自然科学・環境光害研究
明るすぎる夜——光害が生きものと人に及ぼすもの
要旨
本稿の目的は、光害(light pollution)という現象を、天体観望の障害という観点からではなく、防犯・生態系・エネルギーという星空以外の側面から整理し、都市公園における夜間照明のあり方を検討することである。当サイトの別稿「公園から空を見る」が天文学の立場から光害と星空の関係を論じたのに対し、本稿はスカイグロー・グレア・光害漏れといった基礎概念を踏まえたうえで、昆虫・鳥・植物といった生きものへの影響、人を含む生物の概日リズムをめぐる議論、防犯照明という社会的要請と生態系への配慮とのせめぎ合い、配光制御という技術的対応を主な論点とする。
方法は文献整理と概念分析である。光害研究はもともと天文学から出発した分野であるが、生態学・生気象学・犯罪学・照明工学へと学際的に広がってきた。本稿では、環境省の光害対策ガイドラインや世界の夜空の明るさを地図化した研究、街灯と犯罪の関係を検証した犯罪学の実証研究、昆虫や渡り鳥への影響を扱った生態学の研究など、存在の確認できる知見のみを足場とする。
検討を通じて示されるのは、光害を「光の量」の問題としてではなく「光の質と配分」の問題として捉え直す視点である。配光制御・上方光束比の低減・色温度の調整・時間帯や人感による調光は、防犯上必要な明るさを保ちながら光害漏れを抑える方向性を示す。最後に、磐田市の都市公園100園を種別・面積・地区の面から見渡し、身近な街区公園と大規模な公園とで照明への要請が異なりうることを述べるが、実際の照明の設置状況は施設ガイドからは分からず、当サイトの現地踏査で確かめるべき課題であることを明記する。医学的な健康影響や個々の防犯上の判断については、関係機関の情報に委ねる。
キーワード光害概日リズム生態系への影響防犯照明配光制御上方光束比磐田市
1. はじめに——問題の所在
磐田市の都市公園データベースであるATAWI PARKは、100園の公園情報を収録しているが、現地踏査はまだ始まったばかりであり、夜間の明るさや照明の実態についても確かめられていない。それでもなお、公園の照明という主題を先取りして検討する意義はある。街区公園や近隣公園に置かれた防犯灯や園路灯は、夜間の利用者に安心を与える一方で、周囲の生きものや夜間そのものの環境に何らかの影響を及ぼしうるという知見が、光害研究と呼ばれる分野で蓄積されてきたからである。
光害(light pollution)という語は、しばしば天体観望の障害という文脈で語られる。夜空が人工の光で明るくなり、星が見えにくくなるという現象——スカイグローと呼ばれる——は確かに光害の一側面である。しかし光害研究が扱う範囲はそれにとどまらない。本稿は、当サイトの別稿「公園から空を見る」が天文学の観点から星空と光害を論じたのに対し、星空以外の側面、すなわち防犯・生態系・エネルギーという三つの切り口から光害を検討することを目的とする。
検討の中心となる問いは次のとおりである。第一に、夜間の人工照明は虫・鳥・植物といった生きものにどのような影響を及ぼしうると考えられているか。第二に、人を含む生物の概日リズムと夜間の光曝露をめぐってどのような議論があるか。第三に、防犯上の照明の必要性と、光害を抑える配光制御という技術的対応は、どのように両立しうるか。第四に、これらの論点は磐田市の公園にどう関わるか、である。
方法は文献整理と概念分析である。光害研究はもともと天文学から出発した分野であるが、生態学・生気象学・犯罪学・照明工学といった複数の学問領域にまたがって発展してきた。本稿では、それぞれの領域で参照される基礎的な知見を紹介し、公園という具体的な場に当てはめて考える。個別の統計値や地域の事例のうち、実在の確認できないものは扱わず、確認できる法令・指針・研究のみを足場とする。
構成は次のとおりである。第2節で光害研究の基礎概念を整理し、第3節で概日リズムという生理学的な視点を、第4節と第5節で昆虫・鳥・植物という生態系への影響を検討する。第6節では防犯照明という社会的な要請を犯罪学の知見とともに扱い、第7節で配光制御という技術的対応を、第8節で防犯と生態配慮の両立可能性を論じる。第9節では磐田市の公園に照らして具体的に考え、第10節で結論と今後の課題を述べる。
