国際・比較・未来WHOエイジフレンドリーシティ
歳をとっても暮らせるまち——WHOの八領域と屋外空間
要旨
本稿の目的は、世界保健機関(WHO)が提示してきたエイジフレンドリーシティ(高齢者にやさしいまち)という国際的な政策枠組みから都市公園を検討することである。方法は文献整理と概念分析であり、WHOの「アクティブ・エイジング:政策の枠組み」(2002年)から「高齢者にやさしい都市の手引き」(2007年)、そして各都市が参加するグローバル・ネットワークへと至る政策の展開を整理したうえで、八つの領域のうち屋外空間と建物がなぜ筆頭に置かれるのかを検討する。
検討の中心は次の三点である。第一に、WHOの枠組みは行政が上から基準を課すものではなく、高齢者自身への聞き取りを通じてチェックリストを作るという参加型の手法を特徴とすること。第二に、この参加型チェックリストが公園に問う項目——座れる場所、トイレの様式、木陰、段差の少なさ——は、専門的な遊具の話とは異なる次元にあること。第三に、子どもにやさしいまちづくりや日本のバリアフリー法制など、隣接する国際的・国内的な枠組みと比較することで、WHOの枠組みの特徴と限界が見えてくること。
結論として、エイジフレンドリーシティは単一の基準というより、都市が自らを点検し続けるための手続きの枠組みであるという理解を示す。最後に磐田市の公園100園のデータから、トイレや車いす対応トイレの整備状況など点検可能な項目を整理し、あわせて当サイトの現地踏査がまだ始まっていないことを明示したうえで、今後の課題を述べる。
キーワードエイジフレンドリーシティWHO屋外空間参加型チェックリストグローバル・ネットワークユニバーサルデザイン磐田市
1. はじめに——問題の所在
磐田市に限らず、日本の地方都市の多くは人口の高齢化が進行しつつある。市街地の身近な場所に緑地や遊具のある公園があることは、子育て世代にとってだけでなく、高齢期を迎えた住民にとっても生活環境の一部である。ところが「高齢者と公園」という主題は、多くの場合、老年学(ジェロントロジー)や公衆衛生学の立場からフレイル予防や健康遊具、世代間交流といった個人の健康・生活機能の観点で論じられてきた。本稿はこれとは別の角度から、すなわち世界保健機関(WHO)が主導してきた「エイジフレンドリーシティ」という国際的な都市政策の枠組みから、公園という場所を検討する。
エイジフレンドリーシティとは、高齢者が安心して暮らし続けられるよう、都市の物理的環境や社会制度を包括的に見直そうとする政策上の構想である。WHOは2002年に「アクティブ・エイジング:政策の枠組み」を公表し、2007年には「高齢者にやさしい都市の手引き(Global Age-friendly Cities: A Guide)」を発表した。この手引きは、住まい・交通・社会参加など八つの領域からなるチェックリストを示しており、その第一に挙げられているのが「屋外空間と建物」である。本稿の出発点となる問いは単純である。なぜ、屋外空間が八領域の筆頭に置かれているのか、という問いである。
この問いを掘り下げると、いくつかの副次的な問いが浮かび上がる。第一に、WHOの枠組みはどのような手続きで作られ、どのような手法によって各都市に適用されるのか。第二に、その手続きが公園という具体的な場所に何を求めているのか。第三に、同様の国際的な枠組みとして子どもにやさしいまちづくりや、日本国内のバリアフリー法制があるが、これらとWHOの枠組みはどう異なるのか。第四に、チェックリストという手法にはどのような限界があるのか。本稿はこれらの問いを順に検討していく。
方法は文献整理と概念分析である。WHOが公表してきた政策文書の展開を時系列で整理したうえで、八領域の構造、参加型チェックリストという手法の特徴、都市が参加する国際的なネットワークの仕組みを検討する。さらに、隣接する国際的・国内的な枠組みとの比較を通じて、WHOの枠組みに固有の特徴と限界を明らかにする。個人の健康や世代間交流という論点は当サイトの別稿が老年学の立場から扱っており、本稿ではこれと重ならないよう、都市政策・制度の水準に焦点を絞ることとする。
構成は次のとおりである。第2節で先行研究と概念を整理し、第3節でWHOの政策展開を追う。第4節から第7節にかけて、八領域の構造、参加型チェックリストの手法、グローバル・ネットワークという制度、そして公園に具体的に問われる環境要素を順に検討する。第8節と第9節では、子どもにやさしいまちづくりやバリアフリー法制・ユニバーサルデザインという隣接する枠組みと比較する。第10節で反論と限界を扱ったうえで、第11節では磐田市の公園100園のデータに照らして具体的な示唆を述べ、第12節で結論と今後の課題をまとめる。
本稿が扱う対象は、磐田市内の個別の公園の設計や遊具の是非ではなく、それらの背後にある国際的な政策の枠組みと、その枠組みが公園という場所に何を求めているかという水準である。当サイトの論文シリーズには、都市計画学や行政学、法学など隣接する分野から公園を論じる稿がすでに置かれており、本稿はそれらと並んで、国際機関が示す政策の枠組みという切り口を補うものである。
読者として想定するのは、磐田市周辺で子育てや介護に関わる住民、地域づくりに携わる行政・議会関係者、そして都市計画やまちづくりを学ぶ学生である。エイジフレンドリーシティという語は近年、行政計画や広報の中で用いられる機会が増えているが、その内実がどのような手続きと歴史を持つ枠組みであるかは、必ずしも十分に共有されていない。本稿はこの内実を確認する作業として位置づけられる。
2. 先行研究と概念の整理——エイジング・イン・プレイスから政策枠組みへ
高齢期と居住環境の関係を論じる概念として、老年学には「エイジング・イン・プレイス(住み慣れた場所で老いること)」という考え方がある。これは施設への入所ではなく、可能な限り自宅や住み慣れた地域で暮らし続けることを望ましいとする立場であり、環境老年学と呼ばれる領域で早くから論じられてきた。環境老年学の代表的な理論に、心理学者M・P・ロートンらが示した「環境と行動の適合」という考え方がある。加齢とともに身体機能が低下すると、同じ環境でもそこから受ける負荷(環境圧)は相対的に大きくなり、環境の側の調整が生活の質を左右するという見方である。
