計画・工学交通工学

公園へのアクセスと道路安全——飛び出し・横断・駐車場動線・生活道路の交通工学

富士ヶ丘サービス株式会社 大石浩之

学問領域:交通工学 公開・更新 2026-08-17 本文 約21,111字 読了目安 38分

要旨

本稿の目的は、都市公園の安全を「園内の遊具」ではなく「公園に至る道」の側から捉え直し、公園周辺の生活道路における歩行者、とりわけ幼児の安全を交通工学の概念で整理することである。都市公園法施行令が街区公園の誘致距離を250mと定めるとおり、公園は本来「歩いて行く場所」として計画されている。ところが、公園に着くまでに横断する道路や、公園の出入口の前の道路について、利用者にも管理者にも共有された見方は少ない。本稿は、法令・技術基準・交通工学の古典を文献整理し、概念分析によって論点を組み立てる。

本論では五つの論点を扱う。第一に、なぜ生活道路の目標速度が時速30kmとされるのかを、停止距離(空走距離と制動距離の和)と道路構造令の視距の考え方から説明する。第二に、幼児の身長・視野・注意の特性と「飛び出し」の構造を、公園という「目的地」が持つ引力とあわせて論じる。第三に、ゾーン30・ゾーン30プラスの規制と、ハンプ・狭さく・屈曲部などの物理的デバイスが何を狙い、何ができないかを整理する。第四に、横断歩道の設置の考え方と公園出入口の位置・形状の関係を、道路交通法の駐停車禁止区間や見通しの概念から検討する。第五に、駐車場の出入口と園路の交錯、ベビーカーの段差・勾配、自転車の通行ルールを取り上げる。

検討の結果、公園周辺の安全は「速度を下げる」「見通しを確保する」「出入口で一度止まる動線をつくる」「駐車場と歩行者の交錯を減らす」という四つの原則に集約でき、それぞれ担い手(道路管理者・公安委員会・公園管理者・利用者)が異なることが明らかになる。最後に、磐田市の都市公園100園のうち徒歩圏を前提とする街区公園51園と、駐車場を持つ33園に分けて論点を当てはめ、当サイトが今後の踏査で確かめるべき項目を列挙する。事故の傾向は確度の高い一般論に限り、個別の道路の評価は道路管理者・警察の判断に委ねる。

キーワード交通工学生活道路ゾーン30ハンプ横断歩道飛び出し駐車場動線

1. はじめに——問題の所在

公園の安全というとき、多くの人が思い浮かべるのは遊具である。滑り台の高さ、ブランコの周囲の空間、砂場の衛生、遊具の点検。国土交通省の遊具安全指針もこの領域を扱っている。しかし、公園に「着いてから」の安全だけを見ていると、公園という施設が本来「歩いて行く場所」として計画されている事実を見落とす。都市公園法施行令は街区公園の誘致距離を250mと定める。これは、住まいから徒歩数分で行ける距離に小さな公園を配置するという計画思想の表現であり、裏返せば、公園の利用は必ず「道路を歩く」「道路を渡る」という行為を伴うということである。

本稿は、この「公園に至る道」を交通工学の対象として取り上げる。交通工学とは、道路上の車と人の流れを、速度・交通量・密度といった量で捉え、道路の形と規制を設計する工学である。学問としては土木工学の一分野であり、道路構造令や道路交通法といった制度の背後にある考え方を提供してきた。子育て世代にとって交通工学は縁遠い言葉に聞こえるかもしれないが、「なぜこの道は時速30kmなのか」「なぜここに横断歩道がないのか」「駐車場の出口はなぜ危ないのか」という日常の疑問は、いずれも交通工学が答えを用意している問いである。

交通工学から公園を論じることには、もう一つの意味がある。遊具の安全は公園管理者の責任として比較的はっきりした担い手を持つが、公園の前の道路の安全は、道路管理者・公安委員会・公園管理者・沿道住民・利用者に分かれ、誰の課題でもあるがゆえに誰の課題でもなくなりやすい。交通工学の概念——速度、視距、停止距離、交錯——は、この分かれた担い手が同じ場所を同じ言葉で語るための共通語になりうる。本稿は、その共通語を子育て世代と行政と地域の間に置くことを目指す。

1.1 問い

本稿の問いは三つある。第一に、公園周辺の生活道路で幼児の歩行安全を左右する要因は何か。ここでいう生活道路とは、幹線道路と区別される、住宅地の中の幅の狭い道路をさす。第二に、交通工学が用意している対策——速度規制、ハンプや狭さくなどの物理的デバイス、横断歩道、駐停車の規制——はそれぞれ何を狙い、何ができないのか。第三に、道路側ではなく公園側の設計、すなわち出入口の位置と形、駐車場と園路の関係、車止めや柵は、行き帰りの安全にどう関わるのか。この三つ目の問いは、道路管理者と公園管理者が別々の部署であることが多いために、制度のすき間に落ちやすい論点である。

住まい歩く渡る公園の入口
図1街区公園の誘致距離250mは「歩いて行く」前提の数字である。住まいから公園の入口までに、道路を歩き、渡る行為が必ず挟まる。

1.2 方法と資料

方法は文献整理と概念分析である。資料は三種類に分ける。一つは法令と技術基準——道路交通法、道路構造令、駐車場法とその施行令、国土交通省道路局の「凸部、狭窄部及び屈曲部の設置に関する技術基準」、警察庁と国土交通省のゾーン30・ゾーン30プラスの施策文書、都市公園法施行令、都市公園移動等円滑化基準である。二つ目は交通工学と都市計画の古典——ラドバーンの歩車分離、ブキャナン・レポートの居住環境地域、オランダのボンエルフ、アップルヤードの『Livable Streets』である。三つ目は磐田市の公園データ——市のオープンデータ「都市公園一覧」と市施設ガイドをもとに当サイトが整理した100園の事実である。

資料の扱いには制約を置く。交通事故の統計は毎年変動し、地域差も大きいため、本稿では確度の高い一般論——たとえば衝突速度が上がるほど歩行者の被害が重くなること、子どもの歩行中の事故が就学前後の年齢に多いとされること——に限って述べ、具体的な件数や割合は挙げない。法令や技術基準に明記された数値(速度、距離、幅員、高さ)は挙げる。医学的な事柄や個別の道路の危険性の評価は、医療機関・道路管理者・警察に委ねる。また当サイトの現地踏査はまだ始まっていないため、磐田市内の特定の道路や交差点について「見た」「確かめた」とは書かず、今後の踏査で確かめるべき項目として提示する。

1.3 構成

第2節で交通工学の基本概念と、歩車分離から歩車共存へという思想の流れを整理する。第3節では、なぜ生活道路の目標速度が時速30kmとされるのかを、停止距離と視距の物理から説明する。第4節では幼児の歩行特性と「飛び出し」の構造を、公園という目的地の引力とあわせて論じる。第5節でゾーン30と物理的デバイスを、第6節で横断歩道と公園出入口の関係を、第7節で駐車場動線・ベビーカー・自転車を扱う。第8節で磐田市の公園100園に論点を当てはめ、第9節で結論と課題を述べる。読者としては、磐田市周辺の子育て世代、行政の道路・公園担当、地域の見守りに関わる人、そして都市や交通を学ぶ学生を想定している。

