自然科学・環境両生爬虫類学
カエルとトカゲのいる公園——両生類・爬虫類の生活史と水辺
要旨
本稿の目的は、両生類学・爬虫類学(あわせて両生爬虫類学と呼ばれる)の基礎概念を用いて、都市公園という場所を変温動物の暮らしの側から読み直すことである。方法は文献整理と概念分析であり、外温性(変温性)という体温調節の様式、両生類に固有の二相的な生活史と皮膚呼吸への依存、爬虫類の日光浴と隠れ場所の利用という基礎知識を確認したうえで、公園の池・水路・湿った草地がこれらの動物にとって何を意味するかを検討する。
検討の結果、次の点が示される。第一に、両生類・爬虫類は自ら体温をつくらない変温動物であり、その行動は気温・日照・湿度という環境条件に強く規定される。第二に、両生類の多くは水中の幼生期と陸上の成体期という二相の生活史を持ち、産卵のための止水域への依存と、乾燥に弱い皮膚呼吸という二つの制約を抱える。第三に、爬虫類は乾燥に強い卵と鱗を持つ一方、体温調節のための日光浴の場所と身を隠す場所を必要とする。第四に、コンクリートで固められた護岸や道路との段差・落差は、これらの動物の移動を妨げる構造として作用しうる。第五に、世界的に両生類の減少が指摘されてきた経緯があり、都市の中の小さな水辺の意味を考える文脈となる。第六に、ヘビへの向き合い方は、恐怖をあおる書き方を避け、近づかない・触らないという原則と、判断を専門機関に委ねる姿勢とで整理できる。
最後に、磐田市の都市公園100園のデータを種別・面積・水に関わる設備の記載から読み替え、公園の池・水路・湿った草地が持ちうる意味を検討する。ただし当サイトの現地踏査はこれからであり、特定の公園にどの種がいるかという生息記録は本稿では一切書かない。両生類・爬虫類の目で公園を見る作業は、今後の踏査に開かれた課題として残される。
キーワード両生爬虫類学変温動物二相的生活史皮膚呼吸日光浴護岸磐田市
1. はじめに——問題の所在
公園の水辺にしゃがみこむ子どもが指さすのは、たいていカエルかオタマジャクシである。雨上がりの水たまり、池の縁、水路の落ち葉の下——そこに何かが動くのを見つけたとき、子どもは大人以上に敏感に反応する。トカゲが石垣の隙間に走り込む一瞬、カナヘビが日なたでじっと動かずにいる姿もまた、公園でよく目にする光景である。ところが、こうした生き物について、公園を紹介する文章はあまり多くを語らない。遊具や砂場については仕様や年齢表示が詳しく説明されるのに対し、池や水路にいる生き物については、せいぜい「生き物がいます」という一文で片づけられがちである。
本稿が対象とするのは、この語られにくい生き物のうち、両生類(カエル・サンショウウオの仲間)と爬虫類(トカゲ・ヘビ・カメの仲間)である。両者は分類学上は別のグループであるが、体温を自らつくらないという性質を共有し、研究の歴史においても両生爬虫類学(herpetology)という一つの学問領域として扱われてきた。本稿はこの両生爬虫類学の基礎概念を借りて、都市公園という場所を、両生類・爬虫類にとっての生息条件という側面から読み直すことを目的とする。
ただし、あらかじめ明確にしておかねばならない制約がある。当サイト(ATAWI PARK)が扱う磐田市の都市公園100園のデータは、市のオープンデータ「都市公園一覧」と市施設ガイドを土台にしており、そこに記載されているのは名称・種別・面積・地区と、トイレ・砂場・遊具・駐車場といった設備の有無である。両生類や爬虫類がどの公園にいるかという生息情報は、このデータには含まれていない。当サイトの現地踏査もこれからであり、本稿を執筆している時点で、磐田市のどの公園にどの種がいるかを当サイトは知らない。したがって本稿は、特定の公園における生息記録を一切書かない。書けるのは、両生爬虫類学が一般に明らかにしてきた知見と、それを公園という場所に当てはめたときに何が言えるか、という枠組みの提示である。
1.1 本稿の問い
本稿の問いは大きく三つに分けられる。第一に、両生類・爬虫類は自ら体温をつくらない変温動物であるという性質が、その行動をどう規定しているのか。日光浴や隠れ場所への依存は、公園という人工的な環境の中でどのような形をとるのか。第二に、両生類に固有の二相的な生活史——水中で過ごす幼生期と陸上で過ごす成体期——と、乾燥に弱い皮膚呼吸という制約は、公園の池・水路・湿った草地にどのような役割を求めるのか。そして、コンクリートで固められた護岸や道路との段差は、その役割をどう妨げうるのか。第三に、ヘビをはじめとする爬虫類に対して、恐怖をあおらずに、しかし安全にも配慮した向き合い方をどう示せばよいのか。
これら三つの問いは、それぞれ「体温調節の側」「生活史と水の側」「人との関わりの側」から公園を見る問いである。両生類学・爬虫類学は本来、動物の生理と行動を対象とする学問であるが、都市の公園という場所を対象にする以上、人がつくった構造物——護岸、道路、排水路、植栽——と切り離しては論じられない。公園はまさに、その人工の構造物と両生類・爬虫類の生活史とが直接に接する場所であり、三つの問いを一つの場所で同時に考えられる対象と言える。
1.2 方法と構成
方法は文献整理と概念分析である。両生類学・爬虫類学の基本的な教科書と古典的な研究、国内の図鑑や解説書、法令や公的資料を手がかりに概念を整理し、公園という対象に当てはめる。数値については、法令や省庁の指針に明記のあるものを除き、具体的な割合や個体数を挙げることを避け、「〜とされる」「〜という研究群がある」という書き方にとどめる。ヘビへの対応など安全に関わる事柄は断定を避け、判断は関係機関に委ねる。恐怖をあおる表現は用いない。
構成は次のとおりである。第2節で両生爬虫類学の先行研究と基礎概念を整理する。第3節で変温動物としての行動を検討し、第4節で両生類の二相的な生活史、第5節で皮膚呼吸と乾燥への弱さを扱う。第6節では爬虫類の生活誌を、鱗・卵・日光浴・隠れ場所という観点から論じる。第7節で公園の池・水路・湿った草地という資源を検討し、第8節でコンクリート護岸や道路といった構造が移動を妨げる問題と、世界的に指摘されてきた両生類の減少という文脈を合わせて論じる。第9節ではヘビとの向き合い方を整理し、第10節で磐田市の公園100園への示唆を、当サイトの手元にある事実の範囲で述べる。第11節は結論と今後の課題である。読者としては、磐田市周辺の子育て世代、行政や地域の関係者、そして生き物や公園に関心を持つ学生を想定している。
2. 先行研究と概念の整理——両生爬虫類学の基礎概念