なお、光害という語をめぐっては、光そのものが有害だという含意を与えかねない点に注意が必要である。防犯灯や街灯は、歩行者の安全や犯罪の抑止という点で一定の役割を担ってきたと考えられており、光を単純に減らせばよいという主張ではない。本稿が光害研究という語を用いる際は、光の量そのものではなく、光の向き・強さ・色温度・点灯時間帯といった質と配分の問題として捉える立場をとる。
光害という主題を公園学術論文シリーズに位置づける意義は、二つある。一つは、夜間の公園利用という、これまでの読みものコンテンツではあまり深く扱われてこなかった時間帯に光を当てることである。もう一つは、防犯・生態系・エネルギーという複数の学問領域にまたがる論点を、夜間の人工照明という一つの現象を通じて横断的に整理できることである。
当サイトの運営主体である富士ヶ丘サービス株式会社は、磐田市内で不動産事業や介護事業を営んでおり、ATAWI PARKはその中で運営される公園情報のデータベースである。本稿は学術的な整理を目的とするものであり、特定の地域や施設を薦める性格のものではない。この点は、当サイトの他の公園学術論文と同様である。
本稿を読み進めるにあたっては、光害という語が持つ多義性を念頭に置いていただきたい。ある論者が光害と呼ぶ現象を、別の論者は必要な照明の副次的な影響として扱うこともある。本稿は特定の立場に肩入れするのではなく、複数の学問領域で確認できる知見を並べたうえで、公園という場にどう当てはめて考えられるかを検討する立場をとる。
また、光害研究という分野は、なお発展の途上にあり、研究者や機関によって用語の使い方や重視する論点が異なることもある。本稿では、できる限り広く知られた知見に基づいて論じるが、個別の技術基準や数値については、環境省や国土交通省など、公的な指針に明記のあるものに限定する。それ以外の論点は「〜とされる」「〜という研究群がある」という留保を付けたうえで紹介する。
本稿の射程についても、あらかじめ断っておきたい点がある。光害という現象は、屋外広告や商業施設のネオン、住宅の外灯なども含めた地域全体の照明環境のなかで生じるものであり、公園の照明だけを取り出して光害の全体像を語ることはできない。本稿はあくまで、公園という当サイトが扱う対象に即して、光害研究の知見をどう応用しうるかを検討するものであり、地域全体の照明政策を包括的に論じるものではない。
光害という現象を理解するうえでは、「誰にとっての光害か」という視点も欠かせない。天体観望者にとっての光害はスカイグローであり、近隣住民にとっての光害は住宅の窓に差し込む光害漏れであり、生態系の研究に携わる者にとっての光害は生きものの行動や生理への影響である。同じ「光害」という語のもとで、立場によって異なる論点が扱われていることを踏まえたうえで、本稿は防犯・生態系・エネルギーという立場からの検討に絞る。
2. 先行研究と概念の整理
光害研究の基礎となる語をまず整理する。環境省は1998年に「光害対策ガイドライン」を策定し、2021年に改訂している。このガイドラインは、光害を「良好な照明環境の形成が阻害されている状態」と位置づけ、屋外照明が引き起こす様々な問題を扱う枠組みを示しているとされる。光害という語は英語のlight pollutionの訳であり、大気汚染や水質汚濁になぞらえて、光が過剰あるいは不適切に使われることで生じる環境上の問題を指す。
2.1 光害という現象の輪郭
光害研究では、現象をいくつかの型に分けて論じることが多い。夜空全体が人工光の散乱によって明るくなる現象はスカイグローと呼ばれ、天体観望のしやすさに直接関わる。光源を直接見たときのまぶしさはグレアと呼ばれ、歩行者の見えやすさや不快感に関わる。照明が本来照らすべき範囲を超えて周囲に漏れ出す光は光害漏れ(スピルライト、obtrusive lightとも呼ばれる)と呼ばれ、近隣の住宅や植栽、生きものへの意図しない影響につながりうる。これらは互いに独立した現象ではなく、一つの照明器具の設計や運用の仕方によって同時に生じたり抑えられたりする。
