生命・健康・心理・教育保育政策
園庭のない保育園と公園——代替園庭という制度とその現実
要旨
保育所には屋外遊戯場、いわゆる園庭を設けることが原則とされているが、その基準には当初から、付近にある公園や広場をもって代えることができるという代替の規定が組み込まれてきた。都市部を中心に、自園内に園庭を持たない保育所の存在が知られるようになって久しいが、その存在は制度の抜け穴ではなく、制度が最初から用意していた選択肢の帰結である。本稿はこの点を出発点とし、代替園庭という制度がどのように設計され、どのような条件のもとで機能することを想定されているかを整理する。方法は文献整理と法令・制度の記述であり、特定施設や自治体の運用の当否を評価するものではない。
議論は次の順で進む。まず児童福祉法体系のなかで屋外遊戯場の基準がどう定められ、面積要件と代替規定がどのような経緯で並存してきたかを確認する。次に、待機児童対策のもとで保育所の整備が進められるなかで、なぜ園庭を持たない施設が都市部を中心に増えたのかを、土地取得の制約という観点から検討する。続いて幼保連携型認定こども園における基準との異同を確認したうえで、散歩という日常の移動がなぜ保育の内容の一部として位置づけられるのかを、保育所保育指針を手がかりに論じる。さらに、移動にともなう安全確保の論点と、同じ公園を複数の施設が利用する場合に生じる調整の問題を、コモンズ論の枠組みを借りて検討する。
本稿の主張は、代替園庭という制度を、園庭の不足を補う次善の策としてのみ理解するのではなく、公園という公共空間が保育というもう一つの制度と接続される場面として理解し直すべきだという点にある。この接続は、保育所の側の事情だけでなく、公園の設計・維持管理の側の事情によっても左右される。磐田市については、街区公園51園を中心とする100園という構成と、市の施設ガイドに記載のある遊具・トイレ等の設備を、保育の場としての利用という観点から読み替え、今後の踏査で確認すべき論点を示す。特定の保育施設や磐田市の運用を評価するものではない。
キーワード保育政策屋外遊戯場代替園庭待機児童対策散歩キッズ・ゾーン幼保連携型認定こども園
1. はじめに——問題の所在
保育所には園庭がある、という像は必ずしも正確ではない。都市部を中心に、敷地内に屋外の遊び場を持たない保育所が一定数存在することは、保育に関わる制度を調べればすぐに分かる事実である。しかしこの事実は、しばしば「本来あるべきものが欠けている」という不足の物語として語られる。本稿はこの物語をいったん保留し、制度がどのように設計されているかを先に確認することから始める。
確認すべき出発点は単純である。保育所の設備を定める基準は、屋外遊戯場(いわゆる園庭)を設けることを求めながら、同時に、その場所を付近の公園や広場をもって代えることを認めてきた。つまり、園庭を自園内に持たない保育所は、基準への違反ではなく、基準が最初から用意していた選択肢の結果として存在する。この構造を踏まえたうえで、本稿は次の三つの問いを立てる。第一に、代替を認める規定はどのような条件のもとに置かれているか。第二に、なぜ都市部でこの選択肢が現実に選ばれる場面が増えたのか。第三に、公園が保育の場として使われるとき、公園の側にはどのような論点が生じるか。
1.1 用語の整理
本稿でいう屋外遊戯場とは、児童福祉施設の設備を定める基準における公式の呼称であり、一般には園庭と呼ばれる場所を指す。代替園庭という語は本稿の便宜的な呼び方であり、法令上の正式な用語ではない。保育所の付近にあって屋外遊戯場の役割を代わりに果たす公園・広場等を指して用いる。以下ではこの区別を保ったまま論を進める。
1.2 なぜこの主題を取り上げるのか
この主題は、子育て世代・行政・地域の関係者・学生という、当サイトが想定する読者のそれぞれにとって異なる意味を持つ。子育て世代にとっては、自分の子どもが通う、あるいは通うことを検討している保育所が、屋外での活動をどのような場所で行っているかを理解する手がかりになる。行政にとっては、保育の制度と公園の制度という、それぞれ別の部局が所管しがちな二つの制度が接続する場面をどう把握するかという課題に関わる。地域の関係者にとっては、身近な公園が保育の場としても使われているという事実を踏まえて公園と向き合う視点を提供する。そして学生にとっては、一見すると独立して見える二つの制度——児童福祉と都市公園——が、条文レベルで結びついている具体例として、制度分析の題材になりうる。
当サイト(ATAWI PARK)が公開する「公園学術論文」は、それぞれの学問領域から公園という対象に光を当てる読みものの一群であり、本稿はそのうち保育政策という領域を担当する一編である。他の領域を扱う論文と同様、本稿の目的は特定の立場を主張したり、特定の施設・自治体の取り組みを評価したりすることではなく、制度の骨格を正確に描き出し、そこに含まれる論点を整理することにある。
1.3 方法と対象範囲
方法は法令・公的資料の整理と概念的な検討であり、特定の保育所や自治体の運用について、その当否を評価するものではない。認可保育所を中心的な対象としつつ、幼保連携型認定こども園の基準にも触れる。認可外保育施設や、地域型保育事業の各類型に固有の細かな基準差異までは立ち入らない。移動中の安全確保についても、判断は保育の実施主体や関係機関に委ねられる事柄であり、本稿は制度上の論点を整理するにとどめ、具体的な安全性の判定は行わない。
本稿がとりわけ強調したいのは、屋外遊戯場と代替公園という二つの語のあいだの関係を、優劣ではなく設計として読むという姿勢である。園庭がある保育所を標準とし、代替公園による保育所をその欠如態として位置づける見方は、条文の実際の構造とは合わない。条文は当初から二つの選択肢を並置しており、本稿はこの並置という事実に忠実であろうとする。
1.5 本稿の構成
第2節で屋外遊戯場と代替規定の法制度上の位置づけを整理する。第3節で面積基準と代替の要件を具体的に確認し、第4節で都市部において代替園庭が選ばれてきた背景を検討する。第5節では幼保連携型認定こども園の基準との異同を確認する。第6節で散歩という移動が保育の内容としてどう位置づけられるかを論じ、第7節で移動にともなう安全確保の論点、第8節で複数施設が同じ公園を利用する場合の調整の問題を扱う。第9節で予想される反論に応答し、第10節で磐田市の公園への示唆を、第11節で結論と今後の課題を述べる。