この環境老年学の系譜は、個人と環境の関係を主に心理学・医学の言葉で論じるものであった。これに対しWHOが2000年代に打ち出した一連の政策文書は、同じ「環境と高齢者」という主題を、都市政策・行政の言葉に置き換えて論じた点に特徴がある。すなわち、住宅や交通、公共空間の設計を、個々の専門職の判断に委ねるのではなく、都市全体で取り組むべき政策課題として位置づけたのである。この転換によって、公園のベンチや歩道の段差といった細部が、都市計画・行政評価の対象として扱われる回路が開かれたと考えられる。
WHOの枠組みの前史として、1991年に国連総会で採択された「高齢者のための国連原則」がある。これは自立・参加・ケア・自己実現・尊厳という五つの原則を掲げ、高齢者を保護の対象としてだけでなく、社会参加の主体として位置づける立場を示した文書である。この立場は、後のWHOの政策文書にも引き継がれており、エイジフレンドリーシティが単なる福祉施設の整備ではなく、高齢者自身の社会参加を軸に据えている背景となっている。
都市空間の質と住民の社会生活の関係を論じた古典として、ジェイン・ジェイコブズの都市論も参照に値する。ジェイコブズは、歩道や公共空間における人の目——街路の目——が地域の安全と活気を支えると論じ、専門家の設計だけでなく、そこに人が実際に居ることの重要性を強調した。この視点は、公園という屋外空間を、遊具の性能ではなく、人が座り、とどまり、互いを見守る場所として捉える立場に通じるものであり、本稿がWHOの屋外空間概念を検討するうえでの補助線となる。
以上を整理すると、高齢期の環境を論じる系譜には、少なくとも三つの水準がある。第一に個人と環境の心理学的な適合を論じる環境老年学、第二に高齢者の社会参加を権利として位置づける国連の原則、第三に都市政策として環境整備を進めるWHOの枠組みである。本稿が主に検討するのは第三の水準であるが、その背後に第一・第二の水準があることを踏まえたうえで、次節ではWHOの政策展開を具体的に追うこととする。
ロートンの理論は「環境圧-有能性モデル」と呼ばれ、個人の身体的・心理的な有能性(コンピテンス)が高いほど、環境からの圧力に対して余裕をもって対応できる一方、有能性が低下するほど、わずかな環境の変化が生活の質に大きく影響するという構造を示す。この考え方を公園に当てはめると、階段や段差、遠い駐車場からの距離といった要素は、体力のある利用者にとってはほとんど問題にならなくても、加齢により身体機能が変化した利用者にとっては、外出そのものを左右する障壁になりうるということになる。
こうした環境老年学の知見は、主に個人の心理・行動を単位として蓄積されてきたものであり、都市全体をどう変えるかという政策の設計とは、扱う単位が異なっている。個人の適応を助ける工夫、たとえば手すりの設置や椅子の高さの調整は、住宅や施設の改修という個別の対応で実現できることが多い。これに対し、歩道の連続性や公園の配置密度といった課題は、個々の住宅や施設の改修だけでは解決できず、都市計画・都市政策の水準での取り組みを必要とする。WHOのエイジフレンドリーシティは、この後者の水準を担う枠組みとして理解することができる。
3. 「アクティブ・エイジング」から「エイジフレンドリー・シティ」へ——WHOの政策展開
WHOのエイジフレンドリーシティ構想を理解するには、その前段にある「アクティブ・エイジング」という考え方をおさえる必要がある。WHOは2002年、スペインのマドリードで開かれた第2回高齢化に関する世界会議に合わせて「アクティブ・エイジング:政策の枠組み」を公表した。ここでアクティブ・エイジングとは、人が年を重ねる過程で、健康・社会参加・安全にかかわる機会を最大限に活用できるようにすることと定義される。運動や就労だけを指すのではなく、社会とのつながりを保ちながら年を重ねること全般を指す、幅の広い概念である。
この枠組みを都市という単位で具体化する試みとして、WHOは2006年から2007年にかけて、複数の国の都市で高齢者・介護者・サービス提供者への聞き取り調査を実施し、その結果を「高齢者にやさしい都市の手引き」としてまとめた。この調査には、高齢化研究の拠点の一つとして知られる神戸のWHO神戸センター(WHO Centre for Health Development)が支援したとされる。手引きは、都市を「屋外空間と建物」「交通」「住宅」「社会参加」「尊重と社会的包摂」「市民参加と雇用」「コミュニケーションと情報」「地域支援と保健サービス」という八つの領域に整理し、領域ごとにチェックリストを付した。
2007年の手引きの公表を受けて、WHOは2010年に「WHOグローバル・エイジフレンドリー・シティ&コミュニティ・ネットワーク」を発足させた。これは各都市・地域が自主的に参加し、八領域に沿った現状評価と改善計画づくりに継続的に取り組むことを約束する枠組みである。ネットワークは基準を満たした都市を認証するような制度ではなく、参加都市どうしが手法や事例を共有しながら、それぞれの文脈でエイジフレンドリーな取り組みを進めることを支える緩やかな協力の場として設計されている。
この政策の系譜はさらに続く。2020年12月、国連総会はWHOの提案を受けて2021年から2030年までを「健康な高齢化のための行動の10年」とすることを決議した。これはアクティブ・エイジングからエイジフレンドリーシティ、グローバル・ネットワークへと積み重ねられてきた政策を、国連全体の目標として位置づけ直すものである。約20年にわたるこの展開を通じて一貫しているのは、高齢者を支援の対象としてのみ捉えるのではなく、環境の側を高齢者に合わせて調整するという発想である。
本節で確認した政策の展開を踏まえると、エイジフレンドリーシティは一時点の基準ではなく、20年以上にわたって積み重ねられてきた政策の連なりとして理解する必要がある。次節では、この連なりの中核にある2007年の手引きが示した八つの領域の構造を、より立ち入って検討する。
アクティブ・エイジングの定義は、健康・参加・安全という三つの要素から成るとされる。健康は身体的な健康だけでなく心理的な健康を含み、参加は就労やボランティア、家族や地域における役割を含み、安全は経済的な安定や身体的な安全を含む、幅の広い概念である。WHOはこの三要素を、高齢者個人の努力だけに委ねるのではなく、政策によって環境側から支える必要があると位置づけた。エイジフレンドリーシティは、この政策的な支えを都市という単位で具体化する試みとして構想されたと理解できる。