こうした現象を測る指標の一つに、上方光束比(ULOR:Upward Light Output Ratio)がある。これは照明器具から水平面より上向きに放たれる光の割合を示す数値で、値が小さいほど、必要のない方向、すなわち夜空や周囲へ漏れる光が少ない設計であることを意味するとされる。環境省のガイドラインは、こうした指標を踏まえた配光制御の考え方を示しているとされる。
2.2 光害研究の学際的な広がり
光害研究には、夜空の明るさを世界規模で地図化しようとした系譜がある。イタリアの研究者P. Cinzanoらのグループは2001年に世界初の人工夜空輝度地図を発表し、その後F. Falchiらのグループが2016年に改訂版として新しい世界地図を科学誌Science Advancesに発表したとされる。これらの研究は、都市化の進んだ地域ほど夜空が明るく、天体観望が難しくなっていることを可視化した点で知られるが、同時に、人工光が地表からどれだけ広く分布しているかを示す基礎資料としても、生態学的な研究の土台になってきたと考えられる。
国土交通省が所管する都市公園法は、公園の種別ごとの面積や誘致距離の目安を定めているが、照明設備そのものについての詳細な基準は、光害対策ガイドラインや、照明工学の分野で別途定められる規格に委ねられていると考えられる。都市公園を対象に光害を論じる際には、公園制度そのものを扱う法令と、照明技術を扱う指針とを、あわせて参照する必要がある。
光害研究はもともと天文学の分野で、観測環境の悪化への対応として発展してきた経緯があるとされるが、現在ではその範囲は大きく広がっている。生態学では夜行性の生きものへの影響が、生気象学・生理学では概日リズムをめぐる議論が、犯罪学では防犯照明の効果検証が、照明工学では配光制御やエネルギー効率の技術開発が、それぞれ独立した文脈で光害と関わる知見を蓄積してきた。国際的には、暗い夜空を保全しようとする民間の運動体も知られており、地域を星空保護区のような形で位置づける試みが行われているとされるが、その詳細や日本国内での適用状況について、本稿で具体的な数値を述べることは控える。
| 類型 | 定義 | 主に関わる論点 |
|---|---|---|
| スカイグロー | 人工光が大気中の微粒子や分子に散乱し、夜空全体が明るくなる現象 | 天体観望のしやすさ、夜間の全般的な明るさ |
| グレア | 光源を直接見たときのまぶしさ | 歩行者の見えやすさ、不快感 |
| 光害漏れ(スピルライト) | 照明が本来照らすべき範囲を超えて周囲に漏れる光 | 近隣の住宅や植栽、生きものへの意図しない影響 |
| 上方光束比(ULOR) | 照明器具から水平より上向きに放たれる光の割合を示す指標 | 配光制御の評価基準の一つ |
光害という語には、しばしば「公害」という語との類似性が指摘される。大気汚染や水質汚濁が、本来は有用な燃焼や排水といった営みが過剰・不適切になることで生じる問題であるのと同様に、光害もまた、本来は有用な照明という営みが過剰・不適切になることで生じる問題として位置づけられる。この類似性は、光害を「光そのものの排除」ではなく「光の適正な配分」の問題として捉える見方の背景にあると考えられる。
本稿がこれらの類型のうち特に取り上げるのは、光害漏れと、それが引き起こす生態系への影響、そして上方光束比という指標に象徴される配光制御の考え方である。次節以降では、まず光と生物の時間感覚という視点から、概日リズムをめぐる議論を整理する。
日本国内でも、光害を早くから条例という形で扱った自治体があるとされる。天体観測に適した環境を保つことを目的に、屋外照明の基準を定める条例を制定した例が知られており、こうした先行的な取り組みは、光害対策ガイドラインが全国的に整備される以前から、地域ごとの実践が積み重ねられてきたことを示している。本稿はこうした個別の条例の詳細に立ち入らないが、光害への対応が国の指針だけでなく、地域レベルの取り組みとしても行われてきたことを確認しておきたい。
3. 光と生きものの時間——概日リズムという視点
多くの生物は、地球の自転によって生じる明暗の周期におおむね一日単位で同調する仕組みを持つとされ、これは概日リズム(サーカディアンリズム)と呼ばれる。体内時計とも呼ばれるこの仕組みは、睡眠と覚醒の切り替え、体温やホルモン分泌の変動など、様々な生理機能の時間的な配分に関わっているとされる。概日リズムは光を主要な手がかりの一つとして日々調整されると考えられており、光と生物の時間感覚とは切り離しがたい関係にある。