註:本稿は保育制度の解説を目的とするものであり、特定の保育所・幼稚園・認定こども園、および磐田市を含むいずれの自治体の運用についても、その適否を評価・判定するものではない。
2. 先行研究と概念の整理——児童福祉の基準体系のなかの屋外遊戯場
保育所の設備を定める基準は、児童福祉法(昭和22年法律第164号)にもとづく省令、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(昭和23年厚生省令第63号)にさかのぼる。この省令はもともと児童福祉施設最低基準と呼ばれ、戦後の児童福祉制度の出発点に置かれたものである。その第32条にあたる部分に、満2歳以上の幼児を保育する保育所に設けるべき設備として、保育室又は遊戯室と並んで屋外遊戯場が挙げられている。そして同じ条文のなかに、この屋外遊戯場は「保育所の付近にある屋外遊戯場に代わるべき公園、広場等を含む」という一文が置かれている。つまり代替を認める規定は、後から追加された特例ではなく、基準の当初の条文に組み込まれた設計である。
2.1 なぜ代替が制度化されたのか
この規定の趣旨を厳密に跡づける文献を本稿は特定しないが、条文の構造そのものから読み取れることがある。基準が求めているのは「屋外遊戯場という土地の所有」ではなく、「幼児が屋外で体を動かせる場所へのアクセス」である。目的が後者にあるとすれば、自園内の土地であるか付近の公園であるかは、目的に対して代替可能な手段の違いにすぎない。この読み方に立てば、代替園庭は次善の策ではなく、目的に対する二つの実現手段の一つとして、当初から制度に組み込まれていたことになる。
2.2 関連する法制度の年表
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1947年 | 児童福祉法制定(昭和22年法律第164号) |
| 1948年 | 児童福祉施設の設備及び運営に関する基準制定(昭和23年厚生省令第63号)。屋外遊戯場の規定を含む |
| 1956年 | 都市公園法制定(昭和31年法律第79号) |
| 2006年 | 認定こども園法制定(就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律) |
| 2011年 | 地域主権改革一括法(第1次一括法)成立。設備運営基準の一部を条例に委任 |
| 2012年 | 子ども・子育て支援法制定(子ども・子育て支援新制度の基盤) |
| 2015年 | 子ども・子育て支援新制度の施行。地域型保育事業(小規模保育事業等)が制度化される |
| 2017年 | 保育所保育指針の改定告示(翌年度から適用) |
| 2019年 | キッズ・ゾーンの設定の推進についての通知(内閣府・厚生労働省ほか) |
2.3 基準の決め方が変わった経緯
屋外遊戯場を含む児童福祉施設の設備運営基準は、当初は厚生省令として全国一律に定められていた。その後、地域主権改革一括法(第1次一括法、平成23年法律第37号)による地方分権改革の一環として、基準を条例で定める権限の一部が都道府県・政令指定都市・中核市に委譲された。この改革のもとでは、国が定める基準が「従うべき基準」「標準」「参酌すべき基準」の三つに区分され、地方自治体はこの区分に応じて、国の基準にどこまで独自の判断を反映できるかが定められている。屋外遊戯場の面積基準を含む一部の基準は、住民の生命・身体の安全に直結する項目として、地方自治体が独自に緩和することのできない「従うべき基準」に位置づけられているとされる。他方、細目のいくつかは地域の実情に応じて条例で定めうる部分を残しているとされる。この二層構造は、全国一律の最低水準を保ちながら、地域ごとの運用の余地を認めるという、地方分権改革に共通する考え方の表れである。
この経緯を踏まえると、代替園庭という規定そのものは全国共通の基準に由来するが、「付近」という語の具体的な運用——どの程度の距離までを付近と認めるか、代替施設として適格と判断する際にどのような点を確認するか——については、認可権限を持つ都道府県・政令指定都市・中核市ごとに、実務上の運用に幅がありうる。この幅の存在は、本稿が磐田市に固有の運用実態を確認できていないこととあわせて、次節以降の議論の前提として留意しておく必要がある。
2.4 本稿が依拠する概念
本稿は主に三つの概念群を手がかりとする。第一に、児童福祉法体系における設備基準という制度的な枠組みである。第二に、都市公園法にもとづく公園の誘致距離・種別という、磐田市の公園を理解するための枠組みである。第三に、複数の主体が同じ資源を利用する場面を扱うコモンズ論であり、ギャレット・ハーディン(1968)の「共有地の悲劇」論とエリノア・オストロム(1990)による、共有資源が制度的な取り決めによって持続的に管理されうるという知見を、第8節で複数施設による公園利用の調整を論じる際に参照する。これらはいずれも公園そのものを主題とした理論ではないが、保育所と公園という二つの制度が接続する場面を記述するために有効な視点を与える。
註:本稿における屋外遊戯場という語は、児童福祉施設の設備基準上の正式な用語である。以下では読みやすさのため園庭という語も併用するが、両者は同じ対象を指す。
3. 屋外遊戯場の基準——面積要件と代替の条件
児童福祉施設の設備及び運営に関する基準は、満2歳以上の幼児を保育する保育所の屋外遊戯場について、面積の下限を定めている。その基準は、幼児1人につき3.3平方メートル以上という数値で示される。この数値そのものは条文に明記された基準であり、本稿ではこの限りで数値を挙げる。3.3平方メートルという広さは、畳2枚分程度の面積であり、これに定員となる幼児数を乗じた広さが、保育所として最低限確保すべき屋外遊戯場の面積となる。
3.1 代替が認められる条件
条文が代替を認めているのは「付近にある」公園・広場等であって、遠隔地の公園ではない。付近という語の具体的な距離が数値で定められているわけではないが、行政の運用にあたっては、日常的に利用できる範囲にあること、移動に無理のない距離であること、安全に利用できる状態にあることが確認されるとされる。加えて、公園そのものが公共の用に供される施設である以上、保育所が独占的に利用できるわけではなく、他の利用者との共存が前提となる。この点は第8節で改めて論じる。
3.2 面積基準の対象になるのは誰か