2. 先行研究と概念の整理——歩車分離から歩車共存へ

交通工学は、道路上の交通を三つの基本量で記述する。単位時間に通過する車の数である交通量、車の速度、そして単位長さあたりの車の数である密度である。この三つは互いに結びついており、密度が上がれば速度は下がり、交通量は速度と密度の積で決まる。幹線道路の設計は主にこの関係を扱うが、生活道路の設計で問題になるのは交通量よりもむしろ速度である。交通量の少ない住宅地の道路は空いているがゆえに速度が出やすく、その速度が歩行者にとっての危険の大きさを決める。本稿が「速度」を繰り返し取り上げるのはこのためである。

もう一つの基礎概念は視距である。視距とは、運転者が前方の障害物を認めてから安全に停止するために必要な見通しの距離をいい、道路構造令は設計速度ごとに確保すべき視距を定めている。生活道路では、住宅の塀、電柱、駐車車両、植栽が視距を削る。公園の周囲でいえば、公園の生垣や柵そのものが、出入口から出てくる子どもと運転者の相互の見通しを遮ることがある。視距は道路の話であると同時に、公園の縁の設計の話でもある。

2.1 歩車分離の思想——ラドバーンとブキャナン

20世紀の都市計画は、自動車から歩行者をどう守るかという問いに、まず「分ける」という答えを出した。1929年に米国ニュージャージー州で着工されたラドバーンは、クラレンス・スタインとヘンリー・ライトの設計により、住宅地の内側を歩行者専用の緑道でつなぎ、車は行き止まりの道路(クルドサック)から各戸に入るという構成をとった。歩行者と車が交わる場所には立体交差を設け、子どもが車道を渡らずに学校や公園に行けるようにした。スタインが『Toward New Towns for America』(1951)で総括したこの「ラドバーン方式」は、日本の団地やニュータウンにも影響を与えた。

1963年に英国運輸省が刊行した『Traffic in Towns』、いわゆるブキャナン・レポートは、コーリン・ブキャナンを中心に、増え続ける自動車と都市生活の両立を体系的に論じた。中心概念は居住環境地域である。都市を、通過交通を担う幹線道路の網と、その網に囲まれた「部屋」としての居住環境地域に分け、部屋の内側には通過交通を入れず、環境の質(安全、静けさ、空気)を守るという考え方である。今日の日本のゾーン30が「区域」を単位として速度を規制するのは、この居住環境地域の思想の延長線上にある。

2.2 歩車共存の思想——ボンエルフとシェアードスペース

分離には限界がある。既存の市街地では立体交差や緑道網をあとから入れることは難しく、また車を排除した道路は人通りが減り、かえって寂しい空間になる。1970年代のオランダ、デルフト市などで生まれたボンエルフ(woonerf、「生活の庭」)は、車を排除するのではなく、車を「客」として住宅地の道路に入れ、歩行者と同じ速度で走らせるという発想の転換であった。道路を蛇行させ、植栽や駐車ますで幅を絞り、路面に段差をつけて、運転者に自然と徐行させる。これが今日の交通静穏化(トラフィック・カーミング)の原型であり、ハンプ・狭さく・屈曲部という物理的デバイスの起源でもある。

オランダの交通技術者ハンス・モンダーマンが提唱したシェアードスペースは、さらに一歩進めて、標識や信号や区画線を減らし、道路の空間そのものが「ここは注意して走る場所だ」と伝えるように設計する考え方である。規制で縛るのではなく、不確かさによって運転者の注意を引き出す。この発想は、公園の前の道路にも示唆を与える。標識を増やすことよりも、道路の見た目——舗装の色、幅、植栽——が「子どもがいる場所」であることを運転者に感じさせるほうが、速度を下げる効果が持続するという考え方である。

生活道路歩行者共存の均衡
図2「分ける」ラドバーン・ブキャナンから、「同じ速度で共存させる」ボンエルフ・シェアードスペースへ。生活道路の思想は速度の均衡へ向かった。

2.3 生活道路と近隣の暮らし——アップルヤード

ドナルド・アップルヤードは『Livable Streets』(1981)で、サンフランシスコの交通量の異なる三つの街路を比較し、交通量の多い街路ほど住民の近隣づきあいが乏しく、住民が「自分の縄張り」と感じる範囲が狭くなることを示した。この研究は、生活道路の交通が安全だけでなく、近所づきあいや子どもの遊び場の広がりにも影響することを示唆した。公園に引きつけていえば、公園の前の道路の交通が多いか少ないかは、公園に子どもだけで行けるか、保護者が付き添わねばならないか、という「公園の実質的な利用圏」を左右する。

2.4 日本の展開——年表

日本では、1990年代以降に生活道路の面的対策が制度化された。以下に主な流れを整理する。年号は施策の開始年であり、各地の実施時期は異なる。

施策・出来事考え方
1929ラドバーン着工(米国)歩車分離。緑道と立体交差で子どもの通学路を車道から切り離す
1963ブキャナン・レポート(英国)居住環境地域。通過交通を幹線に集め、内部を守る
1970年代ボンエルフ(オランダ)歩車共存。車を徐行させる物理的な道路づくり
1996コミュニティ・ゾーン形成事業(日本)区域を単位に規制と物理デバイスを組み合わせる
2003あんしん歩行エリア(日本)事故の多い住宅地・商業地を面的に指定
2011ゾーン30(警察庁通達)区域内の最高速度を時速30kmに規制
2016凸部・狭窄部・屈曲部の技術基準(国土交通省)ハンプ等の寸法を全国標準として示す
2021ゾーン30プラス(国土交通省・警察庁)速度規制と物理デバイスを組み合わせて整備

この年表が示すのは、対策の単位が「点」(危険な交差点)から「線」(通学路)を経て「面」(区域)へと広がり、手段が「規制のみ」から「規制+物理」へと移ってきたということである。公園周辺の道路を考えるときも、公園の前の一区間だけを見るのではなく、公園を含む住宅地の区域全体の速度環境として捉える視点が求められる。

「線」の対策の代表が通学路である。2021年(令和3年)6月に千葉県八街市で下校中の児童の列にトラックが突入した事故を受け、国は全国の小学校の通学路について、学校・道路管理者・警察による合同点検を実施し、対策を進めた。この枠組みは、危険箇所を三者が同じ場所に立って確かめ、それぞれの所管で対策を分担するという点で、本稿の関心と重なる。ただし通学路の点検の対象はあくまで学校への道であり、同じ年齢の子どもが同じように歩く公園への道は、通学路と重なる区間を除けば枠組みの外にある。本稿が公園周辺の道路を独立に取り上げる理由の一つがここにある。