人の場合、夜間の光曝露と概日リズムをめぐっては、メラトニンと呼ばれる物質の分泌が光によって抑制されるという知見が生理学の分野で広く知られている。夜に強い光を浴びると、体内時計が本来の周期からずれやすくなるという議論がある一方、どの程度の明るさ・波長・曝露時間であれば影響が生じるのかについては、研究によって前提が異なり、一律に断定できるものではないとされる。
こうした議論を背景に、街路灯の照明のあり方について注意を促す動きも見られる。米国医師会は2016年、高輝度で青色光成分の多い街路灯の導入に関して、健康面への配慮を求める文書を採択したとされる。ただし、こうした文書は特定の照明技術に対する懸念を示すものであり、街路灯や公園の照明そのものを否定するものではない。
概日リズムに関する議論は人に限られたものではない。次節以降で扱う昆虫や鳥、植物についても、明暗の周期に応じて活動や成長のタイミングを調整する仕組みが備わっているとされ、夜間の人工光はそうした周期の手がかりを乱しうる要因の一つとして、生態学の側からも関心を持たれてきた。人の概日リズムをめぐる議論は、いわば生きもの全般に共通する論点の入り口として位置づけられる。
註:概日リズムと健康影響をめぐる医学的な当否については、本稿の扱える範囲を超える。個々の健康上の懸念や判断は、医療機関など関係機関の情報に委ねるべきである。
概日リズムに関わる研究の蓄積は、主に医学・生理学の分野で進んできたとされる。夜間に働く人々の健康を扱う産業保健の分野でも、交代勤務と概日リズムの乱れとの関連が論じられてきたとされ、光を浴びる時間帯が体内時計に及ぼす影響という論点は、公園の照明に限らず、都市生活全般に関わる広がりを持つ。
植物における日長への応答は光周性(photoperiodism)と呼ばれ、動物の概日リズムとは異なる仕組みで説明されるが、いずれも光と暗闇の周期を手がかりにするという点で共通している。次節以降で扱う昆虫や鳥、植物への影響を理解するうえでも、この「光と暗闇の周期を手がかりにする生きもの」という視点は、共通の土台になる。
季節による日照時間の変化も、概日リズムという視点から見れば見過ごせない要因である。日没の時刻は季節によって大きく変わり、夏には遅く、冬には早い。公園の利用時間帯と日照時間との関係は季節ごとに変化するため、照明が実際に必要とされる時間帯そのものも、一年を通じて一定ではないと考えられる。
公園という場に即して考えると、夕方から夜にかけての時間帯は、子どもを連れた家族が帰路につく時間帯であると同時に、犬の散歩や部活動帰りの学生など、多様な利用者が行き交う時間帯でもある。この時間帯の照明のあり方は、防犯上の安心だけでなく、生きものの時間感覚という観点からも意味を持ちうる、という点が本稿の出発点である。
以上を踏まえると、公園の照明という論点は、概日リズムの視点からは二つの側面を持つ。一つは、夜間でも安全に活動できる時間帯を延ばすという便益であり、もう一つは、生きものの時間感覚の手がかりを乱しうるという留保である。この二つの側面は、後の節で扱う防犯と生態配慮という論点にも重なっていく。
概日リズムをめぐる研究は、特定の疾患との関連を主張するような性格のものではなく、光と暗闇の周期という、生きものにとって基本的な環境条件をどう扱うかという、より広い問いにつながるものとして紹介した。本稿はこの論点を、次節以降で扱う昆虫・鳥・植物への影響と並ぶ、光害研究の一つの柱として位置づける。
4. 光に誘われる昆虫——走光性と捕食関係のゆがみ
多くの夜行性の昆虫は、光源に引き寄せられる性質を持つとされ、これは走光性(phototaxis)と呼ばれる。街灯の下に蛾やコガネムシなどが集まる様子は、日常的にもよく見られる現象である。走光性がなぜ生じるのかについては、月明かりを基準に方向を定める仕組みが人工光によって乱されるためだとする説など、いくつかの仮説が提示されてきたとされるが、単一の原因で説明し切れるものではないと考えられている。
4.1 光の波長と誘引の強さ