2007年の手引きの作成過程では、世界の複数の国・地域の都市において、高齢者本人だけでなく、家族介護者やサービス提供者への聞き取りもあわせて行われたとされる。異なる立場からの聞き取りを組み合わせることで、高齢者本人が気づきにくい課題や、逆に専門職が見落としがちな生活実感の双方を拾い上げようとする設計であったと考えられる。この複数の視点を組み合わせる手法は、前節で確認した参加型の手続きの信頼性を支える基盤になっていると考えられる。
4. 八つの領域とその構造——なぜ屋外空間と建物が筆頭に置かれるか
2007年の手引きが示す八領域は、屋外空間と建物、交通、住宅、社会参加、尊重と社会的包摂、市民参加と雇用、コミュニケーションと情報、地域支援と保健サービスである。これらは相互に独立した項目ではなく、高齢者が一日の生活を送るうえで経由する場面をおおむね時系列的・空間的に並べたものと見ることができる。
4.1 八領域の一覧
| 領域 | 主な内容(例) |
|---|---|
| 屋外空間と建物 | 歩道、公園、ベンチ、トイレ、建物の出入口など |
| 交通 | 公共交通の利用しやすさ、運賃、乗降のしやすさなど |
| 住宅 | 住み慣れた家に住み続けるための改修・選択肢など |
| 社会参加 | 文化・レジャー・地域活動への参加機会など |
| 尊重と社会的包摂 | 世代間の敬意、地域社会からの疎外の防止など |
| 市民参加と雇用 | ボランティアや就労、意思決定への参加機会など |
| コミュニケーションと情報 | 情報が届く手段、わかりやすい発信など |
| 地域支援と保健サービス | 医療・福祉サービスへのアクセスなど |
この一覧を見ると、屋外空間と建物は、住宅の外に出て、交通機関に乗り、社会参加や市民参加の場へ向かうという一連の行動の、いわば入口に位置していることがわかる。住宅の中でどれほど快適に過ごせても、玄関を出た先の歩道に大きな段差があったり、近くに座って休める場所がなかったりすれば、外出そのものが難しくなる。手引きが屋外空間と建物を筆頭に置いているのは、これが他の七領域への入口であり、かつ日常的に最も頻繁に接する環境だからだと考えられる。
屋外空間と建物の領域でチェックリストが挙げる項目は多岐にわたるが、共通する視点は、短い距離を休みながら移動できるかという点に集約できる。具体的には、歩道の平坦さや幅、横断歩道の信号の長さ、座って休めるベンチの配置間隔、清潔で使いやすいトイレの有無、日差しや雨をしのげる場所の有無などが含まれるとされる。これらはいずれも、高齢期に体力や視力、バランス能力が変化しても、外出という行動そのものを諦めずに済むための条件であるといえる。
都市公園は、この屋外空間と建物の領域に含まれる代表的な施設の一つである。住宅の近くにあり、無料で入れ、座る場所とトイレと日陰をあわせ持つ場所は、都市の中でも公園以外に多くはない。ただし、公園がこの領域のすべてを満たすわけではない。信号の長さや歩道の勾配は道路管理者の所管であり、公園の中だけを整備しても、そこにたどり着くまでの経路が高齢者にとって歩きにくければ、公園の効果は限定的なものにとどまる。この点は本稿の後半、磐田市の事例を検討する際にも重要な論点となる。
八領域は互いに独立しているように見えて、実際には強く連動している。屋外空間が整っていても、そこに向かう交通手段がなければ利用は難しく、社会参加の機会があっても、そこに向かう建物の出入口に段差があれば参加は妨げられる。エイジフレンドリーシティが八つの領域を並列に示しているのは、都市政策を一つの部署や一つの施策だけで完結させず、複数の部門にまたがる横断的な課題として扱う必要があることを示すためだと理解できる。
八領域の並び順は、WHOが明確な優先順位として定めたものではなく、手引きの構成上の並びであるとされる。したがって、屋外空間と建物が第一に置かれていることをもって、他の領域より重要だと断定することはできない。ただし、複数の都市での聞き取りにおいて、外出のしやすさに関わる話題が繰り返し語られたという経緯があるとされ、この経緯が屋外空間と建物を冒頭に置く構成につながったと考えられる。
行政の実務に即していえば、屋外空間と建物の領域は都市公園部局や道路管理部局が、交通の領域は公共交通担当部局が、住宅の領域は住宅政策部局が、それぞれ主管することが多い。エイジフレンドリーシティが八領域を横断的に示すことは、これらの部局の取り組みを一つの枠組みのもとに位置づけ、部局間の連携を促す効果を持ちうると考えられる。
また、八領域は先進国と開発途上国を問わず共通に適用されることを想定して整理されているとされ、具体的な達成水準の数値までは定めていない。これは、道路や公共交通の整備状況が国や地域によって大きく異なる中で、一律の数値基準を課すことが現実的でないためだと考えられる。この抽象度の高さは、各都市が自らの状況に応じてチェックリストを読み替える余地を残す一方、具体的に何をどこまで整備すればよいかが見えにくいという課題も伴う。
5. 参加型チェックリストという方法——高齢者自身の声を聞く手法
WHOのエイジフレンドリーシティが他の都市計画上の基準と異なる大きな特徴は、チェックリストの作成手続きそのものにある。2007年の手引きに先立つ調査では、行政や専門家があらかじめ基準を定めて都市を評価したのではなく、各都市の高齢者や介護者、サービス提供者を対象にした聞き取り(フォーカスグループ)を通じて、何が生活のしやすさ・しにくさを左右しているかを聞き取る手法がとられたとされる。
この聞き取りに基づく手法は、専門家が先に望ましい環境の像を描き、それに現実を当てはめて点数化する方式とは順序が逆である。まず高齢者自身の語りから、歩道の段差やベンチの少なさ、トイレの様式といった具体的な困りごとや、逆に助けになっている工夫を拾い上げ、それを整理する形で八領域とチェックリストの項目がまとめられた。この手続きの結果、チェックリストには、専門家だけでは気づきにくい生活実感に基づく項目が含まれていると考えられる。
参加型の手法にはもう一つの意味がある。それは、エイジフレンドリーシティが単に環境を測定する道具ではなく、高齢者を都市政策の意思決定に関与させる手続きでもあるという点である。八領域のうち「市民参加と雇用」が独立した領域として立てられているのはその表れであり、屋外空間の整備そのものについても、高齢者の意見を聞く場を設けることが望ましいとされる。この考え方は、高齢者を保護の客体としてではなく、まちづくりの主体として位置づける立場を反映している。