基準が対象とするのは満2歳以上の幼児である。乳児及び満2歳に満たない幼児については、屋外遊戯場ではなく、乳児室又はほふく室の設置が求められる。つまり同じ保育所のなかでも、対象となる子どもの年齢によって適用される設備基準が異なる。乳児の保育を中心とする小規模な施設では、屋外遊戯場そのものが基準上必須とされない場合もあり、この年齢区分は代替園庭を考えるうえで見落とされやすい前提である。
3.3 屋内の面積基準との対比
屋外遊戯場の基準を理解するには、同じ省令が定める屋内設備の面積基準とあわせて見ると位置づけが明確になる。乳児室は乳児1人につき1.65平方メートル以上、ほふく室は満2歳に満たない幼児1人につき3.3平方メートル以上、満2歳以上の幼児が使う保育室又は遊戯室は1人につき1.98平方メートル以上とされる。これらと比べると、屋外遊戯場の3.3平方メートルという数値は、屋内の保育室の基準よりも広い面積を、幼児1人あたりに割り当てていることが分かる。屋外での活動に、屋内より広い専有面積を想定していることになる。
| 設備 | 対象となる子ども | 面積の下限(1人あたり) |
|---|---|---|
| 乳児室 | 乳児 | 1.65平方メートル以上 |
| ほふく室 | 満2歳に満たない幼児 | 3.3平方メートル以上 |
| 保育室又は遊戯室 | 満2歳以上の幼児 | 1.98平方メートル以上 |
| 屋外遊戯場 | 満2歳以上の幼児 | 3.3平方メートル以上(付近の公園等で代替可) |
3.4 「代わるべき」という表現をどう読むか
条文の「代わるべき」という表現は、公園が屋外遊戯場そのものの機能を実質的に果たすことを求めていると読める。単に近くに公園があるという事実だけでなく、その公園が幼児の屋外での活動という目的に照らして機能しうる状態にあることが、代替の要件として含意されている。舗装の状態、遊具の有無、見通しの良さといった具体的な条件は条文自体には列挙されていないが、目的適合性という考え方は、次節以降で保育所の立地と公園の関係を検討する際の軸になる。
この対比は、代替園庭の議論にとってもう一つの含意を持つ。屋内の設備は保育所の裁量で改修・維持できるのに対し、代替となる公園の状態は、保育所ではなく公園の管理者の判断に左右される。屋外遊戯場という同じ名称の基準でありながら、自園内に確保する場合と代替する場合とでは、その面積・状態を誰が管理し維持するのかという主体が異なる。この主体の違いは、次節以降で扱う立地選択や利用調整の論点の背景にある。
3.5 認可の審査における確認
保育所の開設にあたっては、都道府県・政令指定都市・中核市による認可の審査を受ける。代替園庭を用いる場合には、この審査の過程で、代替する公園等の位置・面積・利用可能性が確認されるとされる。ただし、審査でどこまで詳細な確認が行われるか、確認の結果がどのように記録され公開されるかについて、本稿は全国共通の統一的な運用基準を把握しておらず、認可権者ごとに実務上の幅がありうることは第2節で述べたとおりである。したがって、ある保育所が代替園庭として特定の公園を用いていること自体は、審査を経た結果として制度上正当なものであるが、その具体的な適合性の判断根拠までは、外部から一様に検証できるとは限らない。
註:3.3平方メートルという数値は、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準に明記された全国一律の下限である。個々の保育所における実際の面積は、これを上回る場合も含めて施設ごとに異なる。
4. なぜ園庭のない保育所が都市部で増えたのか
代替園庭という選択肢が制度の当初から存在していたにもかかわらず、それが広く知られるようになった背景には、都市部における保育所整備の事情がある。就学前の子どもを持つ世帯からの保育需要が高い地域では、いわゆる待機児童の解消が長く政策課題とされ、厚生労働省は「子育て安心プラン」(平成29年)や「新子育て安心プラン」(令和2年)といった整備計画のもとで、保育の受け皿を増やす取り組みを進めてきた。
4.1 土地取得の制約という条件
保育の受け皿を増やすには、保育所を新設するか、既存施設の定員を増やすかのいずれかが必要になる。地価の高い市街地では、3.3平方メートルに定員数を乗じた広さの屋外遊戯場を自園内に確保したうえで保育室等の床面積も満たす土地を見つけることは、必ずしも容易ではない。ビルの一室や、狭小な敷地を活用して開設される保育所が都市部に存在することはよく知られており、そうした立地では、屋外遊戯場を自園内に持たないという選択が、待機児童対策という政策目的と、代替規定という制度上の手段の組み合わせによって現実の選択肢になる。
4.2 地域型保育事業という制度上の受け皿
2015年に施行された子ども・子育て支援新制度は、小規模保育事業をはじめとする地域型保育事業という枠組みを新たに設けた。これは、比較的小規模な定員で、住宅地の空きスペース等を活用して開設できる保育の類型であり、待機児童の多くを占める低年齢児の受け皿として位置づけられてきた。この類型に適用される設備運営基準は、施設の規模や年齢構成に応じて保育所とは異なる部分を持ち、屋外遊戯場についても類型によって適用のされ方が異なるとされる。地域型保育事業の普及は、代替園庭という選択肢がより身近になった一因と考えられる。
4.3 公有地・国有地の活用という手段
土地取得の制約に対応する手段として、自治体が保有する未利用地や、国有地を保育所用地として貸し付ける仕組みも活用されてきたとされる。国有財産を保育所等の整備に活用する場合、貸付料を軽減する措置が講じられる場合があるとされ、こうした仕組みは、市街地のなかでまとまった土地を新たに取得することが難しい事業者にとって、保育所を開設する選択肢を広げる方向に働く。ただし、このようにして確保される土地が、屋外遊戯場に必要な面積まで含めて十分な広さを持つとは限らず、公有地・国有地の活用と代替園庭の利用が、あわせて選ばれる場面も生じうる。
4.4 立地の選び方という視点
保育所の立地は、屋外遊戯場の確保しやすさだけで決まるわけではない。送り迎えをする保護者の通勤経路との近さ、最寄り駅からの距離、住宅地の分布といった、保育の利用しやすさに関わる条件が、立地選定において重視されると考えられる。この観点に立てば、屋外遊戯場を自園内に持つ土地よりも、利便性の高い立地を優先し、屋外遊戯場については代替園庭で対応するという判断は、保育所の運営主体にとって合理的な選択でありうる。この判断の当否そのものを本稿は評価しないが、代替園庭の増加を、単に土地不足の結果としてのみ説明するのではなく、立地の優先順位づけという運営上の判断の帰結としても捉えられることを指摘しておく。