両生類(Amphibia)と爬虫類(Reptilia)は、脊椎動物の分類上は互いに近縁ではあるものの別々の綱に属する。両生類にはカエルの仲間(無尾目)、サンショウウオ・イモリの仲間(有尾目)、そしてアシナシイモリの仲間(無足目)が含まれる。爬虫類にはトカゲ・ヘビの仲間(有鱗目)、カメの仲間(カメ目)、ワニの仲間(ワニ目)が含まれる。両者を一つの学問領域として扱う伝統は古く、両生類と爬虫類をまとめて研究する分野は両生爬虫類学(herpetology)と呼ばれ、専門の学会や学術誌がこの区分に沿って組織されてきた。分類学上は別のグループでありながら一つの学問として扱われてきた背景には、次節以降で見るとおり、両者が体温調節の様式を共有しているという事情がある。
2.1 変温動物という共通点
両生類・爬虫類に共通する最大の特徴は、体内で熱をつくって体温を一定に保つ哺乳類や鳥類とは異なり、外部の環境の熱に依存して体温を調節する点にある。この性質は外温性(ectothermy)、あるいは日常語で変温性と呼ばれる。外温性の動物は、暑ければ日陰に、寒ければ日なたに移動することで体温を調節する。この体温調節のための移動——日光浴と物陰への退避——が、両生類・爬虫類の行動の基本形をなしており、公園という場所を両生類・爬虫類の目で見るとき、まず確認すべき性質である。
2.2 教科書的な知見の蓄積
両生爬虫類学の基礎は、デュエルマンとトルーブによる『Biology of Amphibians』のような教科書、そしてパウらによる『Herpetology』のような両生類・爬虫類を併せて扱う教科書に体系的にまとめられている。これらの教科書が繰り返し強調するのは、両生類の生活史が水と切り離せないという点と、爬虫類が卵と皮膚の構造によって陸上での乾燥に適応してきたという点である。この二つの対比は、次節以降で本稿が公園を論じる際の基本的な軸になる。日本国内でも、松井正文によるカエルの解説書や、疋田努による爬虫類の進化に関する著作など、一般読者にも開かれた文献が積み重ねられてきた。
| 観点 | 両生類 | 爬虫類 |
|---|---|---|
| 皮膚 | 薄く湿っている。皮膚呼吸を行う | 鱗で覆われ乾燥に強い |
| 卵 | 殻がなく乾燥に弱い。多くは水中に産む | 殻や膜があり陸上に産める種が多い |
| 生活史 | 水中の幼生期と陸上の成体期という二相 | 孵化後はおおむね陸上(や水辺)で一生を過ごす |
| 体温調節 | 外温性。湿度への依存も強い | 外温性。日光浴への依存が目立つ |
この表が示す対比は、あくまで一般的な傾向であり、種によって例外がある。たとえば爬虫類の中でもカメの仲間は水中で長い時間を過ごし、両生類の中でもヒキガエルの仲間は成体になれば比較的乾燥に強い環境でも活動する。とはいえ、皮膚の構造と卵の構造という二つの違いは、両生類と爬虫類が公園という環境に何を求めるかを大きく分ける軸になる。両生類は水辺への依存が強く、爬虫類は日光浴の場所と隠れ場所への依存が相対的に強い、という大づかみの理解が、以下の議論の出発点になる。
2.3 世界的な関心の高まり
両生爬虫類学への関心は、1990年代以降、世界的な両生類の減少が指摘されるようになったことで大きく高まった。この経緯は本稿第8節で改めて扱うが、ここで確認しておきたいのは、両生類・爬虫類が「地味で目立たない生き物」から「環境の変化を映す指標となりうる生き物」へと、学問的な位置づけを変えてきたという点である。両生類は皮膚呼吸を行うために環境中の水質や大気の変化を受けやすく、また幼生期と成体期の両方で異なる環境を必要とするために、生息地の変化の影響を二重に受けやすいとされる。こうした性質のために、両生類は環境の健全さを示す指標種として扱われることがある、という研究群の存在が知られている。爬虫類についても、世界的な減少傾向を指摘する研究が知られており、両生類ほど広く報じられてはこなかったものの、同様の関心が向けられてきた。
こうした世界的な関心の高まりを踏まえたうえで、本稿はあくまで公園という限られた場所を対象にする。世界規模の種の減少と、身近な公園の池や水路にいる生き物とを直接に結びつけることには慎重でなければならないが、後者もまた前者を取り巻く大きな環境変化の一部であるという見方は、両生爬虫類学の教科書が共有してきた基本的な立場である。次節以降では、この立場を踏まえつつ、まず変温動物としての行動という、最も基礎的な性質から検討を始める。
2.4 進化史からみた両者の分岐点
両生類と爬虫類の違いを理解するうえで、進化の歴史を簡単に押さえておくことは有用である。両生類は、水中で暮らしていた魚類の系統から、最初に陸上へ進出した四肢動物の子孫であるとされる。しかし両生類は、卵を乾燥から守る仕組みを十分には獲得できず、繁殖のためには水に戻らざるを得ないという制約を抱えたまま今日に至っている。これに対して爬虫類の祖先は、乾燥に強い殻を持つ卵——羊膜卵と呼ばれる——を獲得したことで、水から離れた内陸部まで生活圏を広げることができた。この羊膜卵の獲得は、爬虫類だけでなく、後に鳥類や哺乳類へと続く系統にも受け継がれた、脊椎動物の陸上進出における大きな転換点であったとされる。両生類が水辺に縛られ続け、爬虫類がより広い陸地に進出できたという本稿の対比は、単なる現在の生態の違いにとどまらず、数億年単位の進化史に根ざした違いであることが、この経緯からうかがえる。
3. 変温動物としての行動——外温性・日光浴・隠れ場所
前節で述べた外温性(変温性)という性質は、両生類・爬虫類の一日の行動を大きく規定する。哺乳類や鳥類であれば、気温が下がっても体内で熱をつくって活動を続けられるが、外温性の動物は気温が体温をほぼそのまま決めてしまう。気温が低すぎれば筋肉や消化の働きが鈍り、逆に高すぎれば体内のたんぱく質に負担がかかる。そのため両生類・爬虫類は、自分の体温を適した範囲に保つために、日なたと日陰、地表と地中、水中と水辺のあいだを絶えず移動する。この移動そのものが、外から見える行動のかなりの部分を占めている。
3.1 日光浴という行動
爬虫類でよく観察される行動が日光浴(バスキング)である。トカゲやカメが石や倒木の上でじっと動かずにいる姿は、怠けているのではなく、体表を太陽光にさらして体温を上げる積極的な行動である。体温が上がれば動きが速くなり、消化も進み、捕食者から逃げる能力も高まるとされる。逆に、体温が上がりすぎれば、日陰や物陰に移動して熱を逃がす。この日光浴と物陰への退避の往復が、公園で観察される爬虫類の典型的な行動パターンであり、朝の早い時間帯や、気温がまだ高くない時期に日光浴の姿が目につきやすいと説明される。
3.2 隠れ場所への依存
