場所や繁殖場所を一つの環境要素に固定せず、樹洞、建物の床下、側溝、植え込みの内部など、複数の選択肢を代替的に使い分けられる傾向がある。行動圏の大きさについても、資源が豊富であれば狭い範囲で暮らし、資源が乏しければ広い範囲を利用するというように、状況に応じて調整できる可塑性を持つ種ほど、都市という不均質な環境に適応しやすいと考えられている。第三の警戒心の弱さは、人という存在への馴れの程度を指す。人の姿や音、匂いに対する逃避反応が弱い、あるいは世代を重ねるなかで弱まっていく個体群は、人との距離が近い都市の緑地でも活動を続けやすい。

食性の幅行動の柔軟さ都市適応
図4食性の幅広さ・行動の柔軟さ・人への警戒心の弱さという三条件が、都市に適応できる哺乳類を特徴づける。

4.1 適応できない種に何が起きるか

逆に都市回避種にあたる哺乳類は、広い行動圏を必要とする、特定の森林環境に依存する、あるいは人への警戒心が強く馴れにくいという性質を持つことが多い。都市化が進むと、こうした種はまず生息地の分断によって行動圏を確保できなくなり、次いで残された緑地の面積や質が必要条件を満たさなくなることで、その地域から姿を消していく。この過程は急激に起こるとは限らず、世代を経て個体数が徐々に減っていく緩やかな変化として進むことが多いとされる。都市公園のような小さな緑地の集合は、都市回避種にとっての生息地としては基本的に不十分であり、これらの種が都市公園に定着することは考えにくい。

この点は、都市の緑地政策を考えるうえで重要な含意を持つ。個々の公園が小さくても、多数の公園が緑道や河川敷でつながり、より大きな緑のまとまりを形づくっている場合には、都市回避種に近い性質を持つ種にも生息の余地が生まれる可能性がある。逆に、公園が孤立した緑の島として点在するだけでは、都市適応種——雑食性で行動の柔軟な中型哺乳類や、家住性の小型齧歯類——が優占する場になりやすい。都市の緑地全体の配置と、それぞれの緑地がどれだけつながっているかという視点は、次節以降で扱う個々の種の生態を理解するうえでも前提となる。

4.2 適応と歓迎は別の問題である

ここで強調しておきたいのは、ある種が都市に「適応している」ことと、その種が人にとって「望ましい」あるいは「歓迎される」存在であることは、まったく別の問題だという点である。都市適応種は、人の生活圏に近づくがゆえに、後述する餌付けや軋轢の当事者になりやすい。適応の仕組みを理解することは、その種を排除するための知識ではなく、むしろ無用な軋轢を避け、適切な距離を保つための知識として位置づけられるべきである。この視点は、第7節以降で餌付けや猫との関係を論じる際の前提となる。

また、都市適応種が個体数を増やすことは、その地域の生態系全体にとって一様に良いとも悪いとも単純に評価できない。雑食性で行動の柔軟な中型哺乳類が増えることは、在来の小型哺乳類や地上に営巣する鳥類、昆虫などへの捕食圧を高める可能性が指摘される一方で、都市の緑地に依然として野生動物が暮らしていることを示す指標としても読める。哺乳類学の立場からは、ある種の増減を善悪で裁くのではなく、行動圏・食性・活動時間といった生態学的な条件の変化として記述し、そのうえで人との関わり方をどう調整するかという実務的な問いへつなげていくことが求められる。

5. コウモリという特殊な適応——飛翔性哺乳類の都市利用

哺乳類のなかで唯一、自力で飛ぶ能力を持つのがコウモリ類(翼手目)である。この飛翔能力は、都市という環境への適応の仕方を、地上性の哺乳類とはまったく異なるものにしている。地上性の哺乳類が道路や建物によって移動を妨げられるのに対し、コウモリは空を移動するため、緑地が物理的に分断されていても、樹冠から樹冠へ、公園から公園へと比較的自由に移動できる。多くのコウモリは夜行性であり、日中は樹洞や建物の隙間、橋の下といった狭い空間をねぐらとして休み、夜になると飛び立って昆虫を中心とする獲物を探す。この生態は、前節までに述べた都市哺乳類の一般的な性質——夜行性であること、隠れる空間を柔軟に使い分けることと共通している。