3. 速度の物理——なぜ生活道路は時速30kmなのか

ゾーン30の「30」は、感覚的に決められた数字ではない。本節では、車が止まるまでの距離、道路構造令の視距、衝突時のエネルギーという三つの物理的な観点から、時速30kmという数字の意味を説明する。ここでの計算は単純化した例であり、実際の道路では路面の状態、タイヤ、車種、運転者の状態によって値は変わる。数字そのものよりも「速度が2倍になると何が2倍になり、何が4倍になるか」という構造を読み取ってほしい。

3.1 停止距離=空走距離+制動距離

運転者が前方に子どもを認めてから車が止まるまでに進む距離を停止距離という。停止距離は二つの部分からなる。一つは空走距離で、危険を認めてからブレーキが効き始めるまでの反応時間の間に車が進む距離である。反応時間は一般に1秒前後とされ、この間、車は速度そのままで進む。時速30kmは秒速に直すと約8.3mだから、1秒の反応で約8mを走る。時速50kmなら約14mである。もう一つは制動距離で、ブレーキが効き始めてから止まるまでの距離である。制動距離は運動エネルギーを摩擦で消す過程であり、速度の2乗に比例する。乾いた舗装を仮定した一つの計算例では、時速30kmで約5m、時速50kmで約14mとなり、速度が1.7倍になると制動距離は約2.8倍になる。

二つを合わせた停止距離は、同じ仮定で時速30kmなら十数m、時速50kmなら約30m弱となる。この差は、住宅地の道路で「見えてから止まれるか」を分ける差である。なお、路面が濡れていれば摩擦は小さくなり制動距離は伸びる。運転者が疲れていたり、わき見をしていたりすれば反応時間は長くなり空走距離が伸びる。夕方の逆光や夜間は「認める」までの時間そのものが延びる。つまり上の計算は最も条件のよい場合であり、現実の停止距離はこれより長いと考えておくのが安全側の見方である。塀の陰から子どもが出てきた地点まで15mであれば、時速30kmの車は止まれる可能性が高いが、時速50kmの車は止まれない。ゾーン30の目標速度は、住宅地の見通しの実態——建物の角、駐車車両、電柱で数十m先が見えないことが多い——のもとで、それでも止まれる速度として位置づけられている。

3.2 道路構造令の視距

この考え方を道路の側から定めたのが、道路構造令の視距の規定である。道路構造令は、設計速度が時速30kmの道路では30m、時速40kmでは40m、時速50kmでは55m、時速60kmでは75mの視距を確保すべきものとしている。設計速度に応じて視距が非線形に増えるのは、上で見た制動距離が速度の2乗に比例するためである。逆にいえば、見通しが30mしかとれない道路で時速50kmを許すことは、道路構造の考え方と矛盾する。生活道路の速度規制は、道路の見通しの実態と速度をつり合わせる作業だと理解できる。

速度停止距離反応の1秒見通し
図3停止距離は反応時間の空走と速度の2乗に比例する制動の和である。見通しの距離と停止距離をつり合わせる速度が、生活道路の目標速度になる。

3.3 衝突のエネルギーと歩行者

運動エネルギーは質量に速度の2乗をかけたものに比例する。時速50kmの車は時速30kmの車の約2.8倍のエネルギーを持つ。歩行者との衝突では、このエネルギーの一部が歩行者の身体に伝わる。衝突速度が上がるほど歩行者の被害が重くなること、そして時速30km前後を境に重い被害の割合が急に高くなることは、欧州を中心とする多くの研究群で繰り返し示されてきたとされる。個々の数値は研究ごとに異なり、車の形状(ボンネットの高さ)や歩行者の年齢によっても変わるため、本稿では割合を挙げない。ただ「30」という数字が、この速度・被害関係の折れ曲がりの付近に置かれていることは指摘しておく。

幼児の場合、この関係にもう一つの要素が加わる。幼児の身長は乗用車のボンネットの高さと同程度かそれより低い。したがって、大人が衝突でボンネットに乗り上げる速度域でも、幼児は車体の前面で直接受け止められ、その後に車の下に入り込むおそれがある、と説明される。この点は医学と車両工学の領域であり、詳細は専門機関の資料に委ねるが、「同じ速度でも幼児にはより重い」という方向性は、公園周辺の速度環境を考える際の前提になる。

3.4 速度と視野

速度は運転者の側の認知も変える。速度が上がるほど運転者の視野は狭くなり、注視点が遠くに移るとされる。時速30km程度であれば道路の両脇——歩道、生垣の切れ目、公園の出入口——にまで注意が及びやすいが、速度が上がるにつれて運転者は前方の車道に集中し、脇から出てくるものへの反応が遅れる。停止距離が「見えてから止まれるか」の問題だとすれば、視野の狭まりは「そもそも見えるか」の問題である。生活道路の速度を下げることは、この両方に同時に効く。

以上を要約すれば、時速30kmという数字は、住宅地の見通し・停止距離・衝突エネルギー・運転者の視野という四つの要因のつり合いの点として選ばれている。公園周辺の道路を評価するときの第一の問いは、「この道路の実勢速度は、この道路の見通しに見合っているか」である。この問いは第5節で扱う物理的デバイスの必要性を判断する出発点でもある。

4. 幼児の歩行特性と「飛び出し」の構造

前節は車の側の物理であった。本節は歩行者、とくに幼児の側の特性を整理し、「飛び出し」がなぜ起こるのかを、個人の不注意ではなく構造として捉える。交通安全教育の分野では、対策を教育(Education)・工学(Engineering)・取締り(Enforcement)の「3つのE」に分ける古典的な整理があるが、幼児については教育の効果に限りがあるとされ、工学すなわち環境の側の対策の比重が大きくなる。この認識が、公園周辺の道路を交通工学で論じる理由の一つである。

4.1 身長——見えない・見られない

幼児と道路の関係を決める最も単純で最も重要な要因は身長である。就学前の子どもの目の高さは、路上に停まっている乗用車の車高より低いことが多い。すると二つのことが同時に起こる。子どもからは、駐車車両の向こうの車道が見えない。運転者からは、駐車車両の陰にいる子どもが見えない。互いに見えないまま、子どもが車の前に一歩出た瞬間に初めて互いを認める。第3節の停止距離の議論を思い出せば、この「初めて認める距離」が数mしかないとき、どんな速度でも止まりきれない。路上駐車が生活道路で嫌われる第一の理由はここにある。

身長はもう一つ、右左折する車との関係でも問題になる。交差点で車が曲がるとき、運転者の視線は曲がる先の車道に向く。歩道の端に立つ幼児は、運転席から見てボンネットやドアの柱の陰に入りやすいとされる。横断歩道の手前で「車が止まってくれた」と思って渡り始めた子どもが、運転者の死角に入るという状況である。第6節で述べる横断歩道の位置と交差点の関係は、この死角の問題と結びついている。