体温調節と並んで重要なのが、身を隠す場所の確保である。両生類・爬虫類の多くは、捕食者からの回避と、気温・湿度の急激な変化からの回避という二つの目的のために、隠れ場所を必要とする。石や倒木の下、落ち葉の堆積、樹皮の隙間、草の根もとといった、湿度と気温が周囲より安定した小さな空間が、こうした動物にとっての住まいになる。整地され、落ち葉や倒木が撤去された環境では、こうした隠れ場所そのものが失われやすいと説明される。公園の管理においては、安全確保のための除草や清掃と、生き物の隠れ場所の保全とが、しばしば両立の工夫を必要とする関係にあると言える。
3.3 気温と季節による活動の変化
外温性の動物にとって、季節の変化は活動そのものの有無を左右する。気温が下がる時期には、両生類・爬虫類の多くは土の中や落ち葉の下、水底の泥の中などで活動を大きく低下させる状態に入る。この状態は冬眠と呼ばれることが多いが、哺乳類の冬眠とは体温調節の仕組みが異なり、外気温の低下に応じて体温そのものが下がり、代謝が低下するという受動的な性質を持つ。気温が上がる時期に入ると活動が再開し、多くの種にとってこの時期が繁殖の季節にも重なる。夏場は逆に、日中の高温を避けて早朝や夕方に活動が集中する種もあるとされる。こうした季節・時間帯による活動の波は、公園で両生類・爬虫類を観察できる機会が一年を通じて一様ではないことを意味する。
- 気温の上昇期(春先など)——冬の低活動状態から活動を再開し、繁殖行動が見られやすいとされる時期
- 気温の高い時期(盛夏など)——日中を避け、早朝・夕方・夜間に活動が偏る種があるとされる
- 気温の低下期(晩秋以降)——活動が低下し、土中や水底などで低活動の状態に入る種が多いとされる
以上のように、変温動物としての性質は、両生類・爬虫類の行動のほぼすべてを、気温・日照・湿度という環境条件との関係で説明する視点を与える。公園という場所を両生類・爬虫類の目で読み替えるとき、遊具の種類や広場の広さよりもまず問うべきは、日なた・日陰・隠れ場所・水辺という、体温と湿度を調節するための資源が、どのような組み合わせで存在しているかという点である。この視点は次節以降、両生類の生活史、爬虫類の生活誌を検討する際にも一貫して用いる。
4. 両生類の二相的生活史——水に依存する生活環
両生類の生活史を特徴づける最大の性質は、多くの種が生涯のあいだに二つの異なる環境を経験するという点である。カエルを例にとれば、卵は水中に産まれ、孵化した幼生(オタマジャクシ)はえらで呼吸をしながら水中で成長し、やがて変態と呼ばれる体の作り替えを経て、肺呼吸を行う陸上生活の成体になる。この水中の幼生期と陸上の成体期という二つの段階を持つ生活史は二相的生活史(biphasic life cycle)と呼ばれ、両生類(amphibia という語自体が「両方の生活」を意味するギリシャ語に由来する)という名称の由来でもある。
4.1 産卵水域という条件
この二相的生活史のために、多くの両生類は繁殖のたびに水域を必要とする。しかもその水域には条件がある。魚がいると卵や幼生が捕食されやすいため、魚のいない止水域——雨水がたまってできる一時的な水たまりや、魚を放していない小さな池——が、種によっては好まれる産卵場所になるとされる。また、水深が浅く日当たりのよい水域は水温が上がりやすく、幼生の成長を早めるという点で適していると説明される。逆に、コンクリートで護岸された深い水路や、常に水が流れ続ける水路は、こうした条件を満たしにくい場合があるとされる。産卵に適した水域の有無が、その地域に両生類が繁殖できるかどうかを直接左右するという理解は、両生類学の基礎的な知見の一つである。
4.2 変態という転換点
水中の幼生から陸上の成体への変化である変態は、単に手足が生えて尾がなくなるという外見の変化にとどまらない。呼吸の方法がえらから肺へ、食性が多くの種で植物質中心から動物質中心へ、皮膚の構造も水中生活に適したものから陸上生活に適したものへと、生理的な仕組み全体が作り替えられる。この転換のあいだ、幼生でも成体でもない一時的な状態を経る種もあり、変態の過程そのものが、水温や日長、栄養状態といった環境条件に影響されやすい、繁殖のなかでも特に環境に敏感な時期であるとされる。
4.3 陸上生活と水辺のあいだの往復
変態を終えて陸上生活に移った成体もまた、水から完全に離れるわけではない。次節で扱う皮膚呼吸への依存のために、多くの種は水辺から離れすぎない範囲、あるいは湿度の高い環境の中で活動し、繁殖の季節には再び水域に戻る。つまり両生類の生活圏は、産卵水域を中心に、そこから一定の範囲に広がる陸上の生息環境まで含めて考える必要がある。この陸上部分は移動先の生息環境、あるいは緩衝地帯と呼ばれることがあり、水域の保全だけでは両生類の個体群を維持するのに十分ではなく、水域の周囲の陸上環境も含めて考える必要があるという指摘が、両生類の保全に関する研究で知られている。この考え方は、次節で扱う皮膚呼吸の弱さ、そして第8節で扱う移動を妨げる構造の問題とも直接につながっている。
以上をまとめると、両生類にとっての公園の水辺は、単に「水がある」というだけでは十分でない。魚がいるかどうか、水深、日当たり、水域の周囲にどれだけ湿った陸上環境が続いているかといった条件の組み合わせが、産卵から変態、陸上生活への移行までの一連の過程を支えるかどうかを決める。公園の池や水路をこうした一連の過程の器として見る視点が、両生類学の生活史研究から得られる、公園に対する基本的な示唆である。
4.4 抱接という繁殖行動
二相的生活史の出発点である産卵にいたる過程にも触れておきたい。多くのカエルの仲間は、繁殖期になると雄が水辺に集まって鳴き声をあげ、雌を呼び寄せるという行動をとる。雌が水辺に近づくと、雄は雌の背にしがみつく姿勢をとり、この状態のまま産卵と放精が行われる。この一連の行動は抱接(amplexus)と呼ばれ、多くのカエルの繁殖に共通する基本的な様式である。抱接の様式は種によって細部が異なり、前脚で雌の脇の下をつかむ型や、腰のあたりをつかむ型など、いくつかの型が知られている。この繁殖行動もまた、産卵水域という限られた場所に個体が集中するという点で、止水域の存在が両生類の繁殖にとって決定的であることを裏づけている。爬虫類の多くが求愛や交尾に際して特定の水域への集中を必要としないのとは対照的な性質であり、両生類と爬虫類の生活史の違いを行動の面からも示している。
5. 皮膚呼吸と乾燥への弱さ——水辺を離れられない体