コウモリは暗闇の中で獲物を探すために、エコーロケーション(反響定位)と呼ばれる能力を用いる。自ら発する超音波を周囲の物体に反射させ、その反響を聞き取ることで、暗闇でも障害物を避け、飛んでいる昆虫の位置を正確に捉える。この能力があるからこそ、コウモリは視覚にほとんど頼らずに夜間の空間を利用できるのであり、人の目にはほとんど留まらないまま、公園の上空を移動し、昆虫を捕えている可能性がある。当サイトのデータに昆虫や哺乳類の生息記録がない以上、磐田市のどの公園でコウモリが実際に飛んでいるかを本稿で述べることはできないが、樹木が多く水辺に近い緑地は、コウモリの獲物となる昆虫が集まりやすい環境として、一般に良好な条件を備えているとされる。

夜間飛行音による探餌樹林・水辺
図5コウモリは飛翔とエコーロケーションによって、夜間の空間を昆虫を探す場として利用していると考えられている。

5.1 都市化に対するコウモリの感受性

ただし、コウモリが飛べるからといって、都市化の影響を受けにくいわけではない。ルッソとアンチロットが2015年に発表した総説論文は、世界各地のコウモリ研究を整理し、種によって都市化への感受性が大きく異なることを示している。開けた空間を高速で飛び回るタイプのコウモリは、街灯の光や開けた市街地を比較的利用しやすい一方、樹冠の内部や茂みの中を低速で飛ぶタイプのコウモリは、樹林の構造そのものを必要とするため、都市化によって生息に適した空間を失いやすいとされる。つまりコウモリという分類群のなかでも、都市に適応しやすい種と、都市回避種に近い性質を持つ種の両方が存在するのであり、「コウモリは都市に強い」と一括りに述べることはできない。

夜間照明とコウモリの関係も、研究上の関心を集めてきた論点である。街灯の光は、夜間に活動する昆虫を集める一方で、光に敏感な一部のコウモリの飛行経路を妨げる可能性が指摘されている。この関係は種によって異なり、光を避ける種もいれば、光に集まる昆虫を捕食の機会として利用する種もいるとされる。いずれにせよ、公園の照明計画は防犯や安全という人側の目的で設計されるものであるが、結果として夜間の生態にも影響を及ぼしうるという点は、緑地の設計を考えるうえで留意されてよい論点である。

5.2 姿の見えない生き物をどう考えるか

コウモリは、都市に暮らす哺乳類のなかでもとりわけ姿が見えにくい存在である。夜間に活動し、飛ぶ速度が速く、体も小さいため、たとえ公園の上空を飛んでいたとしても、意識して見上げなければ気づくことはまずない。この見えにくさは、次節で扱う地上性の中型哺乳類とはまた違った意味での「見えない同居人」の姿を示している。姿を見せない生き物の存在を前提に緑地を考えることは、目に見える施設だけを基準に公園を評価することの限界を示す一例でもある。

なお、コウモリと聞くと感染症への懸念を思い浮かべる読者もいるかもしれない。コウモリを含む野生動物と人の健康との関係は、専門的な知見を要する領域であり、本稿のような一般的な整理で断定的に扱うべき事柄ではない。素手で触れない、死骸に触れないといった基本的な注意は野生動物全般に共通する作法であるが、具体的な健康上の懸念や対応の判断は、保健所や医療機関、専門機関に委ねるべきである。本稿はあくまで、コウモリが都市の緑地をどう利用しているかという生態学的な側面を扱うにとどめる。

6. 都市の中型哺乳類——タヌキとその行動圏・食性の可塑性

地上性の中型哺乳類のうち、日本の都市近郊で都市適応種として言及されることが多いのがタヌキ(Nyctereutes procyonoides)である。タヌキはイヌ科に分類される日本在来の哺乳類で、もともと里山や森林の縁を主な生息地としてきたが、雑食性で行動が柔軟な性質を持つことから、宅地化が進んだ地域や都市近郊の緑地にも生息域を広げてきたとされる。第2節・第4節で整理した都市適応種の条件——食性の幅広さ、行動の柔軟さ、人への警戒心の弱さ——を比較的よく満たす在来種として、都市の哺乳類を考えるうえでの代表例に挙げられることが多い。

タヌキの食性は季節によって大きく変わることが知られている。春から夏にかけては昆虫やミミズなどの小動物を、秋には果実や種子を、冬には人の生活圏から得られる食物残滓を含む、手に入りやすいものを幅広く食べる雑食性の傾向が報告されている。この食性の幅の広さは、緑地の面積が小さく、季節ごとに得られる自然の食物が限られる都市の環境でも、一年を通じて食物を確保できる可能性を高める。行動圏についても、資源が豊富な環境では狭い範囲で、資源が乏しい環境では広い範囲を利用するという可塑性が指摘されており、都市近郊の緑地が点在する環境でも、複数の緑地を移動しながら利用する行動がとられうるとされる。