生態学の研究では、光の波長組成によって昆虫を引き寄せる程度が異なることが示されてきた。F. van Langeveldeらの研究(2011年)は、人工光の分光組成、すなわちどの波長の光をどれだけ含むかによって、蛾の誘引される度合いが変わることを報告したとされる。この知見は、単に照明を明るくするか暗くするかだけでなく、どのような色の光を使うかという選択が、昆虫への影響を左右しうることを示している。
光に集まった昆虫は、コウモリやクモ、鳥といった捕食者にとって捕らえやすい状態に置かれやすいという指摘がある。K. J. Gastonらの研究(2013年)は、夜間の人工光が生態系に及ぼす影響を包括的に検討し、光源の周辺で捕食関係が本来の姿からゆがめられうるという議論を整理しているとされる。光に引き寄せられた昆虫が特定の場所に集中することは、捕食者にとっての「集まりやすい狩り場」を人工的につくり出している可能性があるという見方である。
都市化が進んだ地域ほど、街灯やビルの照明、屋外広告といった人工光源の密度が高くなり、昆虫が接する光の総量も増えると考えられる。街区公園や近隣公園のように住宅地に囲まれた公園は、こうした都市全体の明るさの中に置かれているため、公園単体の照明を見直すだけでは、昆虫への影響を大きく変えられない場合もあると考えられる。それでも、個々の照明の向きや強さを見直すことには、限定的であっても一定の意味があると考えられる。
夜行性の昆虫の中には、花粉を運ぶ送粉者としての役割を担うものも含まれるとされる。光害によってこうした昆虫の行動が乱されると、植物の受粉にも間接的な影響が及びうるという議論が生態学の中で行われてきたとされる。ただし、これは主に自然環境や農地を対象にした研究の文脈で語られることが多く、都市公園という限られた空間でどの程度当てはまるかについては、慎重に扱う必要がある。
昆虫が光に集まる現象は、公園の照明に限らず、住宅の外灯や自動販売機、コンビニエンスストアの看板など、都市の様々な人工光源の周辺でも見られるとされる。公園の照明だけを取り出して論じることには限界があり、周辺の市街地全体の明るさとの関係のなかで捉える必要がある。
捕食関係のゆがみという論点は、光に集まる昆虫を狙うコウモリやクモだけでなく、地表を歩く昆虫を捕食する動物にも及びうるとされる。光源の周辺に生きものの活動が集中することで、通常であれば分散していたはずの捕食・被食の関係が、特定の場所に偏るという見方である。この偏りが長期的に生態系全体にどう影響するかについては、なお研究が積み重ねられている途上にあるとされる。
公園の設計や管理においては、光源の位置と植栽・水辺との距離を意識すること、そして必要以上に強い光を使わないことが、昆虫への配慮につながりうる。ただし、これは砂場や遊具の安全な利用に必要な照明を否定するものではなく、優先順位を踏まえた工夫の余地があるという指摘にとどまる。
- 走光性——夜行性昆虫が光源に引き寄せられる性質
- 捕食関係のゆがみ——光の周辺に昆虫が集中し、捕食者に捕らえられやすくなるという指摘
- 波長組成の影響——光の色によって誘引の強さが異なるとされる
- 送粉への波及——夜行性の送粉者の行動が乱されると植物の受粉に影響しうるという議論
こうした知見を踏まえると、公園の照明が昆虫に及ぼす影響は、明るさの総量だけでなく、光源の位置——植栽や水辺に近いかどうか——や、光の色によっても変わりうると考えられる。ただし、屋外の昆虫の個体数は気候や植生など多くの要因で変動するとされ、光害だけを単一の原因として断定することはできない。公園の設計や管理においては、こうした複合的な要因の一つとして光を位置づける視点が求められる。
以上のように、昆虫への影響という論点は、走光性という個体レベルの現象から、捕食関係のゆがみという群集レベルの現象、さらには送粉を介した植物への波及という、複数の階層にまたがって論じられてきた。本稿はこれらを断定的な結論としてではなく、公園の照明を考えるうえで踏まえておくべき知見の一群として提示するにとどめる。
5. 夜空の明るさと渡り鳥・植物——生態系への広がり
渡り鳥の多くは夜間に飛翔するとされ、星の配置や地磁気、月の位置といった手がかりを頼りに方向を定めていると考えられている。夜間に強い人工光を用いた施設や建造物の周辺では、渡り鳥がその光に引き寄せられたり、飛行経路が乱されたりする事例が報告されてきたとされる。