両生類の体を特徴づけるもう一つの性質が、皮膚呼吸への依存である。両生類の皮膚は薄く、爬虫類のような硬い鱗で覆われていない。この薄い皮膚を通じて、肺による呼吸を補う形で、あるいは種によっては肺の呼吸の大部分を代替する形で、酸素と二酸化炭素の交換が行われる。皮膚を通じたガス交換が有効に働くためには、皮膚の表面が常に湿っている必要がある。乾いた皮膚では気体の交換がうまく進まないため、両生類は水分を失うことに極めて弱い体を持っていると説明される。
5.1 乾燥という制約の大きさ
この乾燥への弱さは、両生類の行動のほとんどに影響している。多くの種が夜間や雨天、曇天に活動を活発化させ、日中の乾燥した時間帯には物陰や土の中、落ち葉の下に身を潜めるのは、皮膚の乾燥を避けるための行動であるとされる。移動の範囲も、湿った経路——草の茂み、湿った土、水路の縁——に沿って制限されやすく、乾いたコンクリートやアスファルトの上を長距離にわたって移動することは、体力的にも生理的にも負担が大きいと考えられている。梅雨や雨上がりに両生類の姿が目につきやすくなるという経験則は、この乾燥への弱さから説明できる。
5.2 爬虫類との対比が示すもの
この性質は、第2節の表で示した爬虫類との対比を改めて際立たせる。爬虫類の鱗に覆われた皮膚は水分の蒸発を防ぐ働きを持ち、乾燥した環境でも比較的長く活動できる。爬虫類が公園の乾いた広場や石垣、日当たりのよいコンクリートの上でも観察されやすいのに対し、両生類は同じ公園の中でも、池・水路・湿った草地・落ち葉だまりといった湿度の保たれた場所に限られた形で分布しやすい。この対比は、公園という一つの場所であっても、両生類と爬虫類とでは利用できる範囲が大きく異なることを意味している。両生類にとっての公園は、実質的には湿った場所をつなぐ小さな飛び石の連なりとして立ち現れると言ってよい。
5.3 皮膚を通じた環境の受けやすさ
皮膚呼吸への依存には、もう一つの側面がある。皮膚を通じて気体だけでなく、水に溶けたさまざまな物質も通過しやすいという性質である。この性質のために、両生類は水質や大気の変化の影響を受けやすい生き物として扱われることがあり、第2節で触れた「環境の変化を映す指標となりうる生き物」という位置づけも、この皮膚の性質に由来する部分が大きい。ただし、公園の水路や池の水質と両生類の個体群への具体的な影響について、当サイトが確認できる公的な数値は手元にないため、本稿ではこれ以上踏み込んだ数値を挙げない。皮膚呼吸という性質が両生類を環境変化に敏感にしている、という一般的な理解にとどめておく。
以上の議論から、両生類にとっての公園の価値を考えるうえで欠かせない条件が浮かび上がる。それは、湿った環境が途切れずにつながっているかどうかである。水辺があっても、その周囲が乾いたコンクリートや芝生で覆われ、次の湿った場所まで長い距離を移動しなければならないとすれば、皮膚呼吸に依存する両生類にとっては、事実上たどり着けない場所になりかねない。この「つながり」という視点は、第7節で公園の水辺という資源を検討する際、そして第8節でコンクリート護岸という構造を検討する際に、繰り返し立ち返る論点である。
5.4 気温だけでなく湿度も測る指標であるWBGT
皮膚呼吸への依存という性質は、両生類にとっての「暑さ」が、気温だけでなく湿度によっても左右されることを意味する。人の熱中症予防の目安として用いられるWBGT(暑さ指数)が気温・湿度・輻射熱を組み合わせた指標であることはよく知られているが、この「湿度を無視できない」という発想は、両生類の生理を考えるうえでも参考になる。乾いた炎天下では気温がさほど高くなくても両生類にとっては厳しい環境になりうる一方、同じ気温でも湿度の高い曇天や雨天であれば活動しやすい環境になりうる。人にとっての快適さの指標と、両生類にとっての快適さの指標は同じ数字では測れないが、どちらも湿度という要素を無視できないという点で、発想の型を共有していると言える。
6. 爬虫類の生活誌——鱗・卵・日光浴・隠れ場所
爬虫類は両生類と対照的に、陸上での乾燥に適応した体のつくりを進化させてきた動物群である。疋田努が整理するように、爬虫類の進化の歴史は、陸上という乾いた環境にどう適応するかという課題への応答として理解できる。鱗に覆われた皮膚は水分の蒸発を防ぎ、多くの種が産む殻や膜を持つ卵は、水中に頼らずに陸上で発生を進められる。この二つの特徴によって、爬虫類は両生類よりも広い範囲の乾いた環境を利用できるようになった。ただし、爬虫類もまた外温性の動物であることに変わりはなく、前節までに見た体温調節のための行動は、両生類と同じ枠組みで理解できる。
6.1 公園で見られる爬虫類の顔ぶれ
本州の都市公園でよく話題にのぼる爬虫類には、トカゲの仲間、カナヘビの仲間、ヘビの仲間、そしてカメの仲間が含まれる。これらはいずれも日本の広い範囲に分布する種として図鑑類に記載されているが、どの種が磐田市のどの公園にいるかについて、当サイトは現時点で確認できていない。本節では特定の種の分布ではなく、爬虫類全般に共通する生活誌の型を扱う。
6.2 日光浴の場所という資源
第3節で述べた日光浴という行動にとって、公園の中でどこが適した場所になるかを考えると、平らな石、コンクリートの縁石、倒木、乾いた落ち葉の吹きだまりなどが候補として挙がる。これらはいずれも日射を受けて温まりやすく、かつすぐ近くに逃げ込める隠れ場所があるという条件を満たす場所である。逆に、芝生や舗装だけで構成され、石や倒木、低木のような立体的な要素を欠く空間は、日光浴の場所としても隠れ場所としても機能しにくいとされる。爬虫類にとっての公園の質は、面積の大小よりも、こうした小さな要素の組み合わせによって左右される部分が大きいと言える。
6.3 産卵と越冬の場所
爬虫類の卵は乾燥に強いとはいえ、産卵の場所には条件がある。多くのトカゲ・ヘビの仲間は、日当たりがよく、かつ適度な湿り気を保つ土や砂の中に穴を掘って産卵するとされ、踏み固められていない裸地や、腐葉土の堆積した場所がその候補になる。越冬の場所についても同様で、凍結の影響を受けにくい土の中の深い場所や、石垣の隙間、倒木の下などが利用されると説明される。公園の管理において、こうした裸地や腐葉土、石の隙間、倒木といった要素は、見た目の整然さを優先する管理方針のもとでは失われやすい部分であり、遊びや安全のための管理と、爬虫類の生活誌が求める環境との間には、両立のための工夫が求められる場面があると言える。
- 日光浴の場所——平らな石、縁石、倒木、乾いた落ち葉の吹きだまりなど、日射を受けやすい小さな平面
- 隠れ場所——石や倒木の下、樹皮の隙間、低木の根もとなど、湿度と気温が安定した狭い空間
- 産卵・越冬の場所——踏み固められていない土や砂、腐葉土の堆積、石垣の隙間など