水辺・草地行動圏移動
図6タヌキのような都市適応種は、複数の緑地を移動しながら利用する柔軟な行動圏を持つと考えられている。

6.1 外来の中型哺乳類という論点

都市の緑地を語るうえで、在来種であるタヌキと並んで触れておくべきなのが、外来種の中型哺乳類の存在である。ハクビシン(Paguma larvata)やアライグマ(Procyon lotor)は、いずれも日本の在来種ではなく、人為的な要因によって国内に定着した種であり、後者のアライグマは特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)に基づく特定外来生物に指定されている。これらの種もまた雑食性で行動が柔軟であり、都市近郊の緑地に生息域を広げる例が各地で報告されているとされる。ただし、当サイトのデータには磐田市内におけるこれらの種の生息記録は含まれておらず、市内の公園にどの種が実際に生息するかを本稿で述べることはできない。

在来種と外来種を区別することは、単なる分類上の関心にとどまらない。外来生物法は、生態系や農林水産業、人の生命・身体への被害を防止する目的で、特定の外来生物の飼養・輸入・野外への放出などを規制する枠組みを定めている。都市の緑地で中型哺乳類を目撃した場合、それが在来種か外来種かを個人が現場で正確に判定することは難しく、対応が必要と考えられる場合には、自治体の担当部署や専門機関に相談することが適切な手順とされる。この点は第9節で改めて整理する。

6.2 タヌキと人の歴史的な距離

タヌキは、日本の民話や昔話に繰り返し登場してきた動物でもあり、人との関わりの歴史は古い。この文化的な親しみやすさは、タヌキという動物を都市の緑地で語る際の一つの背景をなしているが、本稿はあくまで哺乳類学の立場から、行動圏と食性という生態学的な性質を中心に論じている。文化的な意味づけと生態学的な事実は区別して扱う必要があり、可愛らしい存在として語られることと、餌付けが動物の行動に及ぼす影響——次節で扱う論点——とは、切り分けて考えるべき問題である。

タヌキ以外の在来の中型・小型哺乳類についても、都市近郊の緑地との関わりが指摘されることがある。イタチ科の一部の種や、ノウサギのような植食性の哺乳類は、それぞれ異なる食性と行動圏の性質を持ち、都市化への感受性も一様ではない。本稿がタヌキを代表例として取り上げたのは、都市適応種の条件を比較的よく満たす在来種として先行研究で言及される機会が多いためであり、磐田市内に実際にどの種が生息するかを示すものではない。中型哺乳類を一括りに論じることの限界を踏まえたうえで、次節では餌付けという、これらすべての種に共通しうる論点に移る。

7. 餌付けが行動を変える機構——食物補助と個体群・行動への影響

都市の哺乳類にとって、人が意図的・非意図的に与える食物は、自然の環境からは得られない量とタイミングで提供される特別な資源である。生態学ではこれを食物補助(food subsidy)と呼び、意図的な餌やりだけでなく、生ごみや食べ残しといった非意図的な食物の提供も含めて論じる。オロらが2013年に発表した総説論文は、人が動物に与える食物補助が、個体の行動、繁殖のタイミング、個体群の密度、そして種内・種間の関係にまで幅広い影響を及ぼしうることを、鳥類・哺乳類を横断する研究群から整理している。この知見は、都市公園における餌やりや生ごみの管理という、身近な行為の意味を考えるうえでの土台となる。

食物補助が行動に与える影響として、まず挙げられるのが行動圏の縮小である。安定して食物が得られる場所があると、動物はその場所の近くに行動圏を集中させ、本来必要とする範囲より狭い行動圏で暮らすようになる傾向が指摘されている。次に、人への警戒心の低下である。人から食物を得る経験を繰り返した個体は、人への接近をためらわなくなり、第4節で述べた「人への警戒心の弱さ」という都市適応の条件を、生まれつきの性質としてではなく、学習によって獲得していくことになる。さらに、食物補助が特定の場所に集中すると、そこに複数の個体が集まり、個体密度が局所的に高まることも報告されている。