5.1 チェックリストの使われ方
各都市がエイジフレンドリーシティに取り組む際、2007年の手引きに付属するチェックリストは、そのまま採点表として使われるとは限らない。多くの場合、都市はチェックリストを手がかりに、自らの地域で高齢者への聞き取りを改めて行い、地域の実情に応じた優先順位を付け直す。すなわちチェックリストは完成された基準ではなく、各都市が自分たちの点検作業を始めるための出発点として設計されていると理解するのが妥当である。
この参加型の手法は、都市公園を考えるうえでも示唆的である。遊具の安全基準のように、専門的な知見に基づいて定められる項目がある一方で、ベンチの配置や座り心地、木陰の位置といった項目は、実際にその場所を使う高齢者に聞かなければわからない性質のものが多い。次節では、こうした参加型の手続きを経て高齢者と都市が結ぶ約束の仕組みとして、グローバル・ネットワークという制度を検討する。
参加型の聞き取りに基づく手法には、方法論上の留意点もある。聞き取りに応じる高齢者は、外出が可能で、調査に参加する意欲や機会を持つ人に偏りやすく、外出が困難な高齢者や、地域とのつながりが薄い高齢者の声は、相対的に反映されにくい可能性がある。この点は、チェックリストが高齢者一般の声を代表しているとみなすことには慎重であるべきだということを示唆している。
また、参加型の聞き取りから導かれた項目には、特定の地域や文化に固有の事情を反映したものと、多くの都市に共通して見られる事情を反映したものとが混在していると考えられる。2007年の手引きは、両者を明確に区別してはいないが、各都市がチェックリストを地域の実情に合わせて読み替えることを前提としており、この読み替えの作業もまた、聞き取りという参加型の手続きの一部として位置づけられる。
以上を踏まえると、参加型チェックリストという手法は、完成された普遍的な基準を提供するものではなく、各都市が自らの地域で聞き取りを重ね、項目を更新し続けることを促す、開かれた手続きとして理解するのが妥当である。
6. グローバル・ネットワークという制度——都市はどう参加し、何を約束するか
2010年に発足したWHOグローバル・エイジフレンドリー・シティ&コミュニティ・ネットワークは、世界各地の都市や地域が自主的に参加する枠組みである。参加にあたって都市は、資格試験に合格するような一度きりの認証を受けるのではなく、現状評価、改善のための行動計画の策定、実施、再評価という継続的な改善の手続きに取り組むことを約束する。この仕組みは、完成した「エイジフレンドリーな都市」という到達点を想定するのではなく、改善を続ける過程そのものに価値を置く点に特徴がある。
ネットワークへの参加は、都市の規模や財政力を問わない。大都市だけでなく、人口規模の小さな自治体も参加しており、地域の実情に応じて優先領域を選び、できることから取り組む余地が残されている。この柔軟さは、限られた予算の中で複数の政策課題に取り組む地方自治体にとって、参加のハードルを下げる要因になっていると考えられる。一方で、基準が緩やかであることは、取り組みの実質が都市ごとに大きく異なりうることも意味しており、この点は本稿の後半で限界として改めて取り上げる。
ネットワークという制度の意義は、個々の都市の取り組みを孤立させないことにもある。ある都市で有効だった工夫、たとえばベンチの配置基準や高齢者への聞き取りの進め方などを、他の都市が参照できる仕組みが用意されているとされる。都市公園の整備は多くの場合、当該自治体の担当部局だけで完結する事業であるが、エイジフレンドリーシティという枠組みに位置づけることで、他の自治体の経験を参照する回路が開かれる可能性がある。
ただし、ネットワークへの参加それ自体は、個別の公園や歩道の整備を直接に義務づけるものではない。参加は都市全体としての方針の表明であり、実際にどの公園から手をつけるか、どのような改修を行うかは、それぞれの自治体の個別の判断と予算措置に委ねられている。したがって、ある都市がネットワークに参加しているという事実だけから、その都市のすべての公園が高齢者にとって使いやすいと判断することはできない。この点は、次節で検討する公園の具体的な環境要素の議論につながる。
以上のように、グローバル・ネットワークは、基準を課す制度というより、都市どうしが継続的な改善の手続きを共有し、互いの取り組みを参照し合うための緩やかな協力の仕組みとして理解するのが適切である。次節では、この協力の仕組みが最終的にどのような具体的な環境要素に行き着くのかを、ベンチやトイレ、日陰、段差といった公園の要素に即して検討する。
ネットワークへの参加都市は、専門的な知見や他都市の事例を参照できる利点がある一方、参加のために必要な事務作業、たとえば現状評価の実施や行動計画の文書化には、一定の人員と時間がかかるとされる。したがって、ネットワークへの参加を検討する際には、参加によって得られる知見の共有という利点と、参加に伴う事務負担とを、それぞれの自治体の実情に照らして比較検討する必要がある。
日本国内の自治体がこうした国際的な枠組みに正式に参加するかどうかにかかわらず、八領域の考え方や参加型の点検という発想そのものは、既存の統計やオープンデータを活用する形でも部分的に取り入れることができる。たとえば、公園のトイレや車いす対応トイレの整備状況をオープンデータとして公開し、地区ごとに集計するという作業は、ネットワークへの正式な参加を経なくても、屋外空間の点検の一部として位置づけることができる。本稿の後半で磐田市のデータを検討するのは、こうした部分的な適用の一例として理解されたい。
7. ベンチ・トイレ・日陰・段差——チェックリストが公園に問うこと
ここまで整理してきた八領域とチェックリストの手法を踏まえ、本節では公園という場所に即して、エイジフレンドリーシティが具体的に何を問うているのかを検討する。チェックリストが挙げる項目のうち公園に関わりの深いものとして、座って休める場所の多さ、清潔で使いやすいトイレの様式、日差しや雨をしのげる場所、そして歩道や園路の段差の少なさが挙げられるとされる。これらはいずれも専門的な遊具の性能とは異なる、たどり着けるか、とどまれるかという次元の条件である。
7.1 座る・休む——ベンチという設備