以上を踏まえると、爬虫類にとっての公園の資源は、両生類の場合とは異なり、必ずしも水辺そのものに限定されない。むしろ、日なたと日陰、平らな面と隙間、乾いた場所と湿った場所という、小さな環境の対比が公園のどこかに用意されているかどうかが鍵になる。この点は、両生類の議論が水辺への依存に集約されるのに対し、爬虫類の議論がより公園全体の構造に広がる理由でもある。次節では、両生類と爬虫類の双方に関わる、公園の水辺という資源を具体的に検討する。
6.4 カメ類にみる水陸両方の利用
爬虫類の中でも、カメの仲間は本節で述べてきた「乾いた環境への適応」という図式に収まりきらない例外的な存在である。多くのカメは水中で長い時間を過ごし、餌をとることも多くを水中で行う一方、日光浴と産卵は陸上で行うという、爬虫類でありながら水と陸の両方に依存する生活誌を持つ。カメの日光浴もまた第3節で述べた体温調節の行動の一種であり、池や水路の縁の石や倒木の上に何匹も並んで甲羅を乾かす姿は、その典型例として知られている。産卵の際には、水辺からある程度離れた、日当たりのよい裸地や砂地まで移動して穴を掘る種が多いとされ、この移動の途中で道路を横断する場面が、第8節で扱う道路という障壁の問題と直接に関わってくる。カメ類は、両生類の水への依存と爬虫類の陸への適応という、本稿がこれまで対比的に描いてきた二つの生活誌を、一つの体の中に併せ持つ存在と言える。
7. 公園の水辺という資源——池・水路・湿った草地
ここまでの議論をまとめると、両生類にとっての公園の価値は産卵に適した止水域と、そこから続く湿った陸上環境の連続性にあり、爬虫類にとっての公園の価値は日光浴の場所と隠れ場所、産卵に適した土の組み合わせにある。両者に共通して関わってくるのが、公園の中の水辺——池・水路・湿った草地——という要素である。本節では、この水辺という資源を、都市公園に一般的に見られる形態に即して整理する。
7.1 池という止水域
都市公園の池には、鑑賞用の池、噴水を伴う池、雨水の調整を兼ねた池など、目的の異なるさまざまな形態がある。第4節で述べたとおり、両生類の産卵にとって重要なのは魚がいない止水域という条件であるため、観賞用に魚を放している池は、その点では産卵の場所として適さない場合があるとされる。逆に、水深が浅く、護岸が緩やかな傾斜を持ち、水草や落ち葉が堆積しているような池は、産卵と幼生の成育の両方に適した条件を備えやすいと説明される。噴水の水しぶきや常時の水流も、幼生にとっては落ち着いた環境とは言えない場合があり、水の動きの少ない部分の有無が意味を持つと考えられる。
7.2 水路という帯状の資源
池が点としての水辺であるのに対し、水路は帯状に広がる水辺である。公園内やその周辺を流れる水路は、両生類・爬虫類にとって水辺と陸をつなぐ移動の経路として機能しうる。ただし、水路の機能は護岸の形状に大きく左右される。次節で詳しく論じるとおり、垂直なコンクリート壁で固められた水路は、いったん落ちると自力ではい上がれない構造になりやすく、移動の経路であると同時に、抜け出せない罠にもなりうるという二面性を持つ。緩やかな傾斜を持つ護岸や、水際に植生が残された水路は、この二面性のうち罠としての側面を弱め、移動の経路としての機能を保ちやすいとされる。
7.3 湿った草地という面の資源
池や水路が線や点としての水辺であるのに対し、湿った草地は面としての資源である。排水がやや滞る低い場所、樹陰で乾きにくい草地、雨水がしみ出す法面などは、両生類にとっての一時的な水たまりや、湿った移動経路として機能しうる。また、こうした湿った草地は、爬虫類にとっても、乾いた広場より虫などの餌が豊富で、隠れ場所となる下草も残りやすい場所になりうる。整地され、排水が良く保たれ、下草が刈り込まれた芝生広場は、遊びの場としては優れていても、両生類・爬虫類にとっての資源としては乏しくなりやすいという対比が、両生爬虫類学の視点からは指摘できる。
以上のように、池・水路・湿った草地という三つの要素は、それぞれ異なる形で両生類・爬虫類の生活史を支えうる資源である。重要なのは、これらが単独で存在するのではなく、互いにつながっているかどうかという点である。池だけがあっても、そこに至る湿った経路がなければ、両生類は産卵のために池にたどり着けない。水路があっても、垂直な護岸に囲まれていれば、そこは移動の経路ではなく落とし穴になる。この「つながり」という論点を、次節ではコンクリート護岸という具体的な構造に即して掘り下げる。
7.4 水辺の植生という細部
水辺という資源をさらに細かく見ると、水際に生える植物の種類も意味を持つ。水中から茎や葉を水面上に伸ばす抽水植物や、葉を水面に浮かべる浮葉植物は、両生類の幼生にとって隠れ場所と、微小な生き物を含む餌場を兼ねることがあるとされる。また、こうした水際の植物は、成体が水から上がる際の足がかりにもなりうる。逆に、護岸がコンクリートやブロックで固められ、水際に植物がまったく生育していない水辺は、隠れ場所も足がかりも欠くことになりやすい。公園の池や水路の管理において、景観や清掃のしやすさを優先して水際の植生を刈り払うか、ある程度残すかという選択は、見た目にはささやかな違いであっても、両生類にとっての水辺の使いやすさを左右する分岐点になりうる。
8. 分断と減少——コンクリート護岸・落差と世界的な両生類の減少
前節までに繰り返し触れてきたコンクリート護岸の問題を、本節で正面から扱う。両生類・爬虫類は、脚力や跳躍力によって移動する動物であり、垂直な壁やわずかな落差であっても、その多くにとっては越えられない障害になりうる。特に問題になるのが、水路や調整池の護岸を垂直なコンクリート壁で仕上げた構造である。
8.1 垂直護岸という構造的な罠
水面と地表のあいだに垂直なコンクリート壁があると、水路に落ちた両生類・爬虫類は、壁を登る手がかりを見つけられず、水路の中に閉じ込められてしまう場合があるとされる。これは水路の機能不全というより、構造そのものが動物の脚力を上回る高さと角度を持つために生じる問題であり、人が悪意を持って作った罠ではないという意味で「意図せざる罠」と呼びうる。緩やかな傾斜を持つ護岸、あるいは水際に足がかりとなる石や植生を残した護岸は、こうした構造的な罠になりにくいと考えられている。護岸の設計や維持管理において、治水や安全という優先事項と、生き物の移動経路を確保するという配慮とをどう両立させるかは、造園学や土木の分野でも議論されてきた課題である。
8.2 道路という別の障壁