4.2 視野・聴覚・注意

発達の観点からは、幼児は大人に比べて視野が狭く、周辺の動きに気づきにくいとされる。音がどちらから来るかを聞き分ける力や、近づく車の速度と距離から「渡れるか」を判断する力も、成長とともに身につくもので、就学前には十分でないとされる。さらに、幼児の注意は一つの対象に集中しやすい。転がったボール、道の向こうの友だち、公園の遊具——注意がそこに向くと、車道の存在そのものが意識から消える。これらは欠点ではなく発達の途中経過であり、しつけや注意で埋められる幅には限りがある。したがって対策は、子どもが「間違えても取り返しがつく」環境を用意する方向に向かうことになる。医学的・発達的な詳細は、小児科や発達の専門機関の資料に当たられたい。

4.3 事故の年齢と行動範囲

子どもの歩行中の交通事故は、就学前後の年齢、とりわけ小学校低学年の入り口にあたる年齢に多いとされる。これは、一人で歩く行動範囲が急に広がる時期と、上に述べた判断力の発達途上とが重なるためだと説明される。公園に引きつければ、幼児期は保護者と一緒に公園へ行くが、就学前後から「子どもだけで公園に行く」ようになる。つまり公園は、子どもが人生で最初に一人で目指す目的地の一つであり、公園までの道は最初の「一人で歩く道」になる。通学路が学校への道として点検の対象になっているのに対し、公園への道は同じ年齢の子どもが同じように歩くにもかかわらず、点検の枠組みが弱い。

低い目線狭い視野目的地へ走る陰の車道
図4幼児の飛び出しは、低い身長・狭い視野・一点集中・広がる行動範囲が重なって起こる構造であり、個人の不注意に還元できない。

4.4 「飛び出し」の構造——目的地の引力

以上を組み合わせると、「飛び出し」は次の三つの条件が重なったときに起こると整理できる。第一に、道路の向こうに強く注意を引くものがある(目的地)。第二に、車道と歩行者の間の見通しが遮られている(遮蔽)。第三に、車道を走る車の速度が、遮蔽の切れ目から見えてからでは止まれない速度である(速度)。公園はこのうち第一の条件を強く満たす場所である。遊具が道路から見える公園、友だちの声が聞こえる公園は、子どもを道路の反対側から引き寄せる。第二・第三の条件を道路と公園の設計でどこまで弱められるかが、以下の節の主題になる。

帰り道にも固有の条件がある。遊び疲れ、空腹、機嫌の悪さは注意力を下げる。保護者の側も、行きよりも帰りのほうが荷物と疲れで手がふさがりやすい。公園の出入口を出た直後の数mは、行きの「引力」とは別の意味で注意が薄くなる区間である。出入口の直前に一度立ち止まる仕掛け——後述する車止めや柵、舗装の変化——は、行きにも帰りにも同じように働く。

4.5 教育の役割と限界

「右を見て左を見て、もう一度右を見て」という手順の教育は、日本でも各国でも長く行われてきた。しかし、幼児は手順を言葉としては覚えても、その手順を実際の判断——今この車の速度なら渡れるか——に結びつけることが難しいとされる。教育を否定するのではなく、教育が効く年齢と、環境で守るしかない年齢の区別が要る、ということである。保護者ができることとしては、手をつなぐこと、保護者が車道側を歩くこと、横断の場所を毎回同じにして「ここで渡る」を習慣にすることが挙げられるが、これらもまた個人の努力に頼る対策であり、道路と公園の設計がそれを支えなければ持続しない。次節以降は、その設計の側の道具立てを見ていく。

5. 速度を下げる道具——ゾーン30と物理的デバイス

第3節で速度が問題の中心であることを、第4節で幼児側の対策には限りがあることを見た。本節では、道路の側で速度を下げる道具を、規制と物理の二つに分けて整理する。規制とは公安委員会(実務上は警察)が標識によって定める最高速度などの交通規制であり、物理とは道路管理者(市町村など)が道路の形を変えることで運転者に徐行を促す装置である。日本ではこの二つの担い手が別であるため、両者の組み合わせが制度上の課題であり続けてきた。

5.1 ゾーン30——区域で速度を決める

ゾーン30は、警察庁が2011年(平成23年)9月の通達で全国に推進を指示した施策で、住宅地などのまとまった区域を単位に、その内側の道路の最高速度を時速30kmに規制するものである。区域の入口に最高速度の規制標識と「ゾーン30」の表示を置き、区域全体が一つの速度環境であることを運転者に示す。個々の道路ごとに規制するのではなく区域で規制するのは、第2節で見たブキャナンの居住環境地域の考え方と同じであり、通過交通が区域内の別の道路に逃げるのを防ぐ意味がある。

ただし、標識による規制だけでは実勢速度——実際に車が走っている速度——が十分に下がらない場合があるとされる。運転者は標識よりも道路の見た目(幅、直線性、見通し)に反応して速度を選ぶ、というのが交通工学の経験則である。広くまっすぐな道路に「30」の標識を立てても、道路が「もっと出せる」と語りかけていれば速度は落ちにくい。ここから、規制と物理を組み合わせるゾーン30プラスが2021年(令和3年)8月に国土交通省と警察庁の連携施策として始まった。市町村・道路管理者・警察が整備計画を共同でつくり、区域の速度規制に加えて、次に述べる物理的デバイスを配置する。

5.2 物理的デバイス——凸部・狭窄部・屈曲部

国土交通省道路局は2016年(平成28年)3月に「凸部、狭窄部及び屈曲部の設置に関する技術基準」を定め、それまで自治体ごとにばらついていた物理的デバイスの形状を全国標準として示した。凸部はいわゆるハンプで、路面を高さ10cmを標準として緩やかに盛り上げ、速く通過すると不快な上下動が生じるようにして徐行を促す。狭窄部(狭さく)は、車道の幅を局所的に絞り、車1台がやっと通れる幅にして速度を落とさせる。屈曲部は、直線の車道を折り曲げ(クランク)あるいは蛇行させ(スラローム)、ハンドル操作を要求して速度を下げる。いずれも「運転者が自分で速度を落とす」ように道路の形が働きかける点で共通し、罰則によらない。

公園周辺との関係でとくに注目されるのが、横断歩道の部分を歩道と同じ高さまで盛り上げるスムーズ横断歩道である。横断歩道そのものが台形のハンプになるため、車は横断歩道の手前で減速し、歩行者は段差なしに渡れる。速度を下げる装置と、ベビーカーや車いすの段差をなくす装置が一つになっている点で、公園の出入口の前の横断歩道と相性がよい。