4.5 「園庭がない」ことの意味の変化
以上の経緯を踏まえると、園庭を持たない保育所の増加は、基準が緩んだ結果というよりも、待機児童対策という政策目的の実現手段として、当初から用意されていた代替規定が現実に活用されるようになった結果として理解できる。この理解は、代替園庭を持つ保育所の保育の質を無条件に肯定するものではない。次節では、幼保連携型認定こども園における基準との異同を確認し、代替規定が保育制度全体のなかでどのように位置づけられているかをさらに整理する。
註:待機児童対策の具体的な整備数・充足率等の統計値は、年度や自治体によって異なり、本稿では立ち入らない。関心のある読者は厚生労働省の公表資料を参照されたい。
5. 幼保連携型認定こども園における基準との異同
保育所とは別の枠組みとして、幼稚園と保育所の機能をあわせ持つ幼保連携型認定こども園が、認定こども園法(平成18年法律第77号)にもとづいて制度化されている。この類型の設備・運営基準は、幼保連携型認定こども園の学級編制、職員、設備及び運営に関する基準(平成26年内閣府・文部科学省・厚生労働省令第1号)に定められており、屋外遊戯場に相当する設備についても、保育所の基準とおおむね対応する内容を持つとされる。
5.1 共通する構造
幼保連携型認定こども園の基準においても、満2歳以上の子どもを対象とする屋外の運動の場所について、面積の下限が定められ、かつ付近の公園等をもって代えることができるという構造が置かれている。保育所と幼保連携型認定こども園は、根拠法令も所管も異なる別個の制度であるが、屋外遊戯場をめぐる考え方の骨格は共通している。この共通性は偶然ではなく、幼保連携型認定こども園の制度設計が、保育所の基準を一つの参照点としながら組み立てられてきたことの表れと理解できる。
5.2 認定こども園の四つの類型
認定こども園には、本稿がここまで扱ってきた幼保連携型のほかに、幼稚園型・保育所型・地方裁量型という四つの類型がある。幼稚園型は既存の幼稚園が保育所的な機能を加えたもの、保育所型は既存の保育所が幼稚園的な機能を加えたもの、地方裁量型はいずれの認可も受けていない地域の教育・保育施設が都道府県の認定を受けるものとされる。これらの類型は、もとになる施設が幼稚園であるか保育所であるかによって、適用される設備基準の出発点が異なり、屋外遊戯場に相当する設備の扱いについても、類型ごとに参照する基準が異なりうる。本稿は幼保連携型を中心に扱い、他の三類型に固有の基準差異までは立ち入らない。
5.3 異なりうる点
他方で、幼保連携型認定こども園は教育と保育の両方の機能を担うため、教育時間帯の利用と保育時間帯の利用とで、屋外遊戯場・代替公園の使われ方が異なる場面が生じうる。在園する子どもの年齢層や在園時間の幅も保育所より広くなりやすく、代替する公園に求められる条件——遊具の対象年齢や、長時間の滞在に耐えうる日陰やベンチの有無など——も、保育所の場合とは重なりつつも同一ではない可能性がある。この点についての確立した知見を本稿は挙げないが、論点として指摘しておく。
また、幼保連携型認定こども園では、教育を目的とする利用者と保育を目的とする利用者が同じ施設に混在するため、一日のなかで屋外の活動に出かける子どもの人数が、保育所単独の場合より多くなる時間帯が生じうる。同じ代替公園を利用する場合でも、一度に移動する子どもの人数が多ければ、引率の体制や公園内での区画の使い方に、保育所とは異なる工夫が必要になると考えられる。この論点も確立した知見にもとづくものではなく、制度上の構造から導かれる推測にとどまる。
5.4 制度の違いを踏まえた読み方
保育所と幼保連携型認定こども園という異なる制度のもとで、屋外遊戯場をめぐる考え方が共通の骨格を持つという事実は、代替園庭という発想が、特定の制度に固有の便法ではなく、幼児の屋外での活動の場をどう確保するかという、より広い政策課題に対する一つの標準的な解であることを示唆する。幼稚園型・保育所型・地方裁量型を含む他の類型についても、根拠となる基準は異なりながら、屋外での活動の場を何らかの形で確保することを求める点では共通していると考えられる。次節では、この標準的な解のもとで、散歩という日常の移動がどのように保育の内容として位置づけられているかを検討する。
註:本節は制度上の条文の対応関係を示すものであり、保育所と幼保連携型認定こども園のいずれが望ましいかを論じるものではない。
6. 散歩論——移動が保育の内容になるということ
代替園庭という制度のもとでは、保育所から公園までの移動そのものが、日課のなかに繰り返し組み込まれる。この移動は、単に目的地に到達するための手段ではなく、保育所保育指針(平成29年厚生労働省告示第117号)が掲げる、環境を通して行う保育という考え方のもとで、それ自体が保育の内容の一部として位置づけられる。歩く、周囲を見る、季節の変化に気づく、道で出会う人に挨拶するといった経験は、目的地の公園に着く前から始まっている。
6.1 散歩に見出される複数の意味
散歩という営みには、少なくとも三つの意味が重なっている。第一に身体的な意味であり、歩くこと自体が幼児の体力や歩行の力を育てる機会になる。第二に認知的な意味であり、道順を覚える、標識や信号を見分けるといった経験が、身近な環境についての理解を広げる。第三に社会的な意味であり、近隣の人との挨拶や、地域の行事・季節の風物に触れる機会が、保育所という施設の外側にある地域社会との接点を作る。これら三つの意味は、屋外遊戯場が敷地内にある保育所であれば必ずしも日常的に得られるとは限らない経験である。
6.2 代替園庭ゆえに得られる経験という見方
この観点に立つと、屋外遊戯場を自園内に持たないことは、単なる不利益としてのみ捉えるべきではない。園庭がすぐそこにある保育所では省略されうる日常的な散歩の機会が、代替園庭の仕組みのもとでは自動的に日課へ組み込まれる。ただし、これは代替園庭のほうが優れているという主張ではない。両者は異なる経験の型を子どもに提供するのであって、優劣の一般的な序列を導く根拠を本稿は持たない。
6.3 年齢による違い