5.1 高輝度照明と渡り鳥の飛行
B. M. Van Dorenらの研究(2017年)は、ニューヨークで期間限定で行われた高輝度の光の演出の際に、周辺を飛ぶ渡り鳥が通常よりも多く光の周辺に集まり、飛行の速度や方向が変化したことを報告したとされる。この研究は、限られた地域・期間に強い光を集中させることが、渡りの途中にある鳥の行動に影響を及ぼしうることを具体的に示した例として知られる。高層建築の照明に鳥が衝突する事例も、都市の人工光と渡りの関係を論じる文脈でしばしば取り上げられてきたとされる。
こうした知見は主に大都市の高層建築や大規模な光の演出を対象にしたものであり、街区公園や近隣公園の規模の照明が同様の影響を持つかどうかについては、本稿の扱える範囲を超える。ただし、公園が水辺や樹林を伴う場合には、渡りの経路や休息地としての役割を担う可能性も考えられ、照明の配置を検討する際の一つの視点になりうる。
5.2 植物の季節応答への影響
植物についても、日長(昼夜の長さ)の変化を手がかりに、落葉や開花といった季節ごとの応答を調整する仕組みが備わっているとされる。街灯の近くに植えられた樹木で、紅葉や落葉の時期が周囲の樹木とずれるという報告があるとされ、これは人工光が日長の手がかりを乱している可能性を示唆するものとして紹介されることがある。ただし、この種の観察は個別の事例報告にとどまることが多く、都市公園という条件でどの程度一般化できるかは、慎重に扱うべき論点である。
渡り鳥の飛来する時期は、種によって春や秋など様々であるとされ、渡りの時期に限って一時的に照明のあり方を見直すという発想も、理論的にはありうる対応として紹介できる。ただし、これは大規模な建造物や光の演出を対象にした議論の延長であり、街区公園程度の規模の照明にそのまま当てはめられるかどうかは、慎重に検討すべき論点である。
公園に植えられた樹木や生垣も、周辺の照明配置によって夜間に光を受け続ける状態に置かれることがありうる。特に、園路灯や防犯灯が植栽のすぐそばに設置されている場合には、そうした影響がより生じやすいと考えられるが、実際にどの程度の影響が生じるかは、樹種や照明の強さなど複数の条件に左右されるため、一概には言えない。
渡り鳥の飛行経路や休息地としての利用は、個々の公園だけでなく、周辺の河川や樹林とのつながりのなかで成り立つと考えられている。都市の中に点在する公園や緑地は、渡りの途中にある鳥にとって、休息や採餌の場になりうるという見方が、鳥類学や保全生態学の中で論じられてきたとされる。
植物の光周性についても、街路樹だけでなく、公園に植えられた落葉樹にも同様の仕組みが働いていると考えられる。開花や紅葉の時期は、気温だけでなく日長にも左右されるとされ、夜間の人工光がこの手がかりにどの程度影響するかは、樹種や照明の強さによって異なると考えられている。
本稿がこれらの知見を紹介する目的は、渡り鳥や植物への影響を断定することではなく、光害という論点が天体観望にとどまらず、公園に生息・生育する生きもの全般に広がりうることを示すことにある。実際にどの程度の影響が生じているかは、個々の公園の立地や照明の状況を踏まえた継続的な観察が必要であり、当サイトの踏査でも今後の課題として位置づけられる。
本節で紹介した渡り鳥・植物への影響は、いずれも都市全体や個々の建造物を対象にした研究の文脈で語られてきたものであり、街区公園という小さな単位での実証はまだ限られていると考えられる。それでも、これらの知見は、光害を天体観望だけの問題として捉えず、生態系全体への広がりを持つ論点として位置づける根拠になる。
渡り鳥と植物という、一見つながりの薄い二つの対象を同じ節で扱ったのは、いずれも「日長や天体の位置といった、光に関わる手がかりを用いて季節や方向を定める仕組みを持つ生きもの」という共通点があるためである。夜間の人工光は、こうした手がかりを部分的に覆い隠す可能性がある要因として、両者に共通して関わりうる。
6. 防犯照明という要請——明るさと安心をめぐる犯罪学の知見
公園の夜間照明が語られるとき、防犯という論点を避けて通ることはできない。暗い場所は見通しが悪く、利用者が不安を感じやすいとされ、防犯灯や園路灯は、そうした不安を和らげる役割を担ってきたと考えられている。光害という視点から照明のあり方を検討する本稿にとっても、防犯上の要請は軽視できない対抗軸である。