道具仕組み主な狙い留意点
最高速度規制(ゾーン30)標識・路面表示で区域の速度を定める区域全体の速度環境の宣言標識だけでは実勢速度が下がりにくい場合がある
凸部(ハンプ)路面を高さ10cm標準で緩やかに盛る通過速度を下げる騒音・振動、緊急車両・バス、自転車への配慮
スムーズ横断歩道横断歩道部を歩道の高さに上げる減速と段差解消の両立排水、視認性の確保
狭窄部(狭さく)車道幅を局所的に絞る速度低下、車のすれ違い待ち歩行者の通行幅を削らない配置
屈曲部(クランク・スラローム)車道を折り曲げる・蛇行させる直線での加速を断つ大型車の軌跡、沿道の出入り
路面標示・カラー舗装視覚的に「区域が変わる」ことを示す注意喚起、区域の入口の明示単独では効果が持続しにくいとされる
30の規制屈曲・狭さくハンプ注意を促す
図5規制(標識)と物理(凸部・狭窄部・屈曲部)を組み合わせて、運転者が自ら速度を落とす道路にする。これがゾーン30プラスの考え方である。

5.3 限界と副作用

物理的デバイスは万能ではない。第一に、ある道路の速度や交通量を抑えると、交通が隣の生活道路に移る「押し出し」が起こりうる。だからこそ点ではなく面で計画する必要がある。第二に、ハンプは通過時の音と振動を伴い、沿道の住民から反対が出ることがある。自宅の前にハンプを望む人は少なく、住民合意が整備の律速になる。第三に、救急車・消防車・路線バスの通行、自転車や二輪車の安定への配慮が要る。技術基準がハンプの形状を緩やかな曲線に定めているのは、この副作用を抑えるためである。第四に、デバイスは設置して終わりではなく、塗装のはがれや沈下の補修という維持管理を伴う。

公園周辺に引きつけていえば、公園の前の一区間だけにハンプを置いても、そこに至る直線で加速した車はハンプの直前で急ブレーキを踏むだけである。区域全体をゾーン30とし、公園の出入口の前の横断部にスムーズ横断歩道を置き、出入口の見通しを確保する、という組み合わせが、交通工学の考え方に沿った構成といえる。どの道路にどの道具を置くかの判断は、交通量・実勢速度・沿道の状況を測ったうえで道路管理者と警察が行うものであり、本稿はその判断の枠組みを示すにとどめる。

6. 横断歩道と交差点——設置の考え方と公園出入口の位置

公園への行き帰りで最も危険が集中するのは、道路を渡る瞬間である。本節では、横断歩道が法律上どんな意味を持ち、どのような考え方で設置され、公園の出入口とどう対応させるべきかを整理する。ここでも担い手は分かれる。横断歩道の設置は公安委員会(警察)、その周辺の歩道や見通しの確保は道路管理者、出入口の位置と形は公園管理者である。三者の判断が一つの場所で噛み合って初めて、渡る子どもは守られる。

6.1 横断歩道の法的な意味

道路交通法第38条は、横断歩道を横断しようとする歩行者がいるときは車は横断歩道の直前で一時停止しなければならず、横断する歩行者がいないことが明らかな場合を除き、横断歩道の直前で停止できる速度で進行しなければならないと定める。つまり横断歩道は単なる白線ではなく、車の側に「止まる義務」と「止まれる速度で近づく義務」を発生させる装置である。一方、同法第12条は、歩行者は横断歩道が近くにある場所ではその横断歩道によって渡らなければならないと定める。横断歩道は車と歩行者の双方に「ここで渡る・ここで止まる」という約束を課す場所であり、公園の出入口とこの約束の場所がずれていると、子どもは約束のない場所で渡ることになる。

運転者に横断歩道の存在を予告するのが、路面に描かれるひし形の道路標示(横断歩道又は自転車横断帯あり)である。横断歩道の手前に描かれ、運転者はこれを見た時点で減速の準備に入ることが期待される。第3節の停止距離の議論からすれば、この予告があってはじめて「横断歩道の直前で停止できる速度」が現実になる。標示がかすれていれば予告は機能しない。塗り直しは維持管理の問題であるが、生活道路の安全において維持管理は設計と同じ重みを持つ。

6.2 設置の考え方

横断歩道はどこにでも引けるわけではない。公安委員会は、横断する歩行者の需要、車の速度と交通量、前後の見通し、隣接する横断歩道との間隔、信号の有無などを勘案して設置を判断するとされる。見通しの悪い場所に横断歩道を引くと、車が止まれないまま歩行者が「守られている」と信じて渡る、という最も避けたい状況を生む。また信号のない横断歩道が近接して多数あると、一つひとつの横断歩道の重みが薄れる。したがって、公園の出入口の正面に横断歩道を求める前に、その場所が「車から見えるか」「車が止まれる速度で近づける道路か」を問う必要があり、その答えが否であれば、第5節の速度対策や見通し確保が先になる。

設置が難しい場合の選択肢として、押しボタン式信号、あるいは前節のスムーズ横断歩道がある。押しボタン式は歩行者がいるときだけ車を止めるため、交通量の多い道路を子どもが渡る場所に向く。ただし信号は「青なら渡ってよい」という約束を子どもに教える一方、青でも右左折車が来ることまでは教えない。信号の有無にかかわらず、渡る前に止まって見る習慣は要る。

6.3 交差点の見通しと駐停車禁止

交差点の安全は見通しの確保に尽きるといってよい。道路の設計では、交差点の角に隅切り(角を斜めに切ること)を設け、角の建物や塀を後退させて、交差する双方の車と歩行者が互いに見える見通し三角形を確保する。生活道路ではこの三角形の中に、駐車車両、電柱、植栽、公園の柵や生垣が入り込むことが多い。道路交通法第44条が、交差点とその側端から5m以内、横断歩道とその前後5m以内、道路の曲がり角から5m以内を駐停車禁止としているのは、まさにこの見通しを守るためである。横断歩道の直前に停まった車の陰から子どもが出てくる状況を、法律は禁じている。

一方、公園の歩行者用の出入口そのものは、これらの駐停車禁止の列挙には含まれていないと理解される。同法第45条は駐車場や車庫の自動車用出入口から3m以内を駐車禁止としているが、公園の歩行者用の出入口に同じ規定はない。したがって、公園の出入口の正面に車が停まることを防ぐには、規制標識による駐車禁止、路面表示、あるいは出入口の位置の工夫といった別の手段が要る。この制度上のすき間は、第7節で扱う路上駐車の問題ともつながる。

横断歩道出入口の位置一度止まる柵手前に停めない
図6横断歩道と公園出入口を対応させ、出入口に一度止まる仕掛けを設け、手前の駐停車を防ぐ。渡る瞬間の安全は三者の設計の噛み合わせで決まる。

6.4 公園出入口の位置と形

公園側でできることは、出入口の位置と形の設計である。第一に、出入口を交差点の角の直近に置かない。角は右左折車の死角と歩行者の横断が重なる場所であり、出入口をそこから離すことで、子どもが出た直後に交差点に入る状況を避けられる。第二に、出入口を横断歩道の正面に置くか、あえて少しずらして歩道を数m歩かせるかは設計上の選択である。正面に置けば「渡ってすぐ入る」動線が明快になり、ずらせば出入口から走り出た子どもが直接車道に出ることを防げる。どちらが適切かは道路の速度と幅、歩道の有無で変わる。