散歩の内容は、子どもの年齢によって大きく異なると考えられる。歩行が安定しない年齢の子どもについては、ベビーカーを用いた移動や、抱っこによる短い外出が中心になり、目的地での活動時間よりも移動そのものの負担が大きくなりやすい。一方、自分の足で歩けるようになった年齢の子どもについては、列になって歩く経験そのものが日課の一部となり、目的地の公園に着くまでの過程にも保育のねらいが込められる。年長になるにつれて、歩く距離や行き先の選択肢は広がり、複数の公園を組み合わせた散歩や、やや遠い公園への外出も行われうる。この年齢による違いは、代替園庭の利用のされ方が、保育所内の年齢構成によって一様ではないことを示している。
6.4 季節・気象条件との関係
散歩は年間を通じて一定の頻度で行われるとは限らない。夏季については、環境省が公表する暑さ指数(WBGT)が、屋外での活動の可否を判断する目安として参照されることがあるとされ、指数が高い時間帯には屋外での活動を控える判断がなされる場合があるとされる。降雨や積雪、強風といった気象条件も、散歩の実施を左右する。こうした気象条件への対応は、代替園庭を利用する保育所に限らず、屋外活動を行うすべての保育の現場に共通する論点であるが、代替園庭のもとでは、園庭が使えない日にただちに屋外遊戯場そのものを利用できないという意味で、より直接的に日課へ影響しうる。
6.5 兄弟姉妹という視点
散歩を保育の内容として捉える視点は、同じ保育所に通う兄弟姉妹がいる家庭にとっても意味を持つ。年齢の異なる兄弟姉妹が同じ保育所に在籍する場合、下の子が上の子の散歩の様子を間接的に聞くことや、送り迎えの際に上の子が通った公園について話すことが、家庭内での会話の材料になりうる。これは散歩そのものの制度的な位置づけとは別の論点であるが、代替園庭のもとでの日常的な公園利用が、保育所の中だけで完結せず、家庭に持ち帰られる経験としても機能しうることを示している。
6.6 移動先としての公園の選ばれ方
保育所が散歩の行き先として選ぶ公園は、必ずしも一つに固定されているとは限らない。天候や季節、子どもの年齢、その日のねらいに応じて、複数の公園を使い分ける運用も想定される。都市公園法にもとづく公園の種別のうち、街区公園は徒歩による日常利用を想定した誘致距離(およそ250メートル)を持つ最も身近な種別であり、保育所の散歩の行き先として制度上想定されやすい規模の公園である。次節では、この移動そのものにともなう安全確保の論点を検討する。
註:散歩の頻度や行き先の選び方は施設ごとの保育計画に委ねられており、本稿は特定の運用を推奨・評価するものではない。
7. 移動と安全確保をめぐる論点
代替園庭という制度は、保育所の外へ子どもを連れ出す移動を前提とする。移動には道路の横断や交通量のある区間の通行がともなうことがあり、屋外遊戯場を自園内に持つ保育所と比べて、外部の交通環境に接する機会が増える。この点についての判断——引率の体制や経路の選び方、安全対策の水準——は、個々の保育の実施主体と、道路・交通を所管する関係機関の責任のもとで検討されるべき事柄であり、本稿はその当否を判定しない。以下では、この論点をめぐって制度上どのような動きがあったかを確認するにとどめる。
7.1 キッズ・ゾーンという政策の登場
2019年、保育所等の周辺の道路における交通事故を背景として、内閣府と厚生労働省ほかの連名で「キッズ・ゾーンの設定の推進について」という通知が発出された。これは、保育所等が散歩等で日常的に利用する道路を含む区域について、市区町村が道路管理者・警察と協議のうえで、ドライバーへの注意喚起等の対策を講じる区域として設定することを推進する枠組みである。この通知の存在は、代替園庭のもとでの移動が、保育所単独の努力だけでなく、道路管理者・警察・市区町村を含む複数の主体の協力を前提とする課題として、政策上も認識されてきたことを示している。
7.2 緊急合同点検という取り組み
キッズ・ゾーンの枠組みに先立って、保育所等が日常的に利用する散歩の経路等を対象に、国と地方公共団体が連携して安全点検を行う取り組みが実施されたことが知られている。こうした点検は、道路管理者・警察・保育の実施主体がそれぞれの立場から経路の状況を確認し、必要な対策を検討する機会として位置づけられる。点検の結果として具体的にどのような対策が講じられたかは、地域や経路ごとに異なり、本稿は個別の結果までは把握していないが、代替園庭のもとでの日常的な移動が、点検という形で継続的に見直される対象になってきたこと自体は指摘できる。
7.3 引率にともなう一般的な論点
保育の現場で広く行われているとされる工夫として、複数の保育士による引率、子ども同士が手をつなぐ列の編成、出発前後の人数確認などが挙げられることがある。これらは個々の保育所の判断と経験の蓄積にもとづくものであり、本稿はその具体的な当否には立ち入らない。重要なのは、こうした工夫の実効性が、道路の側の条件——歩道の有無、横断歩道の位置、見通しの良さ——によっても左右されるという点であり、安全確保は保育所の努力だけに帰属する課題ではないということである。
7.4 公園に到着してからの論点
移動の安全は公園に到着した時点で終わるわけではない。公園内でも、遊具の対象年齢表示や、複数の遊具・利用者が同時に存在する状況のもとでの見守りといった論点が続く。国土交通省の「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」は、遊具の設置管理者の側の点検・維持管理について指針を示しており、保育の場としての利用に固有の基準を定めるものではないが、公園という空間の安全に関する公的な指針として参照できる。医学的な判断や個別の傷病への対応については、保育所の対応の適否を含め、医療機関・関係機関の判断に委ねられるべき事柄である。
また、複数の子どもを同時に見守るという状況は、第7.3節で述べた引率中の論点と地続きである。移動中は列という単純な隊列で人数を把握しやすいのに対し、公園に着いた後は、子どもたちが遊具や広場に分散するため、見守りの態勢はむしろ複雑になりうる。この場面での配置や役割分担は、施設ごとの経験にもとづいて工夫されていると考えられるが、その具体的な手法についての確立した知見を本稿は挙げない。
註:本節で述べた安全確保の論点は、いずれも一般的な制度・政策の紹介であり、特定の事故・事案の原因や責任を特定するものではない。
8. 同じ公園を複数の施設が使うときの調整
代替園庭という制度のもとでは、一つの公園が複数の保育所や幼稚園、こども園にとって共通の行き先になりうる。特に街区公園のように誘致距離の短い、身近な公園ほど、その周辺に複数の施設が立地していれば、同じ時間帯に複数の集団が同じ場所を利用する状況が生じうる。この状況は、公園が特定の施設の専用地ではなく、都市公園法上、広く一般の利用に供される公共施設であることの当然の帰結でもある。