高齢期になると、体力の低下により、休みなく歩き続けられる距離は個人差はあるが短くなる傾向があるとされる。この状況で外出をあきらめずに済むためには、目的地までの経路上に、こまめに座って休める場所があることが助けになると考えられる。都市公園のベンチは、遊具のように子どものための設備ではなく、公園を訪れるすべての年齢層、とりわけ高齢者にとって、外出という行動そのものを支える基礎的な設備であるといえる。
トイレについても同様のことがいえる。洋式トイレであるか和式トイレであるかは、膝や腰に負担のかかる姿勢を取れるかどうかに関わるとされ、車いす対応トイレの有無は、車いすや歩行器を使う高齢者にとって外出できるかどうかを左右する条件になりうる。公園にトイレがあるかどうかだけでなく、その様式がどうであるかまで含めて検討することが、エイジフレンドリーシティの視点からは求められることになる。
7.2 見える・たどり着ける——日陰と段差
日差しの強い時期には、木陰や屋根のある休憩所の有無が、外出できる時間帯や滞在できる時間の長さに影響すると考えられる。暑さへの配慮は主に子どもの熱中症予防の文脈で語られることが多いが、高齢者にとっても同様に重要な論点である。ただし、熱中症をめぐる医学的な判断は本稿の範囲を超えるものであり、具体的な行動の是非は医療機関や関係機関の情報に委ねるべきである。
段差については、園路の入口や公園内の通路にわずかな高低差があるだけでも、つまずきや転倒のきっかけになりうるとされる。都市公園法施行令が示す園路や広場の整備基準は、主に通行の安全確保を目的としたものであるが、エイジフレンドリーシティのチェックリストは、これをより高齢者の歩行特性に即して読み直す視点を提供するものといえる。ベンチ・トイレ・日陰・段差という四つの要素は、いずれも遊具のように目立つものではないが、公園という屋外空間が屋外空間と建物という領域の入口として機能するかどうかを左右する、地味だが重要な条件である。
ベンチの配置間隔について、2007年の手引きの聞き取りでは、高齢者が休みながら歩ける範囲でベンチが配置されていることの重要性が語られたとされるが、具体的に何メートルおきに設置すべきかという普遍的な数値基準が示されているわけではない。これは、必要な間隔が地域の気候や地形、利用者の年齢構成によって異なりうることを反映していると考えられ、各自治体が自らの状況に応じて検討すべき論点として残されている。
トイレの様式についても同様に、洋式か和式かという二分法だけでなく、手すりの有無や便座の高さ、扉の開閉のしやすさなど、細部の設計が利用のしやすさを左右するとされる。これらの細部は、当サイトが依拠する磐田市オープンデータや市施設ガイドの記載からは把握できない項目であり、現地踏査を通じて確認すべき対象として残る。
以上のように、屋外空間と建物の領域が公園に問う項目は、遊具の安全基準のような専門的な工学の議論とは別に、日常的な歩行や休憩、排せつという生活の基本的な動作に関わるものである。次節では、この論点を、対象とする当事者が異なる別の国際的な枠組み、子どもにやさしいまちづくりと比較することで、WHOの枠組みの位置づけをさらに明確にする。
以上の四つの要素は、いずれも新設の大規模な工事を要するとは限らず、既存の公園に比較的小さな改修を積み重ねることでも改善の余地があると考えられる点も付け加えておきたい。木陰であれば既存の樹木の配置を活かした休憩スペースの見直し、段差であれば局所的なすりつけ舗装の工夫など、大がかりな再整備を伴わない対応の余地が残されている場合もある。もっとも、どの改修が実際に有効かは現場の状況によって異なり、専門的な検討を要する。
8. 子どもにやさしいまちづくりとの比較——もう一つの国際的な枠組み
WHOのエイジフレンドリーシティの特徴をより明確にするために、対象は異なるが手法の面で類似した国際的な枠組みと比較することが有効である。その一つが、国連児童基金(ユニセフ)が進める「子どもにやさしいまちづくり」である。この取り組みは1996年、イスタンブールで開かれた国連人間居住会議(ハビタットII)を機に始まったとされ、1989年に採択された「子どもの権利条約」を都市政策の水準で具体化しようとするものである。
子どもにやさしいまちづくりとエイジフレンドリーシティは、対象とする年齢層こそ異なるが、いずれも当事者、すなわち子どもあるいは高齢者自身の参加を通じて都市を点検し直すという手法を共有している。子どもにやさしいまちづくりでは、子ども自身の意見を聞く仕組みを都市の政策決定過程に組み込むことが求められるとされ、この点はWHOの枠組みが高齢者への聞き取りを重視することと共通している。両者とも、専門家が一方的に基準を定めるのではなく、当事者の視点を制度の中に位置づけようとする点に特徴がある。
| 枠組み | 主体・根拠 | 対象とする当事者 | 手法の特徴 |
|---|---|---|---|
| エイジフレンドリーシティ | 世界保健機関、2007年の手引き | 高齢者 | 八領域のチェックリストと参加型の聞き取り |
| 子どもにやさしいまちづくり | 国連児童基金、子どもの権利条約が背景 | 子ども | 子ども自身の意見表明の機会を制度化 |
| バリアフリー法制(日本) | 移動等の円滑化の促進に関する法律 | 高齢者・障害者等 | 施設整備基準を伴う法的な義務づけ |
表からわかるように、三つの枠組みは対象とする当事者も、義務づけの強さも異なっている。エイジフレンドリーシティと子どもにやさしいまちづくりは、いずれも国際機関が示す自主的な参加の枠組みであり、法的な強制力を伴わない。これに対して、次節で検討する日本のバリアフリー法制は、一定規模以上の施設に対して具体的な整備基準を課す法律である。この違いは、それぞれの枠組みが公園という場所に対して持つ影響力の性質を考えるうえで重要な手がかりになる。
子どもにやさしいまちづくりとエイジフレンドリーシティを同じ公園に重ねて考えると、興味深い論点が浮かぶ。子どもの遊びやすさを追求する整備と、高齢者の休みやすさを追求する整備は、多くの場合両立可能であるが、常に一致するとは限らない。たとえば、子どもの活発な遊びのための広い開放的な空間と、高齢者が落ち着いて座れる静かな空間とでは、望ましい配置が異なる場合もありうる。両者の当事者参加の手法を公園という同じ場所に適用する際には、こうした異なる需要をどう調整するかという、行政学的・都市計画学的な課題が残る。