生ごみ餌やり行動の変化
図7食物補助は行動圏の縮小・警戒心の低下・局所的な密度上昇という形で、哺乳類の行動を変えうるとされる。

7.1 餌やりが生む次の問題

行動が変化した個体は、それ自体では直接に害を及ぼすわけではないが、いくつかの副次的な問題を生みやすくなる。人への警戒心が薄れた個体は、公園や住宅地に接近する頻度が増え、結果として人との遭遇の機会そのものが増加する。局所的に密度が高まった個体群は、限られた資源をめぐる個体間の争いや、感染症が広がりやすい条件を生む可能性があるとされる。また、意図的な餌やりは、特定の場所に食べ残しを集中させ、それがさらに別の動物——例えばネズミ類や、後述するノラ猫——を呼び寄せる連鎖を生むことも指摘されている。餌やりという一つの行為が、単独の動物と人との関係にとどまらず、緑地全体の生態系のバランスに波及しうる点は、強調しておく必要がある。

生ごみの管理も、意図的な餌やりと並んで重要な論点である。ごみ集積所が動物にとって容易に開けられる状態にある、あるいは公園のごみ箱から食べ残しがあふれているといった状況は、餌やりと同じ効果を、人が意図しないまま生み出してしまう。この意味で、餌付けの問題は「動物に食べ物を与えるかどうか」という個人の選択だけでなく、生ごみの管理という生活習慣やごみ収集の仕組み全体に関わる問題として捉える必要がある。

食物補助の影響は、一度きりの給餌では小さくても、繰り返されることで積み重なっていく点にも注意が要る。同じ場所・同じ時間帯に食物が得られる経験が重なるほど、動物の側はその場所と時間を学習し、行動を固定化させていく。逆に言えば、食物補助を絶てば、行動が元に戻る可能性も残されているとされ、餌やりをやめることは、すでに変化した行動を悪化させないための、遅くない対応として意味を持つ。この学習と可塑性という性質は、第2節で述べた行動の柔軟さと表裏の関係にあり、都市への適応を可能にする性質そのものが、人からの働きかけによって望ましくない方向にも変わりうることを示している。

7.2 善意と結果のずれ

餌やりの多くは、動物への好意や、可愛らしいと感じる気持ちから行われる。しかし、その善意の結果として動物の行動が変わり、行動圏が縮小し、人への依存が強まるとすれば、それは動物にとって必ずしも望ましい変化とは言えない。人が意図的に用意する食物は、栄養の面でも自然の食物とは異なる場合があり、個体の健康や繁殖のタイミングに影響を及ぼす可能性も指摘されている。餌やりをめぐる判断は、動物への配慮と、動物の自立した生態を尊重することとの間で、慎重に考える必要のある論点である。健康や安全に関わる具体的な懸念がある場合の対応は、自治体の担当部署や専門機関の判断に委ねるべきであり、本稿はここで断定的な指示を与えるものではない。

8. 猫という難しい存在——飼い猫・ノラ猫と野生動物の関係

都市の哺乳類を論じるうえで、避けて通れないのが猫(Felis catus)である。猫は家畜化された哺乳類でありながら、屋外に出て自由に行動する個体は、野生の哺乳類やコウモリを除く小型動物と同じ生態的な立ち位置——すなわち捕食者——に立つ。この点で猫は、これまで論じてきたタヌキやコウモリとは性質が異なる。タヌキやコウモリが「都市に適応した野生動物」であるのに対し、猫は「人に飼われながら野生動物として振る舞う動物」であり、家庭という人の生活圏と、公園という緑地の両方にまたがって存在する、きわめて特殊な位置にある。

猫が野生動物に与える影響については、国外で大規模な研究が行われてきた。ロスらが2013年に発表した研究は、自由に屋外へ出る猫——飼い猫のうち屋外に出る個体と、飼い主のいないノラ猫の双方を含む——が、鳥類や小型哺乳類の個体数に無視できない影響を及ぼしうることを、アメリカ合衆国を対象とした分析から示した。この研究が示す個別の数値はアメリカ合衆国という特定の国・地域についてのものであり、そのまま日本や磐田市に当てはめることはできないが、自由に屋外へ出る猫が捕食者として野生動物に影響を及ぼしうるという構造そのものは、国や地域を問わず成り立つ関係として広く参照されている。