8.1 共有資源としての公園
複数の主体が同じ資源を利用する場面を扱う理論として、コモンズ論がある。ギャレット・ハーディン(1968)は、共有地における各利用者の合理的な行動が、資源全体の過剰利用という望ましくない結果を招きうるという構図を「共有地の悲劇」として描いた。これに対しエリノア・オストロム(1990)は、共有資源は必ずしも悲劇に至るとは限らず、利用者間の取り決めやルールの形成によって持続的に管理されうることを、実証的な事例研究を通じて示した。公園という共有資源における保育施設どうしの利用調整も、この枠組みで捉えることができる。
8.2 生じうる調整の論点
同じ公園を複数の施設が利用する場合、具体的にどのような調整が必要になりうるかを列挙すると、次のような論点が考えられる。時間帯が重なったときにどの区画をどの集団が使うか、遊具の順番待ちをどう扱うか、一般利用者との共存をどう保つか、といった点である。これらの調整の多くは、公式なルールとしてではなく、現場での慣行や施設どうしの非公式な了解によって行われていると推測されるが、その実態を裏づける確立した調査を本稿は把握しておらず、推測の域を出ないことを明記しておく。
8.3 一般利用と占用許可の区別
都市公園法は、公園を不特定多数の利用に供することを基本としつつ、工作物の設置など特定の行為については、公園の管理者による占用の許可を必要とする制度を置いている。保育所が散歩の一環として公園を訪れ、既存の遊具や広場を利用すること自体は、通常、この一般の利用の範囲内にとどまると考えられ、特別な占用の許可を要する行為とは区別される。この区別は、代替園庭としての公園利用が、法制度上は他の一般利用者と同じ資格のもとで行われていることを意味する。保育所が公園を優先的に使う特別な権利を持つわけではなく、複数の施設が同じ公園を使う場面での調整が、公式な許可制度ではなく、当事者間の取り決めや慣行に委ねられやすい理由の一端は、この一般利用という位置づけにあると考えられる。
8.4 制度としての取り決めの可能性
オストロムの知見を踏まえれば、こうした調整は、当事者どうしの自発的な取り決めによって機能しうる余地を持つ。他方で、取り決めが存在しない、あるいは機能しない場合には、限られた時間帯・限られた区画への利用の集中が、公園を利用するどの主体にとっても望ましくない状況を生みうる。この論点は、保育所単独では解決できず、公園の管理者である自治体の関与も視野に入りうる課題であるが、磐田市における実態については、第10節で述べるとおり現時点では踏査による確認がなされていない。
調整の対象となるのは保育施設どうしだけではない。公園は年齢を問わず開かれた場所であり、高齢者の健康遊具の利用や、地域の行事、他の子どもの自由な遊びといった、保育施設の利用とは別の目的を持つ利用者と時間・区画を共にすることになる。第8.2節で挙げた調整の論点は、したがって施設間の関係にとどまらず、保育施設と一般利用者の関係にも同様に当てはまる。この広がりを踏まえると、公園の利用調整という論点は、保育政策の枠内だけで完結する問題ではなく、公園という公共空間の管理のあり方そのものに関わる、より広い課題の一部として位置づけられる。
註:本節はコモンズ論という理論的な枠組みを用いた一般的な検討であり、磐田市を含むいずれかの自治体・施設における実際の調整の有無やその方法を述べたものではない。
9. 反論への応答
ここまでの整理に対しては、少なくとも二つの反論が予想される。本節ではそれぞれを取り上げ、本稿の立場から応答する。ただし、いずれの反論も一定の妥当性を持ちうるものであり、本稿はこれらを退けるというより、本稿の検討範囲との関係を明確にすることを目的とする。
9.1 反論一——代替では自園の園庭に及ばない
第一の反論は、公園による代替は、自園内に園庭を持つことに比べて、日常的な連続性や自由度において劣るというものである。自園の園庭であれば、天候や時間の制約を受けにくく、遊具や地面の状態を保育所の裁量で調整できる。公園はこれらの点で制約が大きい、という主張には理由がある。この反論に対して本稿が述べられるのは、両者が異なる経験の型を提供するという第6節の指摘であり、優劣の一般的な序列を導く根拠を本稿は持たないという限定である。自園の園庭の利点を否定するものではなく、代替園庭にも第6節で述べたような固有の意味があることを、あわせて指摘するにとどまる。
9.2 反論二——安全確保の負担が保育所に偏る
第二の反論は、代替園庭という制度は、屋外遊戯場という設備の確保責任を、実質的には移動の安全確保という別の負担に置き換えているにすぎない、というものである。自園内に園庭があれば生じない道路の横断や交通への対応が、代替園庭のもとでは日常的に必要になる。この負担の増加は保育所の側に集中しやすい、という指摘には理由がある。これに対して本稿は、第7節で述べたキッズ・ゾーンの枠組みのように、負担を保育所単独に帰属させず、道路管理者や警察を含む複数の主体で分担する政策的な動きがあることを指摘するが、それによってこの反論が全面的に解消されるとは主張しない。
9.3 反論三——公園は保育所の都合を優先すべきでない
第三の反論は、逆の方向から提起される。すなわち、公園はもともと保育所のための施設ではなく、あらゆる年齢・立場の利用者に開かれた公共空間であり、保育所による日常的な利用を前提に公園の設計や管理を考えること自体が、公園の性格をゆがめかねない、という反論である。この指摘は、第8節で確認した一般利用という位置づけと整合的であり、保育所が公園に対して特別な地位を主張できないことの裏返しでもある。本稿はこの反論を否定しない。本稿が第10節以降で述べる示唆は、公園の設計や管理を保育所の利用に合わせて変えるべきだという主張ではなく、公園という既存の公共空間が実際にどのような形で保育の場としても機能しているかを記述し、必要であれば今後の踏査で確認するという、より限定的な立場に立つ。
9.4 三つの反論に共通する示唆