子どもにやさしいまちづくりとエイジフレンドリーシティは、いずれも国連関連の国際的なプロセスを背景に生まれたという共通点もある。子どもにやさしいまちづくりは子どもの権利条約という条約を背景に持ち、エイジフレンドリーシティは高齢者のための国連原則やWHOの一連の政策文書を背景に持つ。条約という法的な文書を背景に持つか、政策文書を背景に持つかという違いはあるものの、両者とも当事者の権利や尊厳を都市政策の言葉に翻訳しようとする試みである点で軌を一にしている。
磐田市の公園に即していえば、一つの公園が子どもにも高齢者にも同時に開かれた場所であることは珍しくない。街区公園の多くはブランコや滑り台といった子ども向けの遊具とともにベンチやトイレを備えており、世代を分けずに利用される場所として設計されている。エイジフレンドリーシティと子どもにやさしいまちづくりという二つの枠組みを重ねて公園を検討することは、こうした多世代利用の実態を政策の言葉で捉え直す作業だといえる。
9. バリアフリー法制・ユニバーサルデザインとの関係——法と自発的枠組みの違い
前節で触れたとおり、日本には高齢者・障害者等の移動のしやすさを確保するための法律として、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号、通称バリアフリー新法)がある。この法律は、それ以前に別個に存在していた建築物に関する法律と公共交通機関に関する法律を統合する形で2006年に制定されたものであり、一定規模以上の施設や旅客施設に対して、出入口の幅や段差の解消などの整備基準を課している。
9.1 法律と自発的枠組みの違い
WHOのエイジフレンドリーシティが自主的な参加とゆるやかな改善の手続きを特徴とするのに対し、バリアフリー法制は行政が基準を定め、対象となる施設に整備を義務づける法的な仕組みである。この違いは優劣の問題ではなく、それぞれが果たす役割の違いとして理解すべきである。法律は最低限守るべき基準を明確にし、違反への対応を可能にする一方、対象となる施設の種類や規模には限りがある。これに対しエイジフレンドリーシティは、法律が直接には対象としない細部、たとえばベンチの配置間隔や聞き取りに基づく優先順位づけなどにまで視野を広げることができる。
都市公園については、都市公園法とその施行令が、公園施設の設置基準や管理の枠組みを定めている。バリアフリー法制の対象施設に公園が含まれる場合、園路の勾配やトイレの整備について一定の基準が適用されることになるが、既存の公園すべてに一律に新しい基準が遡って適用されるわけではない。したがって、法律とエイジフレンドリーシティという二つの枠組みは、新設される施設と既存の施設、義務的な最低基準と自発的な改善という、補い合う関係にあると位置づけることができる。
9.2 ユニバーサルデザインという設計思想
もう一つ関連する概念として、ユニバーサルデザインがある。これは1980年代から1990年代にかけて、米国ノースカロライナ州立大学の建築家ロナルド・メイスらが提唱した設計思想であり、年齢や障害の有無にかかわらず、できるだけ多くの人が使える形で製品や環境を設計しようとする考え方である。メイスらの研究グループは1997年に「ユニバーサルデザインの7原則」を公表したとされ、その原則には、公平に使えること、柔軟に使えること、使い方が簡単であることなどが含まれる。
ユニバーサルデザインとエイジフレンドリーシティは、しばしば混同されるが、位置づけが異なる。ユニバーサルデザインは個々の製品や施設の設計手法であるのに対し、エイジフレンドリーシティは都市全体を対象とする政策の枠組みである。公園に即していえば、ユニバーサルデザインは特定の遊具やベンチ、トイレをどう設計するかという水準の議論であり、エイジフレンドリーシティは、その公園がどこにあり、どの世代にどう使われ、都市全体の中でどう位置づけられるかという、より広い水準の議論だといえる。両者は矛盾するものではなく、公園を高齢者にとって使いやすいものにするうえで、互いに補い合う関係にある。
バリアフリー法制、ユニバーサルデザイン、エイジフレンドリーシティという三つの枠組みを重ねてみると、対象とする単位の違いが浮かび上がる。バリアフリー法制は個別の施設や経路を単位とし、ユニバーサルデザインは個別の製品や設備を単位とし、エイジフレンドリーシティは都市全体を単位とする。公園という場所は、この三つの単位がすべて重なる場所である。個々のベンチや遊具の設計はユニバーサルデザインの問題であり、園路や出入口の整備基準はバリアフリー法制の問題であり、その公園が都市全体の中でどこに配置され、どう使われるかはエイジフレンドリーシティの問題である。
この三層構造を踏まえると、ある公園が高齢者にとって使いやすいかどうかを判断するには、単一の基準だけを参照するのでは不十分であり、法的な最低基準を満たしているか、個々の設備がユニバーサルデザインの考え方に沿っているか、そして都市全体の中でその公園がどのような役割を果たしているか、という複数の水準を重ねて検討する必要がある。
10. 反論と限界——チェックリストの機械的適用・参加の実質・小規模自治体の実施可能性
ここまでWHOのエイジフレンドリーシティという枠組みの成り立ちと構造を検討してきたが、この枠組みには限界も指摘されうる。第一の限界は、チェックリストが機械的に適用される危険である。チェックリストはもともと、高齢者への聞き取りを通じて地域ごとの実情を反映させる手続きの出発点として設計されたものであるが、実務上は、項目の有無だけを形式的に確認する点検表として使われてしまう可能性がある。公園にベンチがあるか、トイレがあるかを数えるだけでは、ベンチの座り心地や、トイレまでの経路の安全性といった、実際の使いやすさを見落とすことになりかねない。
10.1 参加の実質という問題
第二の限界は、グローバル・ネットワークへの参加が、実質的な取り組みを保証するものではないという点である。第6節で述べたとおり、ネットワークへの参加は認証試験のような性質のものではなく、都市が改善の手続きに取り組むことを約束する仕組みである。この緩やかさは参加のハードルを下げる利点である一方、参加している都市の間でも、実際にどれだけの予算と人員を割いて取り組んでいるかには大きな幅がありうると考えられる。ネットワークに参加していること自体を、その都市の公園がすべて高齢者にやさしいことの証明として扱うのは早計である。