水辺の外に目を向けると、道路もまた両生類・爬虫類の移動にとって障壁になりうる構造である。ファリグらの研究に代表されるように、道路を横断する両生類の密度が、交通量の多い道路の近くで低下する傾向を示す研究が知られている。両生類は繁殖期に産卵水域を求めて移動することがあり、その移動経路が道路と交差する場所では、移動そのものに困難を伴う場合があるとされる。爬虫類についても、日光浴に適した舗装面に引き寄せられることが、かえって道路上に長くとどまる一因になりうるという指摘がある。これらはいずれも、公園の敷地の中だけでなく、公園と周辺の土地とのつながり方全体を視野に入れて考えるべき論点である。
8.3 世界的な両生類の減少という文脈
こうした個々の構造の問題に加えて、より大きな文脈として、世界的な両生類の減少が指摘されてきた経緯を確認しておきたい。スチュアートらが2004年に発表した世界規模の評価をはじめ、両生類の相当数の種が減少あるいは絶滅の懸念にさらされているとする研究群が知られている。ウェイクとヴレデンバーグは、この減少の規模を、地球の歴史における大量絶滅になぞらえて論じた。減少の要因としては、生息地の改変、水質の変化、気候の変動、そして両生類に特有の病原体の広がりなど、複数の要因が組み合わさって作用していると考えられており、単一の原因に還元できないというのが、この分野の研究に共通する見方である。ギボンズらは、爬虫類についても同様の減少傾向が指摘されていることを論じている。
こうした世界規模の議論を、磐田市の公園という一つの地域の一つの場所に単純に当てはめることはできない。しかし、ゼムリッチが提唱したように、産卵水域だけでなくその周囲の陸上環境まで含めて保全を考える必要があるという視点は、地球規模の議論と、身近な公園の護岸や水路の設計という具体的な問題とをつなぐ手がかりになる。世界的な減少という大きな文脈のもとでは、身近な公園の水辺の一つひとつが、両生類・爬虫類にとってどれだけの役割を果たしうるかという問いが、決して小さな問いではなくなる。なお、外来生物についても一言触れておく必要がある。国内には特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律のもとで規制の対象とされている両生類・爬虫類が存在することが知られており、公園の水辺における生き物との関わりは、在来種と外来種の双方を視野に入れた慎重さを求められる場合がある。
8.4 暗渠という見えにくい障壁
護岸や道路と並んで、見落とされやすい構造として暗渠(あんきょ)がある。水路や小さな流れを地下や蓋の下に通し、地上からは見えなくする構造である。暗渠化は治水や土地の有効利用の観点から広く行われてきたが、水面が地上から失われることは、その区間が両生類・爬虫類にとって通行も利用もできない空白になることを意味する。逆に、暗渠の出入口の部分に緩やかな勾配やわずかな水際の植生が残されていれば、その部分だけは限定的に利用の余地が残るとされる。公園そのものではなく、公園と公園、あるいは公園と周辺の水系とをつなぐ区間にこうした構造がどれだけ含まれているかは、地図の上からは見えにくいが、両生類・爬虫類の移動にとっては見過ごせない条件である。
9. ヘビとの向き合い方——恐怖表現を避けた原則と相談先
両生類・爬虫類の中で、公園を利用する人にとって最も緊張を伴う出会いがヘビとの遭遇であろう。本節では、ヘビという生き物への向き合い方を、恐怖をあおる書き方を避けながら整理する。まず確認しておきたいのは、ヘビは人を積極的に襲う生き物ではないという、爬虫類学が一般に共有する理解である。ヘビが人に対して威嚇や咬みつきといった行動をとるのは、多くの場合、逃げ場を失って追い詰められたときや、うっかり踏まれたり触られたりして身を守る必要が生じたときであるとされる。つまりヘビにとっても、人との遭遇は好ましい出来事ではなく、できれば避けたい場面なのである。
9.1 近づかない・触らないという原則
この理解を踏まえると、公園でヘビに出会ったときの基本的な原則は単純である。近づかない、触らない、そしてヘビの進む先をふさがないことである。多くのヘビは、人の気配を察知すると自ら草むらや物陰に姿を消していく。無理に追いかけたり、写真を撮ろうと距離を詰めたりせず、その場から静かに離れることが、ヘビにとっても人にとっても最も摩擦の少ない対処である。子どもに教える際も、「怖い生き物」として恐怖心をあおるのではなく、「近づかない・触らない」という具体的な行動の原則として伝えるほうが、実際の場面で機能しやすいと考えられる。種の見分けを子どもに求める必要はなく、見分けようとして近づくこと自体を避けるべきである。
9.2 判断は関係機関へ
国内には毒を持つとされる種を含め複数のヘビが分布していることが図鑑類に記載されているが、どの種が磐田市のどの公園にいるかについて、当サイトは現時点で確認できていない。仮に咬まれるなど身体に関わる出来事が起きた場合の対応や、公園内でヘビを見かけた際の相談については、判断を独自に下そうとせず、医療機関や公園を所管する行政の窓口といった関係機関に委ねるべきである。本稿は医学的な助言を行う立場になく、対応の判断はあくまで専門の機関に委ねるという原則を、ここで改めて確認しておく。
9.3 トカゲ・カエルとの向き合い方
ヘビ以外の爬虫類・両生類との向き合い方についても、基本的な考え方は共通している。トカゲやカナヘビ、カエルは人に対して危害を加える生き物としてはほとんど扱われないが、それでも野生の生き物である以上、むやみに捕まえたり、持ち帰ったりすることは避けるべきである。皮膚から水分やわずかな物質が入りやすい両生類にとっては、人の手で触れられること自体が負担になりうるとされ、観察は見るだけにとどめることが望ましいとされる。手で触れた場合には、その後の手洗いを習慣にしておくとよい。
- 近づかない——写真や観察のために距離を詰めない
- 触らない——捕まえる・持ち帰るなどの接触を避ける
- 道をふさがない——ヘビが自ら立ち去れる余地を残す
- 判断に迷ったら関係機関へ——医療機関や公園の所管窓口に相談する
以上の原則は、いずれも特別な知識を必要としない、誰にでも実行できる行動の指針である。両生類・爬虫類は、変温動物としての性質上、人が近づけばまず逃げようとする生き物であり、公園での出会いの多くは、双方が距離を保つことで穏やかに終わる。恐怖をあおる書き方も、逆に危険を軽んじる書き方も避け、近づかない・触らない・判断は専門機関へという三つの原則を淡々と示すことが、両生爬虫類学の立場から公園の利用者に伝えられる最も実用的な知見であると考える。
9.4 遭遇そのものを減らす歩き方