三つの反論を並べてみると、一つの共通する示唆が浮かぶ。第一と第二の反論は、代替園庭という制度が保育所の側に一定の制約や負担を課しているという方向からの指摘であり、第三の反論は、逆に保育所が公園という公共空間に負担を及ぼしうるという方向からの指摘である。両方向からの反論が成り立ちうるということは、代替園庭という制度が、保育所と公園という二つの制度のあいだの中間的な位置に置かれており、どちらか一方の都合だけでは説明しきれない性格を持つことを示している。本稿が価値判断を留保するのは、この中間的な性格そのものを、性急に一方の立場から評価することを避けるためである。
9.5 本稿が判断しないこと
以上の三つの反論を踏まえてもなお、代替園庭という制度そのものの是非、あるいは自園の園庭を持つ保育所と代替園庭による保育所のどちらが望ましいかという問いに、本稿は答えを出さない。本稿の目的は、代替園庭という制度がどのように設計され、どのような論点をともなうかを整理することにあり、価値判断はこの整理の外にある。
註:反論への応答は、本稿の立場を擁護するためのものではなく、検討の射程を明確にするために記した。
10. 磐田市の公園への示唆
ここまでの整理を、当サイト(ATAWI PARK)が収録する磐田市の公園100園に照らして具体化する。ただし、当サイトの現地踏査はまだ始まったばかりであり、園庭のない保育所が実際に磐田市内でどの公園を散歩の行き先として利用しているか、複数施設による利用が重なる公園があるかどうかといった実態は、当サイトとして確認できていない。以下は、オープンデータと市の施設ガイドに記載のある情報から読み取れる範囲での示唆にとどまる。
10.1 街区公園という規模の意味
磐田市の公園100園のうち、街区公園は51園と最も多い区分を占める。街区公園は都市公園法施行令のもとで、標準的な面積0.25ヘクタール、誘致距離およそ250メートルという、徒歩による日常利用を想定した規模の公園である。第6節で述べたように、代替園庭のもとでの散歩の行き先として制度上想定されやすいのはこの規模の公園であり、街区公園が過半数を占めるという磐田市の公園の構成は、保育所からの徒歩圏内に候補となる公園が存在しやすい条件を、少なくとも数のうえでは備えていると読むことができる。
10.2 設備の面から見た候補地
オープンデータの集計によれば、94園のうちトイレ有が69園、車いす対応トイレ有が34園、砂場有が43園、遊具有が64園とされる。代替園庭としての利用を考えるうえで、トイレの有無や遊具の有無は、保育所が散歩の行き先を選ぶ際の実際的な条件になりうると推測されるが、この推測を裏づける調査を当サイトは行っていない。市の施設ガイドに個別ページを持つ77園については、園内施設の記載から、より具体的な設備を確認できる場合がある。たとえば今之浦公園(近隣公園)は、市の施設ガイドに複合遊具・噴水広場・芝生広場・3歳未満児遊具などの記載があり、安久路公園(地区公園)には、インクルーシブエリアを含む複合遊具の記載がある。中央公園(地区公園)は、多目的グラウンドやブランコ・滑り台・砂場・トイレ(多目的トイレ)の記載を持つ。これらはいずれも施設の記載として存在するというにとどまり、保育の場としての適否を当サイトが評価するものではない。
10.3 9地区ごとの分布という論点
磐田市の公園は見付・中泉・御厨・豊田・南部・向陽・竜洋・福田・豊岡の9地区に分布し、園数は地区によって2園から28園まで幅がある。保育所の立地も地区ごとに偏りがあると考えられるが、この対応関係についての情報を当サイトは持たない。地区ごとの公園数の違いは、代替園庭の候補地の多寡という観点から見れば無視できない条件になりうるが、これも当サイトが今後の踏査を通じて確認すべき論点として位置づけるにとどめる。
10.4 規模の異なる公園の使い分けという可能性
磐田市の公園100園には、街区公園(標準面積0.25ヘクタール、誘致距離250メートル)だけでなく、近隣公園(同2ヘクタール、500メートル)や地区公園(同4ヘクタール、1キロメートル)といった、より広い規模の種別も含まれる。近隣公園は14園、地区公園は4園が収録されている。第6節で述べたように、天候や子どもの年齢、その日のねらいに応じて複数の公園を使い分ける運用が想定されるとすれば、日常的には最寄りの街区公園を、より広い活動を行いたい日には近隣公園や地区公園を選ぶといった使い分けが、磐田市の公園構成のもとでは理論上可能である。ただし、この使い分けが実際に行われているかどうかについても、当サイトは確認できていない。
10.5 地区による偏りという留意点
9地区の園数には大きな幅があり、豊田(28園)や見付(21園)のように公園数の多い地区がある一方、南部・向陽はそれぞれ2園にとどまる。仮に保育所の立地が地区ごとの人口分布に応じて散らばっているとすれば、公園数の少ない地区では、代替園庭の候補地となりうる公園の選択肢自体が相対的に限られる可能性がある。この点は、第8節で検討した複数施設による公園利用の重なりという論点とも関係しうる。候補地が少ない地区ほど、複数の施設が同じ公園を利用する場面が生じやすいと推測されるが、これも当サイトが確認した事実ではなく、公園数という統計から導かれる仮説にとどまる。
10.6 当サイトの立場についての補足
当サイト(ATAWI PARK)の運営は、富士ヶ丘サービス株式会社(不動産事業及び介護事業を営む)が行っている。当サイトは磐田市内の特定の保育施設と契約関係にあるわけではなく、本稿を含む公園学術論文は、保育事業者や不動産事業者としての立場からではなく、公園に関する情報を中立的に整理する目的で作成されている。本節で述べた磐田市の公園に関する示唆も、特定の施設の利用を推奨する趣旨のものではない。
10.7 今後の踏査で確認すべきこと
以上を踏まえ、当サイトが今後の踏査で確認すべき論点を三点挙げる。第一に、各公園の遊具に付されている対象年齢の表示が、保育所が利用する年齢層に適合しているかどうか。第二に、公園までの経路における歩道の有無や横断の状況。第三に、複数の集団が同時に利用する場合の混雑の実態である。これらはいずれも、磐田市都市整備課(電話0538-37-4806)が所管する公園の維持管理とは別に、当サイトが独自に確認すべき事項であり、現時点では「現地調査待ち」として記録するにとどめる。
註:本節で挙げた公園名・数値は、いずれも磐田市オープンデータ「都市公園一覧」及び市の施設ガイドの記載にもとづく。特定の公園が保育の場として適切かどうかを当サイトが判定するものではない。
11. 結論と今後の課題