第三の限界は、小規模な自治体における実施可能性である。エイジフレンドリーシティの手法は、高齢者への聞き取り調査や、複数の部局にまたがる横断的な計画づくりを前提としており、これには一定の人員と予算が必要になる。人口規模が小さく、担当部署の人員が限られる自治体にとって、こうした手続きを独自に組み立てることは容易ではないと考えられる。この点で、都市の規模を問わずに参加できるという制度上の柔軟さと、実際に取り組みを実質化できるかどうかという実施能力の問題は、別の次元にあることに注意が必要である。
これらの限界に対する応答として、次のように整理することができる。チェックリストの機械的適用という問題については、点検項目の数を数えるだけでなく、可能な範囲で利用者への簡単な聞き取りを組み合わせることで、形式化を避ける余地がある。参加の実質という問題については、ネットワークへの参加の有無ではなく、個々の公園や地域で実際に何が行われたかを見る必要がある。小規模自治体の実施可能性という問題については、都市単独で取り組むのではなく、近隣自治体や、後述する磐田市域内の既存のデータ整備の取り組みなど、手元にある資源を組み合わせて段階的に進める道が考えられる。
以上の反論と限界を踏まえると、エイジフレンドリーシティという枠組みは、それ自体が万能な解決策ではなく、都市が高齢者の視点から自らを点検し続けるための、一つの手がかりとして理解するのが妥当である。次節では、この手がかりを磐田市の公園100園のデータに照らして具体的に検討する。
参加の実質という論点は、行政学における参加概念一般に共通する問題でもある。制度への参加が形式的な手続き、たとえば申請書の提出や計画の策定にとどまる場合と、実際の予算配分や事業実施にまで反映される場合とでは、同じ参加という言葉が指す実態が大きく異なる。エイジフレンドリーシティのグローバル・ネットワークについても、この形式的参加と実質的参加の区別を踏まえたうえで評価する必要がある。
小規模自治体の実施可能性という論点についても、他の政策分野との類推が参考になる。防災や環境などの分野では、単独の自治体では対応が難しい課題について、都道府県や広域の枠組みが技術的な支援を担う例がある。エイジフレンドリーシティについても、個々の基礎自治体が単独で高齢者への聞き取り調査の手法を一から構築するのではなく、既存の広域的な仕組みや、他の政策分野で蓄積された手法を応用する余地があると考えられる。
11. 磐田市の公園への示唆
ここまで検討してきたWHOのエイジフレンドリーシティという枠組みを、磐田市の公園に照らして具体的に考えてみたい。ただし、当サイトが基づく磐田市オープンデータ「都市公園一覧」および市施設ガイドの情報は、いずれも公表資料に基づくものであり、当サイト自身による現地の踏査はまだ始まっていない。したがって、ベンチの座り心地や園路の実際の段差、木陰の広さといった、現地でしか確認できない事項については、今後の踏査で確かめるべき課題として明示したうえで論じる。
磐田市には都市公園法上の種別で見て、街区公園51園、近隣公園14園、都市緑地10園、地区公園4園、総合公園3園、運動公園3園、風致公園3園などが分布しており、これに法対象外の6園を加えて合計100園が当サイトに収録されている。街区公園の国の標準的な誘致距離は250メートルとされ、この規模の公園が市内に51園あるということは、多くの住民にとって徒歩圏内に少なくとも一つの公園があることを意味する。この密度は、屋外空間という領域を歩いて利用できる範囲に位置づけるうえで、一定の基礎条件になっていると考えられる。
エイジフレンドリーシティのチェックリストが重視するトイレの整備について、磐田市のオープンデータ集計を見ると、トイレを有する公園は69園、そのうち車いす対応トイレを有する公園は34園である。これは、公園の半数を上回る数で何らかのトイレが整備されている一方、車いす対応トイレに絞ると、その数はおよそ三分の一にとどまることを示している。第7節で述べたとおり、トイレの様式は外出できるかどうかを左右しうる条件であり、この数字は今後の整備の優先順位を考えるうえでの一つの手がかりになりうる。
個別の公園を見ると、御厨地区の安久路公園(地区公園、面積32,001平方メートル)は、市施設ガイドの記載によれば複合遊具にインクルーシブエリアを備え、車いす対応トイレを含むトイレも整備されているとされる。中泉地区の中央公園(地区公園、面積41,642平方メートル)や御厨地区の二子塚公園(近隣公園、面積10,000平方メートル)も、車いす対応トイレを備えるとガイドに記載されている。これらは、規模の大きい公園に相対的に設備が整っている傾向を示す例といえるが、面積の小さい街区公園や都市緑地についても、屋外空間としての役割が失われるわけではなく、むしろ徒歩圏の密度を支える存在として位置づけて考える必要がある。
磐田市は9つの地区に分かれ、地区ごとの公園数には見付21園、豊田28園から南部2園、向陽2園まで幅がある。エイジフレンドリーシティの視点からいえば、公園の数だけでなく、それぞれの地区でトイレや座る場所がどう分布しているかを把握することが、次の段階の課題になる。当サイトはオープンデータと市施設ガイドの記載に基づく整理をここまで行ったが、ベンチの実際の配置間隔や園路の段差、木陰の量といった、チェックリストが本来重視する細部については、今後の現地踏査によって確かめていく必要がある。この点で、本節の示唆はあくまで公表資料からの見通しにとどまることを明記しておく。
面積の小さい都市緑地についても触れておきたい。磐田市には、面積が数十平方メートルから数百平方メートル程度の小規模な都市緑地が複数含まれており、中泉地区の二之宮東第2緑地は17平方メートル、豊田地区の豊田上新屋ポケットパークは156平方メートルである。こうした小規模な緑地は遊具やトイレを備えていないことが多く、公園としての機能は限定的であるが、住宅地の中に点在することで、歩行の途中に立ち寄れる小さな休み場所としての潜在的な役割を持ちうる。ただし、ベンチの有無など、この役割を実際に果たしているかどうかは当サイトのデータからは判断できず、今後の踏査による確認を要する。