第三に、出入口に設ける車止め(ボラード)との意味を再確認したい。車止めは自転車やバイクの乗り入れを防ぐ装置と理解されがちだが、交通工学の観点からは、走って出てくる子どもの速度を落とし、一度立ち止まらせる装置でもある。柵をクランク状(U字や二重)に配置すれば、出入口を通るには必ず身体の向きを変えねばならず、その一瞬が「道路を見る」機会になる。ただし、都市公園移動等円滑化基準は出入口や園路をベビーカーや車いすが通れる幅で確保することを求めており、飛び出し防止と通行のしやすさは同時に満たさなければならない。車止めの間隔を狭めすぎて車いすが通れない出入口は、別の利用者を締め出す。第四に、出入口周辺の生垣や柵の高さである。子どもの目線と運転者の目線の間を遮らない高さに植栽を抑えれば、互いに見える。目隠しとしての生垣と、見通しとしての低い柵は、出入口の周囲では後者が優先される。

最後に、運転者への予告について触れておく。日本の道路標識には「学校、幼稚園、保育所等あり」の警戒標識があるが、公園の存在を直接示す警戒標識は、管見の限り定められていない。公園が近いことは、路面表示や看板、あるいは道路の見た目そのもの——第2節のシェアードスペースの発想——で運転者に伝えることになる。公園の周囲を「子どもがいる区域」として運転者に感じさせる工夫は、標識の追加よりも道路と公園の縁のデザインに属する。

7. 駐車場動線・ベビーカー・自転車——公園の内と外の交錯

ここまでの節は主に「歩いて来る」利用者を扱った。しかし規模の大きい公園には車で来る利用者が多く、また幼児連れの多くはベビーカーを押し、就学前後の子どもは自転車で来る。本節では、車と歩行者が公園の敷地の内外で交わる場所——駐車場の出入口と園路の交錯、路上駐車——と、ベビーカーと自転車という二つの「車輪のある歩行者」を扱う。前者は公園管理者の設計の問題であり、後者は道路の細部(段差・勾配・幅)と利用者のルールの問題である。

7.1 駐車場の出入口と道路

駐車場と道路の関係を定める法律が駐車場法とその施行令である。駐車場法施行令は、一定規模以上の一般公共の用に供する路外駐車場について、その出入口を設けてはならない道路の部分を列挙している。そこには、道路交通法の駐停車禁止場所のほか、幼稚園・小学校・保育所・公園・児童遊園などの出入口から20m以内の道路の部分が含まれる(適用対象や例外の詳細は同令に委ねる)。この規定が示しているのは、法律が「子どもの集まる施設の出入口」と「車の出入口」を近づけないという原則を持っているということである。公園に付属する小さな駐車場は規模の点でこの規定の対象にならないことが多いと考えられるが、同じ原則を自主的に当てはめる意味はある。すなわち、公園の駐車場の出入口と、歩行者用の出入口を、できるだけ離すということである。

駐車場の出入口が道路と接する部分では、車が歩道を横切る。ここで問題になるのが歩道の連続性である。車の出入りのために歩道を車道の高さまで下げてしまうと、ベビーカーや車いすは出入口ごとに上り下りを強いられ、歩行者は「ここは車の場所」と感じて足を止める。逆に歩道の高さを保ったまま車がゆっくり乗り上げて横切る形にすれば、歩行者の優先が形の上でも表現される。道路の移動等円滑化の考え方では歩道の高さと平坦さの連続を重視するとされ、公園の駐車場の出入口もその例外ではない。

7.2 駐車場の中——後退・見通し・園路との交錯

駐車場の中は、道路ではないため道路交通法の交通規制が直接及ばないことが多く、そのぶん設計と利用者の注意に委ねられる部分が大きい。危険が集中するのは車の後退時である。後退時の死角は大きく、幼児は車高より低いため、車のすぐ後ろにいても運転席から見えない。カメラやセンサーを備えた車が増えたとされるが、それに頼らない設計が要る。具体的には、駐車ますと歩行者の通路を白線や縁石で分ける、歩行者通路を車路の端に集めて横切る回数を減らす、車路を一方通行にして向きを一定にする、出口に一時停止線を引く、といった手法である。

公園固有の論点は、駐車場から遊具や広場までの動線が車路を横切るかどうかである。駐車場を降りた子どもは、遊具が見えれば走り出す(第4節の「目的地の引力」)。降りた地点から遊具まで車路を横切らずに行ける配置が理想であり、横切らざるをえない場合は、横切る地点を一か所に絞って横断部を明示し、車路の側にハンプや狭さくを置く。園路と車路の交錯は、公園の内側にある小さな「生活道路」の問題として、第5節・第6節と同じ道具で考えることができる。

7.3 路上駐車という遮蔽

駐車場のない公園、あるいは駐車場が満車の公園では、周辺の道路に車が停まる。路上駐車は、第4節で述べた「遮蔽」を道路に持ち込む。停まった車の陰から子どもが出てくる状況を、道路交通法第44条は交差点や横断歩道の周辺で禁じ、第45条は駐車場出入口の周辺や、車の右側に3.5m以上の余地がない場合について禁じている。しかし公園の出入口の正面や、公園の周囲の直線部分は、これらに当てはまらない限り駐車が禁じられていない。市の施設ガイドに「駐車場以外の場所への駐車はご遠慮ください」といった記載がある公園があるのは、この制度上の空白を管理者からの呼びかけで埋めようとするものと読める。

駐車場後退の死角歩行者通路園路への横断
図7駐車場では後退時の死角と園路との交錯が問題になる。歩行者通路を分け、遊具までの動線が車路を横切らない配置が原則である。

7.4 ベビーカーの段差と勾配

ベビーカーは前輪が小さく、わずかな段差でも引っかかる。道路のバリアフリー整備の考え方では、横断歩道の部分の歩道と車道の境界の段差は2cmを標準とするとされる。この2cmは、車いすやベビーカーが乗り越えられる高さと、白杖を使う視覚障害者が歩車道の境界を足元で認識できる高さとの折り合いとして定められた数字であり、「ゼロにすればよい」わけではないところに、道路設計の難しさがある。縦断勾配(進行方向の坂)は5%以下、横断勾配(横方向の傾き)は1%程度が原則とされ、これを超える坂道ではベビーカーは押す力と止める力の両方を要する。

公園の側では、都市公園移動等円滑化基準が、出入口や園路の幅、段差、勾配について基準を定めている。ベビーカーにとって重要なのは、出入口の車止めの間隔、出入口から遊具・トイレまでの園路の連続性、そして歩道と出入口の間の段差である。生活道路に歩道がない場合、ベビーカーは路側帯を進むことになり、電柱や駐車車両のたびに車道側へはみ出す。ベビーカーの動線を考えることは、幼児の歩行と同じ道路の別の弱点をあぶり出す作業である。