飼い猫愛情野生動物への影響
図8猫は人に飼われながら捕食者として振る舞う動物であり、屋外での行動が野生動物に影響を及ぼしうるとされる。

8.1 飼い猫とノラ猫を分けて考える

猫をめぐる議論を整理するには、飼い主のいる飼い猫と、飼い主のいないノラ猫を分けて考える必要がある。日本では動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)が、飼い主の責務として、動物の適正な飼養と、周辺の生活環境への配慮を求めている。屋外に自由に出る飼い猫は、飼い主による給餌と屋外での捕食行動を同時に行うことができ、これが猫自身の栄養状態と、野生動物への捕食圧という、二つの異なる影響を同時に生み出す。一方、ノラ猫は特定の飼い主を持たないまま屋外で暮らし、地域住民による給餌の有無や、繁殖の管理状況によって、個体数や行動範囲が大きく変わりうる。

この違いは、対応の考え方にも関わる。飼い猫については、屋内飼育を基本とすることや、屋外に出す場合の管理の在り方が、飼い主自身の判断と責任の範囲にある。ノラ猫については、地域や自治体が関わる形で、不妊去勢手術を含む個体数管理の取り組みが各地で行われているとされるが、その具体的な制度や実施状況は地域によって異なり、本稿で一般化して述べることは避ける。磐田市における取り組みの詳細は、当サイトの扱う範囲を超えるため、関心のある読者は自治体の担当窓口に確認することが適切である。

8.2 公園という接点での作法

公園という場所において、猫との関わり方をめぐる作法は、これまで論じてきた野生動物への餌やりの論点と重なる部分が大きい。猫への給餌が公園やその周辺で行われると、それは猫の行動圏をその場所に固定させる一方、猫を目当てに集まる人と、猫を苦手とする人や、砂場・遊具の衛生を気にする人との間に、利用をめぐる緊張を生むこともある。また、給餌によって特定の場所に猫が集まることは、前節で述べた食物補助の論理がそのまま当てはまる現象であり、猫自身の行動圏の縮小や、周辺の小型野生動物への捕食圧の局所的な上昇にもつながりうる。猫と公園の関係は、一頭の動物への好意だけでは割り切れない、複数の立場が絡み合う論点として理解する必要がある。

衛生面についても触れておきたい。砂場は猫にとって排泄の場所として利用されやすい構造を持つとされ、これは第7節までに述べた行動の話とは別の、公園施設の管理上の論点である。この問題への対応は、砂場の覆いや管理体制といった施設運用の工夫に関わるものであり、個々の利用者にできることは限られる。体調や衛生に関する具体的な心配がある場合の判断は、本稿が扱う範囲を超えており、医療機関や施設管理者に委ねるべき事柄である。猫という動物を公園で語ることは、生態学的な論点と施設管理の論点、そして人それぞれの感情という、性質の異なる複数の層を同時に扱うことにほかならない。

9. 軋轢の予防——ごみ管理・餌付け防止と法制度の役割

ここまで見てきたように、都市の哺乳類をめぐる軋轢の多くは、餌やりや生ごみの管理という、日常の生活習慣に近いところで発生し、また予防もできる。本節では、その予防の考え方と、日本の法制度がこの領域にどのような枠組みを与えているかを整理する。前提として、野生動物との接触や被害に対する個別の判断は、本稿のような一般論では扱いきれず、実際に対応が必要な場合には自治体の担当部署や専門機関に相談することが基本となる。以下で述べるのは、その相談に至る前の、日常的にできる予防の考え方である。

  • 生ごみを屋外に長時間放置しない、収集日の朝に出すなど、動物が食物にアクセスしにくい管理を心がける
  • 野生動物や猫に意図的に餌を与えない。可愛らしさや好意からの給餌が行動を変える機構は第7節・第8節で述べたとおりである
  • 公園のごみ箱からの食べ残しのはみ出しに気づいたら、施設管理者への連絡という形で協力する
  • 動物を見かけても近づかず、追いかけず、静かに距離を保つ。子どもにも同じ作法を伝える
  • けがをした個体や、人への警戒心をまったく示さない個体を見かけた場合は、自己判断で保護や接触をせず、自治体の担当部署に相談する
管理表示予防の手順
図9軋轢の予防は、生ごみの管理と餌やりをしないという日常の習慣、そして必要な場合の相談という手順に整理できる。

9.1 法制度が定める枠組み

日本には、都市の哺乳類と人との関係に関わる法律がいくつか存在する。鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)は、鳥類と哺乳類を対象に、その保護と管理、そして狩猟の適正化を定める基本的な法律であり、みだりに捕獲したり傷つけたりすることを規制している。特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)は、アライグマなど生態系や人の生活に被害を及ぼすおそれのある外来生物について、飼養や輸入、野外への放出などを規制する枠組みを定めている。動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)は、飼い主の責務として、飼育動物の適正な管理と周辺環境への配慮を求めている。