遭遇したときの対応と並んで、遭遇そのものを減らす工夫も付け加えておきたい。丈の高い草むらや、落ち葉・倒木が積もった場所は、第3節・第6節で見たとおり両生類・爬虫類にとって好ましい隠れ場所であり、人にとっては足もとが見えにくい場所でもある。園路として整備された部分を歩き、丈の高い草むらに不用意に踏み込まないという歩き方は、ヘビをはじめとする生き物にとっても人にとっても、不意の接触を避けるうえで有効であるとされる。長袖・長ズボンや、足首まで覆う靴といった服装の工夫も、藪に入る可能性がある場面では一般に勧められる。これらはいずれも特別な準備ではなく、公園を歩く際のふだんの心がけの延長として実行できるものである。
10. 磐田市の公園への示唆——100園を両生類・爬虫類の目で読み替える
ここまでの一般論を、磐田市の公園に当てはめてみる。あらかじめ繰り返しておくべきことは、当サイトの手元にあるのが市のオープンデータ「都市公園一覧」と市施設ガイドに基づく100園の名称・種別・面積・設備の情報であり、両生類・爬虫類の生息情報は含まれていないという点である。現地踏査もこれからである。したがって本節で述べるのは「どの公園にどの種がいるか」ではなく、「両生爬虫類学の一般論に照らすと、磐田市の公園の構成と設備はどう読めるか」という枠組みの提示にとどまる。
10.1 種別と面積を両生類・爬虫類の目で見る
磐田市の100園の種別構成は、街区公園51園、近隣公園14園、都市緑地10園、地区公園4園、総合公園3園、運動公園3園、風致公園3園、広場公園2園、緑道2園、墓園1園、歴史公園1園、法対象外6園である。街区公園(国の目安で標準面積0.25ヘクタール・誘致距離250メートル)は、単独では小さく、爬虫類にとっての日光浴・隠れ場所の候補地にとどまりやすいが、両生類にとっては水辺の有無次第で価値が大きく変わる。風致公園3園——つつじ公園(61,937平方メートル)、竜洋昆虫自然観察公園(29,119平方メートル)、いわたエコパーク(23,973平方メートル)——は、自然的景観の維持を眼目とする種別であり、湿った草地や倒木・落ち葉といった要素がまとまって残ることが期待される区分として、本稿の枠組みでは踏査の優先対象になりうる。
| 種別(園数) | 人の施設としての性格 | 両生類・爬虫類の目で見た仮説的な位置づけ |
|---|---|---|
| 街区公園(51園) | 身近な遊び場。標準0.25ha・誘致距離250m | 爬虫類の日光浴・隠れ場所の候補地。両生類には水辺次第 |
| 近隣公園(14園)・地区公園(4園) | やや広い遊びと運動の場 | 湿った草地や樹陰がまとまれば両方の資源になりうる |
| 総合公園(3園)・運動公園(3園) | スポーツ・大規模利用 | 面積は大きいがグラウンド主体なら乾いた面が優勢になりやすい |
| 風致公園(3園) | 自然的景観の維持が眼目 | 湿った草地・倒木・落ち葉の候補地。踏査の優先対象 |
| 都市緑地(10園)・緑道(2園) | 小さな緑・帯状の緑 | 単独では小さいが、水路沿いなら移動経路の一部になりうる |
| 墓園(1園)・歴史公園(1園) | 静かな利用 | 人の活動が穏やかで、日光浴の場が保たれやすい可能性 |
この表はあくまで種別と面積から導いた仮説であり、実際の価値は各園の護岸の形状(第8節)と水辺・湿地の有無(第7節)で決まる。同じ街区公園でも、施設ガイドの園内施設欄に水に関わる記載がある園とない園があり、護岸が垂直か緩やかかは現地で確かめるほかない。
10.2 水辺の記載を持つ園と河川沿いの園
第7節・第8節で見たとおり、水辺の形態と護岸のつながり方は、両生類・爬虫類にとって特に重要な条件である。磐田市の公園データの中でこの観点から目を引くのは、まず園内に水の流れを持つ園である。施設ガイドには、今之浦公園に「噴水広場」「じゃぶじゃぶスポット」「流れ」、安久路公園に「流れ」、豊田香りの公園に「カスケード(滝)」の記載がある。これらは人の水遊びのための施設であり、護岸の形状や水の動きの強さは施設ガイドの記載だけでは分からないため、両生類の産卵に適しているかどうかは踏査で確かめる以外に判断できない。次に、河川沿い・河川敷の公園である。竜洋西堀河川敷公園(34,490平方メートル)、竜洋西堀緑地公園・竜洋南部緑地公園の緑道2園、豊田天竜川わんぱく広場、天竜川ラブリバー公園、豊田ラブリバー公園といった天竜川水系沿いの園は、水辺と陸上の湿った環境がつながりやすい立地として、本稿の一般論が当てはまりうる候補地になる。竜洋海洋公園(221,722平方メートル・市内最大)は親水プールなど人工的な水施設を多く備えるが、これらは両生類の産卵条件とは別の性格の水であり、区別して考える必要がある。
10.3 摩擦への備えと当サイト自身への示唆
第9節で整理したヘビへの向き合い方は、磐田市の公園でも当然当てはまる。公園内で対応に迷う出来事が起きた場合や、護岸・水路の構造に関する相談については、公園を所管する磐田市都市整備課(電話0538-37-4806)が入口になる。9地区(見付・中泉・御厨・豊田・南部・向陽・竜洋・福田・豊岡)にはそれぞれ公園があり、地区ごとに水辺の有無や護岸の形状は大きく異なると考えられるが、その違いを具体的に述べるだけの踏査結果は、現時点の当サイトにはない。
最後に、当サイト自身への示唆を述べる。ATAWI PARKは公園100園のデータベースであり、運営する富士ヶ丘サービス株式会社の事業の傍らで、踏査はこれから始まる段階にある。本稿の枠組みからは、踏査の記録項目に「水辺の有無と形態(池・水路・湿った草地)」「護岸の形状(垂直か緩やかか)」「日なた・日陰・隠れ場所の組み合わせ」「周辺の道路との位置関係」といった、現地で数分確かめられる観察項目を加えるだけで、人の施設のデータベースに両生類・爬虫類の目の一列を足せることが示唆される。専門調査ではなくても、同じ項目と同じ書式で100園を見て回った記録は、後の比較の基準として意味を持つはずである。
10.4 記録に季節と天候を添える意味
第3節・第5節で見たとおり、両生類・爬虫類の活動は気温・湿度・季節によって大きく変わる。したがって、仮に将来の踏査で池や水路の周辺に生き物の姿や痕跡が確認できたとしても、その記録に日付・時刻・天候を添えなければ、後から見返したときに条件をそろえて比較することができない。同じ水辺でも、晴れた昼と雨上がりの朝とでは、観察できる姿がまったく異なりうるからである。この点は、鳥を扱う近縁の論考が指摘した「日時のない観察記録は比較できない」という論点と共通しており、当サイトが今後、生き物に関する記録を蓄積していくうえで、分類群を問わず踏まえるべき基本的な作法であると言える。