7.5 自転車——ルールと公園の出入口

道路交通法上、自転車は軽車両であり、車道の左側を通行するのが原則である。歩道を通行できるのは、普通自転車歩道通行可の標識がある場合、運転者が13歳未満または70歳以上の場合などに限られ、歩道では車道寄りを徐行し、歩行者を優先しなければならない。2023年4月からは、すべての年齢について自転車乗車時のヘルメット着用が努力義務となった。幼児用座席への同乗の要件は都道府県公安委員会の規則で定められている。公園に自転車で来る子どもの多くは13歳未満であり、歩道通行が認められる年齢である一方、車道と歩道を行き来する判断は幼児の歩行と同じ発達上の限界を抱える。

公園の出入口との関係では二点ある。一つは駐輪の位置である。出入口の脇に停められた自転車の列は、車止めの機能を弱め、出入口の見通しを遮る。もう一つは、公園から自転車で出る子どもの速度である。園内で乗ってきた自転車がそのまま道路に出る出入口では、歩行者以上に速い「飛び出し」が起こりうる。第6節で述べた車止めやクランク状の柵は、自転車に対しては降りて押すことを求める装置として働く。公園内での自転車の扱いは公園ごとの利用ルールに属し、当サイトは今後の踏査でこの点も確かめる。

8. 磐田市の公園への示唆——徒歩圏の51園と駐車場のある33園

本節では、ここまでの論点を磐田市の都市公園に当てはめる。用いる事実は、市のオープンデータ「都市公園一覧」と市施設ガイドをもとに当サイトが整理した100園の種別・面積・地区・駐車場の記載に限る。当サイトの現地踏査はまだ始まっておらず、個々の公園の前面道路の幅、歩道の有無、実勢速度、横断歩道の位置、出入口の形状は把握していない。したがって本節は評価ではなく、「どの公園でどの論点が前面に出るか」の見取り図と、今後の踏査で確かめる項目の提示である。

8.1 二つの利用圏——歩く公園と車で行く公園

磐田市の100園のうち、街区公園は51園と半数を占める。国の標準で誘致距離250mとされる街区公園は、本稿の言葉でいえば「歩いて行く公園」であり、第3節から第6節までの生活道路の論点——速度、幼児の飛び出し、横断歩道と出入口——が最も直接に当てはまる。近隣公園14園(誘致距離500m)もおおむね徒歩・自転車圏である。これに対し、竜洋海洋公園(221,722㎡)、かぶと塚公園(106,982㎡)、兎山公園(56,193㎡)、安久路公園(32,001㎡)、中央公園(41,642㎡)、福田公園(49,620㎡)といった総合公園・地区公園・運動公園は、市全域から車で来る利用者を前提とする施設であり、第7節の駐車場動線の論点が前面に出る。市施設ガイドや当サイトの判定で駐車場があるとされる園は100園中33園である。

この二分法は単純化である。街区公園にも駐車場を持つ園があり、施設ガイドには、たとえば豊田高見丘公園(街区公園・614㎡)に「駐車場:3台」、豊田森下公園(街区公園・1,794㎡)や中原公園(街区公園・2,802㎡)、一ノ谷公園(街区公園・2,458㎡)に「駐車場:有り」とある。逆に福田第1公園(街区公園・3,000㎡)には「駐車場:なし」と明記されている。街区公園に駐車場があることは、徒歩圏の外からも利用者を集めることを意味し、その園では「歩いて来る子ども」と「駐車場から出てくる車」が同じ出入口の周辺で交わりうる。小さな公園ほど駐車場の出入口と歩行者の出入口を離す余地がないため、第7節で述べた原則をどう満たすかが問われる。

8.2 施設ガイドの記載から読めること

市施設ガイドの備考欄には、交通工学の観点から注目すべき記載がある。今之浦公園(近隣公園・見付・13,675㎡・駐車場有り)には「駐車場以外の場所への駐車はご遠慮ください」とある。第7節で述べたとおり、公園の周囲の路上駐車は法律上当然には禁じられておらず、管理者の呼びかけによって埋められている空白がここに見える。今之浦公園は施設ガイドによれば複合遊具や噴水広場を備え、遊びと賑わいのゾーンと憩いとふれあいゾーンが今ノ浦川の東西に分かれるとされる。川をはさんで二つのゾーンがある構成は、園内の動線が水路と交わることを意味し、行き来の経路は今後の踏査で確かめたい。

クリーンセンター公園(南部・法対象外)には「リサイクルステーション、磐田温水プールの駐車場の利用はご遠慮ください」とある。隣接施設の駐車場と公園の駐車場が近接していることをうかがわせる記載であり、複数の駐車場の出入口と公園の歩行者出入口がどう配置されているかは、第7節の交錯の論点そのものである。これらの記載は、市が駐車と動線を管理上の課題として意識していることの表れと読める。なお、これらの公園の管理は磐田市都市整備課(電話 0538-37-4806)が担っており、道路や横断歩道に関する事柄は道路管理者と警察の所管であることは、読者に改めて注意を促したい。

9地区100園歩く51園駐車場33園踏査項目
図8磐田市の100園を、徒歩圏を前提とする街区公園51園と駐車場のある33園に分けて論点を当てはめ、今後の踏査で確かめる項目を定める。

8.3 地区ごとの見取り図

地区別に見ると、豊田28園、見付21園、中泉14園、御厨13園、竜洋13園、福田4園、豊岡3園、南部2園、向陽2園である。園数の多い豊田・見付・中泉・御厨では、街区公園が住宅地の中に点在し、それぞれの園の前面道路が生活道路であると推測されるが、実際に道路がどのような幅と速度環境にあるかは把握していない。磐田市内のどの区域がゾーン30に指定されているか、ゾーン30プラスの整備が進んでいるかについても、当サイトは現時点で確認しておらず、静岡県警察や市の公表資料に当たる必要がある。本稿はそれらの事実を確かめる前の枠組みの提示である。

小さな園も論点を持つ。見付本通広場公園(街区公園・372㎡)は施設ガイドに「駐車場:あり」とある最小級の園であり、名称からして通りに面した広場と推測されるが、通りとの縁がどうなっているかは踏査で確かめる。都市緑地10園のうち二之宮東第2緑地(17㎡)や豊田上新屋ポケットパーク(156㎡)のような極めて小さな緑地は、目的地というより通り道の一部として機能している可能性があるが、これも現時点では推測にとどまる。

8.4 今後の踏査で確かめる項目

本稿の論点を、当サイトが今後の踏査で一園ごとに記録すべき項目に置き換えると次のようになる。いずれも「見て記録できる」事実であり、速度の測定や事故の評価のような専門的判断は含めない。