法律主な対象本稿との関わり
鳥獣保護管理法野生の鳥類・哺乳類全般みだりな捕獲・殺傷を規制し、保護と管理の基本枠組みを与える
外来生物法アライグマなど特定外来生物生態系への被害が懸念される外来種の飼養・放出等を規制する
動物愛護管理法飼育される動物(飼い猫を含む)飼い主に適正な飼養と周辺環境への配慮を義務づける

この三つの法律は、対象とする動物も目的も異なるが、共通しているのは、個人の判断だけで完結させず、必要な場合には行政や専門機関を介した対応を前提としている点である。野生動物であるタヌキやコウモリへの対応は鳥獣保護管理法の枠組みのもとにあり、外来種の疑いがある場合には外来生物法が関わり、飼い猫やノラ猫をめぐる問題は動物愛護管理法の枠組みで考えられる。公園という場所で哺乳類に関わる出来事に遭遇したとき、それがどの法律の枠組みに関わる事柄かを見極めることは容易ではなく、まずは自治体の担当窓口に相談するのが実務上の入り口となる。

9.2 個人にできることと制度にできること

軋轢の予防は、個人の生活習慣と、行政による制度的な対応の両方が組み合わさって成り立つ。生ごみの管理や餌やりをしないという習慣は個人の領域で実践できるが、外来種の防除や、繰り返す被害への対応は、個人の努力だけでは限界があり、法制度に基づく行政の関与が必要になる。公園という公共空間の管理者にとっても、ごみ箱の設計や清掃の頻度、照明計画といった施設の運用は、意図せずして哺乳類の行動に影響を与えうる要素であり、この点は緑地の管理を考えるうえで留意されてよい。

個人と制度の役割分担を考えるうえで、もう一つ重要なのは情報の流れである。公園の利用者が動物に関する気づきを施設の管理者や自治体に伝える経路が確保されていれば、生ごみの管理不備や、繰り返される給餌といった問題の早期発見につながりうる。逆に、そうした経路が意識されていなければ、軋轢は個々の利用者の不満として個別に処理されるにとどまり、緑地全体の管理には反映されにくい。哺乳類学の知見を公園の管理に活かすとすれば、この情報の流れを整えることが、最も実務的な出発点になると考えられる。次節では、以上の整理を踏まえ、磐田市の公園100園への示唆を、当サイトの手元にある事実の範囲で述べる。

10. 磐田市の公園への示唆

ここまで整理してきた哺乳類学の概念を、磐田市の都市公園100園に当てはめて考える。ただし、繰り返し断ってきたとおり、当サイトのデータには哺乳類の生息記録がなく、現地踏査もまだ始まっていない。したがって以下に述べるのは、公園の面積・種別・地区といった、当サイトが把握している事実から理論的に導かれる一般的な見立てであり、特定の公園における生息記録ではない。実際にどの公園にどのような哺乳類が暮らしているかは、今後の踏査と、専門機関の知見の蓄積を待つべき課題である。

磐田市の都市公園100園は、市のオープンデータ「都市公園一覧」94行と、市施設ガイドのみに掲載の6園からなる。種別の内訳は、街区公園51園、近隣公園14園、都市緑地10園、法対象外(その他)6園、地区公園4園、総合公園・運動公園・風致公園が各3園、広場公園・緑道が各2園、墓園・歴史公園が各1園である。都市公園法施行令の目安では、街区公園は面積0.25ヘクタール・誘致距離250メートル、近隣公園は2ヘクタール・500メートル、地区公園は4ヘクタール・1キロメートルとされ、総合公園・運動公園はさらに広い10〜75ヘクタールの規模が想定されている。第4節で述べたとおり、行動圏の大きい種ほど広い緑地を必要とするという原則に照らせば、面積の小さい街区公園単体が、都市回避種に近い性質を持つ哺乳類の生息地になることは考えにくい。