駐車場についても触れておく。磐田市施設ガイドの記載または当サイトの判定により駐車場があるとされる公園は33園である。車を運転して公園に向かう高齢者にとって、駐車場の有無は徒歩圏の外から公園を訪れる際の条件となる。ただし、駐車場からトイレやベンチまでの経路に段差があるかどうかや、身体障害者用駐車区画の有無といった細部は、オープンデータや施設ガイドの記載だけでは判断できず、この点も今後の現地踏査で確かめるべき課題として残しておきたい。
12. 結論と今後の課題
本稿は、WHOが2002年の「アクティブ・エイジング:政策の枠組み」から2007年の「高齢者にやさしい都市の手引き」、2010年のグローバル・ネットワーク、そして2021年からの「健康な高齢化のための行動の10年」へと積み重ねてきた政策の展開を整理し、八つの領域のうち屋外空間と建物が筆頭に置かれる意味を検討してきた。屋外空間は、住宅の外に出て交通・社会参加・市民参加へと向かう一連の行動の入口に位置し、日常的に最も頻繁に接する環境であるがゆえに、他の領域への波及効果が大きいと考えられる。
あわせて、この枠組みの手法上の特徴として、専門家が先に基準を定めるのではなく、高齢者自身への聞き取りを通じてチェックリストが作られたとされる参加型の手続きを確認した。この手続きの結果、ベンチの配置や座り心地、トイレの様式、木陰の有無、段差の少なさといった、専門的な遊具の性能とは異なる次元の項目が、公園という場所に対して問われることになる。あわせて、子どもにやさしいまちづくりや日本国内のバリアフリー法制、ユニバーサルデザインという隣接する枠組みと比較することで、WHOの枠組みが法的な強制力を伴わない自主的な協力の仕組みであり、法律や設計手法とは異なる水準で機能していることを確認した。
一方で、チェックリストの機械的適用や、ネットワーク参加の実質、小規模自治体における実施可能性といった限界も指摘した。これらの限界は、エイジフレンドリーシティという枠組みそのものを否定するものではなく、この枠組みを都市が自らを点検し続けるための一つの手がかりとして、慎重に運用する必要があることを示している。
磐田市の公園に即して見ると、街区公園を中心とした徒歩圏の密度や、トイレ・車いす対応トイレの整備状況など、オープンデータと市施設ガイドの記載から確認できる範囲では、屋外空間という領域の基礎的な条件の一端がうかがえる。しかし、ベンチの配置間隔や座り心地、園路の実際の段差、木陰の量といった、チェックリストが本来重視する細部の多くは、公表資料だけでは確認できない。当サイトの現地踏査はまだ始まったばかりであり、これらの課題は今後の踏査を通じて一つずつ確かめていく必要がある。
- 磐田市内の公園について、ベンチの配置・トイレの様式・日陰・段差を現地踏査によって具体的に確認すること
- 参加型の手法を参考に、実際に公園を利用する高齢者への聞き取りの機会をどう設けうるかを検討すること
- 子どもにやさしいまちづくりの視点との調整、子どもと高齢者それぞれの需要をどう両立させるかを検討すること
以上の三点を今後の課題として挙げることができる。第一に、屋外空間と建物の領域に関わる項目を現地踏査によって具体的に確認すること。第二に、エイジフレンドリーシティの参加型の手法を参考に、公園を利用する高齢者への聞き取りの機会をどう設けうるかを検討すること。第三に、子どもにやさしいまちづくりとの調整、すなわち子どもと高齢者それぞれの需要をどう両立させるかという、行政学的・都市計画学的な課題を引き続き検討することである。本稿はこれらの課題を今後の踏査と考察に委ね、ひとまずの整理として締めくくる。
最後に、本稿自体の限界についても述べておく必要がある。本稿は文献整理と概念分析を方法としており、磐田市内の高齢者を対象とした独自の聞き取り調査や、公園の利用実態に関する統計的な調査を行ったものではない。したがって、本稿が示した論点は、あくまで国際的な政策文書と概念の整理から導かれた見通しであり、磐田市の実情を確定的に記述するものではない。この限界を踏まえたうえで、本稿を今後の踏査や調査研究の出発点として位置づけたい。
参考文献
- 世界保健機関(WHO)(2002)「Active Ageing: A Policy Framework」
- 世界保健機関(WHO)(2007)「Global Age-friendly Cities: A Guide」
- 世界保健機関(WHO)(2007)「Checklist of Essential Features of Age-friendly Cities」
- 世界保健機関(WHO)「WHO Global Network for Age-friendly Cities and Communities」(2010年発足)
- 世界保健機関(WHO)・国連(2020)「Decade of Healthy Ageing 2021-2030」
- 国連総会決議46/91(1991)「高齢者のための国連原則」
- 国連児童基金(ユニセフ)「Child Friendly Cities Initiative」(1996年〜)
- ロナルド・メイスほか(1997)「The Principles of Universal Design」(The Center for Universal Design, North Carolina State University)
- ジェイン・ジェイコブズ(1961)『The Death and Life of Great American Cities』(山形浩生訳『アメリカ大都市の死と生』鹿島出版会、2010)
- 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号、通称バリアフリー新法)
- 都市公園法(昭和31年法律第79号)・都市公園法施行令(国土交通省 都市公園のページ)
- 国土交通省「都市公園における遊具の安全確保に関する指針(改訂第3版)」(令和6年6月)
- 磐田市オープンデータ「都市公園一覧」(CC BY 3.0・出典:磐田市)
- 磐田市 施設ガイド(公園)
本稿は ATAWI PARK 編集部による総説的な論考であり、学会誌等の査読を経た学術論文ではありません。引用は広く知られた著作・公的資料に限り、磐田市固有の事実は当サイトのデータベースと磐田市の公開情報にもとづきます。個々の公園の設備・状態は現地でご確認ください。医療・安全に関する判断は医療機関・関係機関の指示を優先してください。