  • 出入口の数と位置——交差点の角からの距離、横断歩道との対応(正面か、ずれているか)
  • 出入口の形——車止めの有無と間隔、柵がクランク状か、ベビーカー・車いすが通れる幅か
  • 出入口周辺の見通し——生垣・柵の高さ、電柱・看板の位置、出入口の正面に停まっている車の有無
  • 前面道路——歩道の有無、路側帯の幅、ゾーン30の標識・路面表示の有無、ハンプ・狭さくの有無
  • 駐車場——出入口と歩行者出入口の距離、場内の歩行者通路の有無、遊具までの動線が車路を横切るか
  • ベビーカー——歩道から出入口までの段差、園路の連続性、トイレ・遊具までの勾配
  • 自転車——駐輪の場所と出入口との関係、園内乗り入れに関する掲示

これらの項目は、公園を評価して順位づけるためではなく、利用者が自分の家から公園までの道を考えるときの手がかりとして、また行政や地域が公園周辺の道路を話し合うときの共通の言葉として用いることを意図している。第2節で見たとおり、対策の単位は点から面へと広がってきた。一つの公園の出入口を見ることは、その公園を含む区域全体の速度環境を考える入口である。

9. 結論と今後の課題

本稿は、公園の安全を「園内」から「公園に至る道」へと視点を移し、公園周辺の生活道路における幼児の歩行安全を交通工学の概念で整理した。得られた結論は四つの原則にまとめられる。第一に速度を下げる。停止距離は速度の2乗に比例する制動距離を含み、住宅地の見通しの実態のもとで止まれる速度が時速30kmという数字の根拠である。第二に見通しを確保する。幼児は身長が低く、駐車車両や生垣の陰で車と互いに見えなくなる。第三に出入口で一度止まる動線をつくる。公園は子どもを引き寄せる目的地であり、その引力を車道の手前で一瞬受け止める仕掛けが要る。第四に駐車場と歩行者の交錯を減らす。車の出入口と子どもの出入口を離し、園内でも車路と園路の横断を絞る。

この四原則の担い手は分かれている。速度規制は公安委員会、物理的デバイスと歩道は道路管理者、出入口と駐車場は公園管理者、そして手をつなぎ横断の場所を決めるのは利用者である。生活道路の対策が「点から面へ、規制から規制+物理へ」と進んできた歴史(第2節)は、担い手の連携が制度の側で徐々に整えられてきた歴史でもある。ゾーン30プラスが市町村・道路管理者・警察の共同計画を求めていることは、その到達点の一つといえる。公園管理者がこの枠組みに加わることが、本稿の観点からの一つの提案である。

9.1 本稿の限界

本稿にはいくつかの限界がある。第一に、文献整理と概念分析にとどまり、磐田市の個別の公園の前面道路や出入口を確かめていない。第8節の見取り図は種別・面積・駐車場の記載からの推測を含み、当サイトの踏査によって書き換えられるべきものである。第二に、交通事故の統計や研究結果を、確度の高い一般論に限って述べ、数値を挙げなかった。速度と被害の関係、子どもの事故の年齢分布については、内閣府の交通安全白書や交通事故分析の専門機関の資料に当たられたい。第三に、幼児の発達的な特性についての記述は概説にとどまり、医学的・発達的な判断は専門機関に委ねる。第四に、道路構造令や技術基準の数値は挙げたが、それらの適用や例外の詳細は各法令・基準そのものによる。

四つの原則担い手の連携地域の対話踏査の記録
図9速度・見通し・出入口・駐車場の四原則を、道路・警察・公園・利用者の連携で実現する。当サイトは踏査の記録でその手がかりを提供する。

9.2 今後の課題

今後の課題を三つ挙げる。第一に、踏査による事実の蓄積である。第8節末の項目を一園ずつ記録し、100園を通してどのような傾向があるか——たとえば出入口が交差点の角に近い園がどれほどあるか、車止めのない出入口がどれほどあるか——を集計できるようにする。これは評価ではなく記述であり、その先の判断は道路管理者・警察・公園管理者に委ねる。第二に、公園への道と通学路の関係の整理である。通学路は点検の枠組みを持つが、就学前後の子どもが一人で歩く最初の目的地である公園への道は、その枠組みの外にあることが多い。両者が重なる区間を見つけることは、既存の点検の仕組みを公園に延ばす近道になる。

第三に、他の学問領域との接続である。速度と被害の関係は疫学と車両工学に、幼児の視野と注意は発達心理学に、出入口の見通しは犯罪学の「見通し」の議論に、駐車場の動線は都市設計に、それぞれ隣り合っている。本稿が示した四原則は、これらの領域の知見を「公園への道」という一つの場所に集める枠組みとして機能しうる。公園は着いてからが本番だと多くの人が思う。しかし、公園に着くまでの数百mを安全に歩けることは、公園という施設が地域に置かれている理由そのものである。誘致距離250mという数字が「歩いて行ける」ことを約束しているのなら、その約束の中身を確かめるのは、道路と公園の設計者と、その道を毎日歩く利用者の双方の仕事である。

註:本稿で挙げた速度・距離・幅・高さの数値は、道路交通法・道路構造令・駐車場法施行令・国土交通省の技術基準・移動等円滑化の基準に基づく一般的な値であり、個別の道路や公園への適用は各法令・基準の規定と道路管理者・公安委員会・公園管理者の判断による。磐田市の公園に関する事実は市のオープンデータと市施設ガイドの記載に基づき、当サイトの現地踏査は今後行う。

参考文献

  1. 道路交通法(昭和35年法律第105号)
  2. 道路構造令(昭和45年政令第320号)
  3. 駐車場法(昭和32年法律第106号)・駐車場法施行令(昭和32年政令第340号)
  4. 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法、平成18年法律第91号)・都市公園移動等円滑化基準(平成18年国土交通省令)
  5. 国土交通省道路局「凸部、狭窄部及び屈曲部の設置に関する技術基準」(平成28年3月)
  6. 警察庁「ゾーン30の推進について」(平成23年9月通達)・国土交通省/警察庁「ゾーン30プラス」(令和3年8月)
  7. 内閣府『交通安全白書』(各年版)・中央交通安全対策会議「第11次交通安全基本計画」(令和3年3月)
  8. コーリン・ブキャナン(1963)『都市の自動車交通——イギリスのブキャナン・レポート』(八十島義之助・井上孝訳、鹿島出版会、1965)
  9. ドナルド・アップルヤード(1981)『Livable Streets』(University of California Press)
  10. クラレンス・スタイン(1951)『Toward New Towns for America』(Reinhold)
  11. 都市公園法(昭和31年法律第79号)・都市公園法施行令(国土交通省 都市公園のページ)
  12. 磐田市オープンデータ「都市公園一覧」(CC BY 3.0・出典:磐田市)
  13. 磐田市 施設ガイド(公園)

本稿は ATAWI PARK 編集部による総説的な論考であり、学会誌等の査読を経た学術論文ではありません。引用は広く知られた著作・公的資料に限り、磐田市固有の事実は当サイトのデータベースと磐田市の公開情報にもとづきます。個々の公園の設備・状態は現地でご確認ください。医療・安全に関する判断は医療機関・関係機関の指示を優先してください。

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