公園の位置磐田市踏査はこれから
図10磐田市の公園100園を面積・種別・地区で読むことはできるが、哺乳類の生息記録は当サイトにまだない。

10.1 面積と緑のつながりという視点

第4節・第6節で述べたとおり、都市適応種にあたる中型哺乳類は、複数の緑地を移動しながら利用する柔軟な行動をとりうるとされる。この観点からは、単独の公園の面積だけでなく、公園同士や河川敷とのつながりが理論上重要になる。磐田市の公園のうち、竜洋海洋公園(総合公園・竜洋地区、221,722平方メートル)、かぶと塚公園(総合公園・見付地区、106,982平方メートル)、つつじ公園(風致公園・見付地区、61,937平方メートル)、兎山公園(地区公園・御厨地区、56,193平方メートル)、福田公園(総合公園・福田地区、49,620平方メートル)などは、市が公表する面積の数値のうえで大きな緑地に分類される。また竜洋西堀緑地公園・竜洋南部緑地公園という2園の緑道や、竜洋西堀河川敷公園のように河川敷に位置する地区公園は、名称からも水辺との関係がうかがえる。こうした大きな緑地や水辺に近い緑地は、面積や植生の観点から、理論上は中型哺乳類やコウモリにとって条件の整いやすい場所と考えられるが、これはあくまで一般的な生態学の原則から導かれる推測であり、当サイトが現地で確認した事実ではない。

10.2 街区公園という小さな緑の点

一方、磐田市の公園の半数を占める街区公園51園は、二之宮東第2緑地の17平方メートルのような都市緑地を含む極小の緑地から、数千平方メートル規模のものまで幅がある。個々の街区公園は、第4節で述べたとおり、単体では都市回避種の生息地にはなりにくいが、住宅地の中に点在する小さな緑の点として、家住性の小型哺乳類や、移動の経由地としての機能を持つ可能性は考えられる。豊田地区に28園、見付地区に21園と、地区ごとに公園の数と分布密度が異なることも、磐田市オープンデータからわかる事実であり、緑のつながりを考えるうえでの手がかりになりうる。

公園の環境に関する問い合わせは、磐田市都市整備課(電話0538-37-4806)が窓口となっている。公園内で野生動物や猫に関する具体的な懸念が生じた場合、その内容によっては都市整備課以外の担当部署が関わることもあり、対応の判断は当サイトではなく、市の窓口に委ねるべきである。当サイトは今後の踏査を通じて、公園ごとの植生や水辺との位置関係といった、哺乳類学の観点から意味を持つ情報を少しずつ蓄積していきたいと考えている。

10.3 データの空白を正直に示すこと

磐田市オープンデータの94行と市施設ガイドの記載を突き合わせた当サイトの集計では、トイレのある公園が69園、車いす対応トイレのある公園が34園、砂場のある公園が43園、遊具のある公園が64園と記録されている。これらはいずれも人の利用を支える施設の有無であり、哺乳類の生息とは直接の関係を持たない指標である。それでもあえてここに触れるのは、当サイトが把握している事実の性質を正直に示すためである。当サイトは公園を「人がどう使うための場所か」という角度から記録してきたのであり、「どんな生き物の場所か」という角度からはまだ記録できていない。この空白を空白のまま示すことが、捏造を避けるという本稿全体の立場と一貫している。

11. 結論と今後の課題

本稿は、哺乳類学の基礎概念——食性、行動圏、シナントロープ、夜行性と薄明薄暮性——を手がかりに、都市公園を哺乳類にとっての場所として読み直してきた。その結果、都市の哺乳類の多くが人と活動時間そのものをずらすことで共存しており、そのために存在に気づかれにくいこと、都市に適応できる種とできない種を分けるのは食性の幅・行動の柔軟さ・人への警戒心という三つの性質であること、飛翔性のコウモリと地上性の中型哺乳類では都市への適応の様式が異なること、そして人が与える食物が個体の行動と個体群のあり方を変える強い力を持つことが確認された。とりわけ飼い猫・ノラ猫と野生動物の関係は、家庭という人の生活圏と緑地という野生の領域の両方にまたがる論点であり、単純な善悪では割り切れない難しさを持つことも示された。

これらの知見が示すのは、都市公園における哺乳類との関係の多くが、特別な専門知識ではなく、生ごみの管理や餌やりをしないという日常の習慣の水準で成り立っているという事実である。同時に、外来種への対応や、繰り返される軋轢への対応には、鳥獣保護管理法・外来生物法・動物愛護管理法といった法制度に基づく行政の関与が必要になる場面もあり、個人の習慣と制度的な枠組みは、互いを補い合う関係にある。哺乳類学という一つの学問領域を通じて公園を見ることは、遊具やベンチといった目に見える施設だけでなく、目に見えない時間帯の利用者にも思いをめぐらせる視点を、公園の使い手に与えてくれる。