本稿は、保育所の屋外遊戯場を付近の公園で代える制度が、児童福祉施設の設備基準の当初から組み込まれた設計であることを確認し、この制度が待機児童対策のもとでの保育所整備という政策的な文脈のなかで、都市部を中心に現実の選択肢として活用されてきた経緯を整理した。あわせて、幼保連携型認定こども園における基準との共通性、散歩という移動が保育の内容として持つ意味、移動にともなう安全確保の政策的な取り組み、複数施設による公園利用の調整という論点を、それぞれ確立した制度・理論に依拠しながら検討した。
11.1 本稿の主張の要点
本稿の主張は次の二点に集約される。第一に、園庭のない保育所は制度の欠落ではなく、制度が用意した選択肢の帰結であるという理解が、この論点を検討する出発点として適切であること。第二に、代替園庭のもとでの散歩や公園利用は、保育所という一つの制度だけで完結する事柄ではなく、公園を管理する自治体、道路を管理する主体、警察といった複数の主体が関わる、公共空間の共同利用の問題として捉え直す必要があること、である。
11.2 本稿の限界
本稿は文献整理と制度の記述にとどまり、磐田市を含むいずれの自治体においても、保育所と公園の実際の利用関係についての実測調査を行っていない。園庭のない保育所の数、代替園庭として利用されている公園の特定、複数施設による利用の重なりの有無といった具体的な実態は、いずれも本稿の射程の外にある。安全確保についての判断も、個別の保育の実施主体と関係機関に委ねられるべき事柄であり、本稿がその適否を判定することはない。
11.3 読者それぞれへの含意
第1節で述べた読者像に沿って、本稿の含意を改めて整理する。子育て世代にとっては、園庭のない保育所という条件が、それだけで保育の質を判断する材料にはならないこと、また日常の散歩が制度上一定の意味を与えられた活動であることを、一つの見方として持てるだろう。行政にとっては、保育の認可基準と都市公園の管理という、部局を横断する接続点が存在することを踏まえた情報共有の余地があるかもしれない。地域の関係者にとっては、身近な公園が保育の場としても使われうるという前提を持って公園に接することの意味を、あらためて確認できる。学生にとっては、児童福祉法と都市公園法という、一見独立した二つの法体系が、代替という一語を通じて具体的に結びつく事例として、制度研究の材料になりうる。
11.4 なぜこの整理が必要だったか
最後に、本稿がなぜこのような整理を必要としたかを振り返っておく。園庭のない保育所という現象は、しばしば断片的な情報——ある保育所に園庭がない、ある地域で保育所整備が進んでいる、ある年に交通事故を背景とした通知が出された——として、それぞれ独立に語られがちである。本稿は、これらの断片を、児童福祉施設の設備基準という一つの条文にさかのぼって結びつけることを試みた。断片を条文の構造に立ち返って結びつけ直すという作業自体が、個別の事実を並べるだけでは見えてこない、代替園庭という制度の輪郭を描き出すために必要な手続きであった。
11.5 今後の課題
今後の課題として、次の三点を挙げる。第一に、当サイトの踏査が進むなかで、磐田市の公園がどの程度、代替園庭としての利用に適した設備・立地条件を備えているかを、遊具の対象年齢表示や経路の状況とあわせて記録していくこと。第二に、公園と保育の制度がそれぞれ独立に発展してきた経緯を踏まえ、両者の接続点により注目した研究の蓄積を追うこと。第三に、複数施設による公園利用の調整という、本稿ではコモンズ論を手がかりに理論的に検討するにとどめた論点について、実態に即した検討へと発展させることである。これらはいずれも、本稿単独では答えの出せない課題として、今後に残される。
註:本稿で述べた制度・年表・数値は、いずれも本文中に示した法令・公的資料及び磐田市オープンデータ・市施設ガイドの記載にもとづく。特定の保育施設・自治体の運用を評価するものではない。
参考文献
- 児童福祉法(昭和22年法律第164号)
- 児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(昭和23年厚生省令第63号)第32条
- 幼保連携型認定こども園の学級編制、職員、設備及び運営に関する基準(平成26年内閣府・文部科学省・厚生労働省令第1号)
- 就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(認定こども園法、平成18年法律第77号)
- 子ども・子育て支援法(平成24年法律第65号)
- 厚生労働省「保育所保育指針」(平成29年厚生労働省告示第117号)及び同解説
- 内閣府・厚生労働省ほか「キッズ・ゾーンの設定の推進について」(令和元年11月)
- 厚生労働省「子育て安心プラン」(平成29年)
- 厚生労働省「新子育て安心プラン」(令和2年)
- 地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(第1次一括法、平成23年法律第37号)
- 環境省「熱中症予防情報サイト」(暑さ指数 WBGT)
- 都市公園法(昭和31年法律第79号)・都市公園法施行令
- 国土交通省「都市公園における遊具の安全確保に関する指針(改訂第3版)」(令和6年6月)
- ギャレット・ハーディン(1968)「The Tragedy of the Commons」(Science, vol.162)
- エリノア・オストロム(1990)『コモンズのガバナンス——人びとの協働と制度の進化』(原田禅訳、晃洋書房、2022)
- ロジャー・A・ハート(1997)『子どもの参画——コミュニティづくりと身近な環境ケアへの参画のための理論と実際』(木下勇・田中治彦・南博文監修、萌文社、2000)
- コリン・ウォード(1978)『The Child in the City』(Architectural Press)
- ロビン・C・ムーア(1986)『Childhood's Domain: Play and Place in Child Development』(Croom Helm)
- 磐田市オープンデータ「都市公園一覧」(CC BY 3.0・出典:磐田市)
- 磐田市 施設ガイド(公園)
本稿は ATAWI PARK 編集部による総説的な論考であり、学会誌等の査読を経た学術論文ではありません。引用は広く知られた著作・公的資料に限り、磐田市固有の事実は当サイトのデータベースと磐田市の公開情報にもとづきます。個々の公園の設備・状態は現地でご確認ください。医療・安全に関する判断は医療機関・関係機関の指示を優先してください。