11. 結論と今後の課題
本稿は、両生爬虫類学の基礎概念を用いて、都市公園を両生類・爬虫類の生活史の側から読み直す試みであった。外温性という共通の性質が日光浴と隠れ場所への依存を生み、両生類に固有の二相的な生活史と皮膚呼吸への依存が水辺との強い結びつきを生み、爬虫類の鱗と卵の構造がより乾いた環境への適応を可能にしてきたことを確認した。そのうえで、公園の池・水路・湿った草地という資源が、これらの動物にとってどのような役割を果たしうるか、そしてコンクリート護岸や道路といった構造が、その役割をどう妨げうるかを検討した。世界的に指摘されてきた両生類の減少という文脈を踏まえれば、身近な公園の水辺の一つひとつが、決して小さな意味しか持たない場所ではないことも見えてきた。
11.1 本稿が示したこと
本稿の議論をあらためて要約すれば、次のようになる。第一に、両生類・爬虫類の行動は気温・日照・湿度という環境条件に強く規定され、公園の質はこれらの条件の組み合わせによって決まる。第二に、両生類にとっての公園の価値は、産卵に適した止水域と、そこから続く湿った陸上環境のつながりにある。第三に、爬虫類にとっての公園の価値は、日光浴の場所と隠れ場所、産卵・越冬に適した土の組み合わせにある。第四に、垂直なコンクリート護岸や交通量の多い道路は、両生類・爬虫類の移動を妨げる構造として作用しうる。第五に、ヘビをはじめとする爬虫類との向き合い方は、恐怖をあおらず、近づかない・触らない・判断は関係機関へという原則で整理できる。
11.2 本稿の限界
本稿には明確な限界がある。第一に、磐田市の公園における両生類・爬虫類の具体的な生息状況について、当サイトはいかなる情報も持たず、本稿でも一切述べていない。第二に、本稿で扱った知見の多くは、法令や公的指針に明記のあるものを除けば、「〜とされる」「〜という研究群がある」という一般論の水準にとどまり、磐田市という特定の地域に固有の検証を経たものではない。第三に、両生類・爬虫類の種ごとの生態には大きな幅があり、本稿はその幅を捨象した大づかみの整理に依っている。これらの限界は、次項で述べる今後の課題によって補われるべきものである。
11.3 今後の課題
今後の課題は大きく三つある。第一に、当サイトの現地踏査において、水辺の有無・形態、護岸の形状、日なた・日陰・隠れ場所の組み合わせといった、両生類・爬虫類の目で見た環境要素を記録項目に加えていくことである。これは専門的な種の同定を必要とせず、環境の条件を記述するだけで意味を持つ作業である。第二に、公園の護岸や水路の設計・維持管理において、治水や安全という優先事項と、両生類・爬虫類の移動経路を確保するという配慮とをどう両立させるかという、造園学・土木工学にまたがる課題への目配りを続けることである。第三に、ヘビをはじめとする爬虫類との向き合い方について、恐怖をあおらず、しかし安全にも配慮した情報提供のあり方を、行政・地域・当サイトのそれぞれが引き続き模索していくことである。
公園でしゃがみこんでオタマジャクシを見つめる子どもにとって、目の前の水たまりが両生類の生活史のどの段階を支えているのか、その水たまりから次の水辺までどれだけの距離があるのか、といったことは意識されない。しかし、そうした条件の組み合わせこそが、その子どもが将来も公園でカエルやトカゲに出会えるかどうかを静かに左右している。両生爬虫類学の視点から公園を見直す作業は、派手な発見をもたらすものではないが、公園という身近な場所が、人だけでなく変温動物にとっても意味を持つ場所であり続けるために、地道に積み重ねる価値のある視点であると考える。
参考文献
- ウィリアム・E・デュエルマン、リンダ・トルーブ(1986)『Biology of Amphibians』(McGraw-Hill)
- F・ハーヴィー・パウ、ロビン・M・アンドリューズ、ジェームズ・E・カドル、マーサ・L・クランプ、アラン・H・サヴィツキー、ケントウッド・D・ウェルズ(2015)『Herpetology』第4版(Sinauer Associates/Oxford University Press)
- サイモン・N・スチュアート他(2004)「Status and Trends of Amphibian Declines and Extinctions Worldwide」Science, 306
- デイヴィッド・B・ウェイク、ヴァンス・T・ヴレデンバーグ(2008)「Are We in the Midst of the Sixth Mass Extinction? A View from the World of Amphibians」PNAS, 105
- J・ホイットフィールド・ギボンズ他(2000)「The Global Decline of Reptiles, Deja Vu Amphibians」BioScience, 50
- レナート・ファリグ他(1995)「Effect of Road Traffic on Amphibian Density」Biological Conservation, 73
- レイモンド・D・ゼムリッチ(1998)「Biological Delineation of Terrestrial Buffer Zones for Pond-Breeding Salamanders」Conservation Biology, 12
- 松井正文(2006)『カエル 水辺の隣人』(中公新書)
- 疋田努(2002)『爬虫類の進化』(東京大学出版会)
- 前田憲男、松井正文(1999)『改訂版 日本カエル図鑑』(文一総合出版)
- 環境省自然環境局「レッドデータブック・レッドリスト(両生類・爬虫類)」
- 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号)
- 都市公園法(昭和31年法律第79号)・都市公園法施行令(国土交通省 都市公園のページ)
- 国土交通省「都市公園における遊具の安全確保に関する指針(改訂第3版)」(令和6年6月)
- 磐田市オープンデータ「都市公園一覧」(CC BY 3.0・出典:磐田市)
- 磐田市 施設ガイド(公園)
本稿は ATAWI PARK 編集部による総説的な論考であり、学会誌等の査読を経た学術論文ではありません。引用は広く知られた著作・公的資料に限り、磐田市固有の事実は当サイトのデータベースと磐田市の公開情報にもとづきます。個々の公園の設備・状態は現地でご確認ください。医療・安全に関する判断は医療機関・関係機関の指示を優先してください。