11.1 本稿の限界

本稿にはいくつかの明確な限界がある。第一に、公園という場所そのものを対象とした哺乳類学的研究は、鳥類や昆虫に比べて層が薄く、本稿が参照できた知見は、都市の哺乳類一般に関する研究を公園に当てはめた推測の域を出ない部分が多い。第二に、磐田市の公園における哺乳類の生息記録は、当サイトにはまったく存在せず、本稿は一貫して特定の公園の記述を避けてきた。この空白は、本稿がどれほど丁寧に一般論を積み重ねても埋まらない性質のものであり、今後の現地踏査によってしか埋められない。第三に、餌付けや猫との関係といった論点は、地域の実情や個々の事情によって適切な対応が異なりうる問題であり、本稿の一般的な整理をそのまま個別の状況に当てはめることには慎重であるべきである。

11.2 今後の課題

今後の課題として、第一に、当サイトの踏査が進んだ段階で、公園ごとの植生・水辺との位置関係・緑地同士のつながりといった、哺乳類学の観点から意味を持つ環境情報を、生息記録とは切り離した形で蓄積していくことが考えられる。これは特定の種の生息を主張するものではなく、緑地としての条件を客観的に記述する作業である。第二に、鳥類学・昆虫学など、当シリーズの他の論文が扱う分類群との関係を整理し、公園の緑がどの生き物にとってどのような資源になっているかを、より統合的に描く視座を育てていくことが望まれる。第三に、餌やりや猫をめぐる問題については、当サイトの運営が触れうる範囲を超える部分が多く、自治体の担当部署や専門機関との役割分担を意識しながら、正確な情報提供にとどめる姿勢を保つ必要がある。

最後に付け加えるなら、哺乳類学という視点は、公園を「何もいない静かな緑地」から「時間帯によって主役の入れ替わる場所」へと読み替える力を持つ。昼に子どもたちが遊び、夜にタヌキやコウモリが通り過ぎる公園は、同じ面積・同じ植栽でありながら、二重の意味を帯びた空間である。この二重性を正確に理解するための一次情報は、当サイトにはまだ乏しいが、それを乏しいまま放置せず、今後の踏査と関係機関の知見に開かれた課題として明示しておくことが、本稿のもう一つの結論である。夜の公園に暮らす生き物たちの存在を知ることは、公園という場所の理解を、人の時間だけに閉じないものにしてくれるはずである。

参考文献

  1. バートン・W・バート(1943)「Territoriality and home range concepts as applied to mammals」Journal of Mammalogy, 24
  2. スタンレー・D・ガート、セス・P・D・ライリー、ブライアン・L・サイファー編(2010)『Urban Carnivores: Ecology, Conflict, and Conservation』(Johns Hopkins University Press)
  3. フィリップ・W・ベイトマン、パトリシア・A・フレミング(2012)「Big city life: carnivores in urban environments」Journal of Zoology, 287
  4. キャサリン・M・ゲイナー、カーラ・E・ホジノウスキー、ニール・H・カーター、ジャスティン・S・ブラシャレス(2018)「The influence of human disturbance on wildlife nocturnality」Science, 360
  5. ダニーロ・ルッソ、レオナルド・アンチロット(2015)「Sensitivity of bats to urbanization: a review」Mammalian Biology, 80
  6. ダニエル・オロ、メタ・ジェノバル、ジャコモ・タベッキア、マイク・S・ファウラー、アルベルト・マルティネス=アブライン(2013)「Ecological and evolutionary implications of food subsidies from humans」Ecology Letters, 16
  7. スコット・R・ロス、トラビス・ウィル、ピーター・P・マーラ(2013)「The impact of free-ranging domestic cats on wildlife of the United States」Nature Communications, 4
  8. 阿部永ほか編(2005)『日本の哺乳類 改訂2版』(東海大学出版会)
  9. 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号)
  10. 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号)
  11. 動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)
  12. 都市公園法(昭和31年法律第79号)・都市公園法施行令(国土交通省 都市公園のページ)
  13. 磐田市オープンデータ「都市公園一覧」(CC BY 3.0・出典:磐田市)
  14. 磐田市 施設ガイド(公園)

本稿は ATAWI PARK 編集部による総説的な論考であり、学会誌等の査読を経た学術論文ではありません。引用は広く知られた著作・公的資料に限り、磐田市固有の事実は当サイトのデータベースと磐田市の公開情報にもとづきます。個々の公園の設備・状態は現地でご確認ください。医療・安全に関する判断は医療機関・関係機関の指示を優先してください。

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