6.1 街灯と犯罪をめぐる実証研究
犯罪学の分野では、街灯の改善と犯罪発生率や体感治安の関係を検証した実証研究が積み重ねられてきた。K. Painterの研究(1996年)は、街灯の改善が犯罪や犯罪への不安の減少と関連することを示したとされる。その後、B. C. WelshとD. P. Farringtonによる系統的レビュー(2008年)は、複数の研究を横断的に検討し、街灯の改善が一定の防犯効果と関連する傾向を示す一方、効果の大きさは地域や条件によって異なることを指摘したとされる。
これらの研究に共通するのは、街灯の明るさを増やせば増やすほど防犯効果が高まるという単純な関係ではないという指摘である。過剰な照明はかえってグレアを生み、明暗の差が大きくなることでむしろ見えにくい部分をつくり出すことがあるとされる。明るさの総量だけでなく、光の配光や、明るい場所と暗い場所の差を小さくする均斉度が重要だとする議論がある。
6.2 別稿「犯罪学」との関係
当サイトの別稿「犯罪学」(criminology-cpted)は、見通しの良さや利用者の目が自然に行き届く環境設計という、より広い枠組みから公園の防犯を論じている。本稿はそれと重なりつつも、防犯灯という個別の照明技術に焦点を絞り、光害という別の要請との間にどのような緊張関係があるかを扱う点で異なる。両者は補い合う関係にあると言える。
防犯灯を一律に減らせば安全性が高まるわけでも、一律に増やせば安全性が高まるわけでもない、というのが犯罪学の実証研究から読み取れる立場である。むしろ、どこに、どの向きで、どの時間帯に光を配置するかという設計上の工夫が問われている。この考え方は、次節で扱う配光制御という技術的対応の意義にもつながっていく。
防犯照明をめぐる研究のもう一つの論点は、明るさの均一さである。明るい場所と暗い場所の差が大きいと、目が明順応・暗順応を繰り返すことになり、かえって暗い部分の様子が見えにくくなるとされる。連続的に、むらなく照らすことが、単に照度を上げることよりも重要だとする指摘がある。
防犯照明への要請は、公園の利用者層によっても濃淡があると考えられる。子どもを連れた家族は夕方までに帰路につくことが多い一方、成人や部活動帰りの学生、犬の散歩をする人などは、日没後も公園やその周辺を利用することがある。こうした利用者層の違いを踏まえると、防犯照明は特定の時間帯・特定の動線に絞って手厚くするという考え方にも一定の合理性があると考えられる。
また、防犯照明の効果は、照明そのものだけでなく、周囲の見通しや植栽の管理とも関係するとされる。生い茂った植栽が死角をつくる場合には、照明を強めるよりも、植栽の剪定によって見通しを確保するほうが有効な場合もあると考えられている。光害への配慮から照明を抑える際には、こうした他の要素との組み合わせを合わせて検討する必要がある。
以上の知見は、防犯灯の設置そのものを否定するものではなく、明るさの配分や周辺環境との組み合わせによって、防犯上の効果と光害への配慮を同時に高める余地があることを示すものである。次節では、こうした配分を実現するための技術的な手段を具体的に検討する。
なお、個々の公園における防犯上の必要性の当否や、特定の場所が安全かどうかの判断は、地域の実情や警察・行政の情報に基づいて行われるべきものであり、本稿がその判断に代わるものではない。本稿はあくまで、防犯照明という要請が光害という論点とどう関わるかという、一般的な枠組みを提示するにとどまる。
犯罪学における街灯研究の多くは欧米の都市を対象にしたものであり、地域社会の構造や街灯以外の防犯対策の有無など、条件が異なる点にも留意する必要がある。それでも、明るさの量だけに頼らない防犯照明の考え方そのものは、条件の違いを超えて参照しうる一般的な知見として紹介できる。
本節で紹介した犯罪学の知見は、いずれも街灯という都市の一般的な照明を対象にしたものであり、公園という限定された空間、とりわけ磐田市のような地方都市の公園にそのまま当てはまるかどうかは、別途検討が必要である。それでも、明るさの量だけでなく配光や均斉度が重要だという基本的な考え方は、公園の照明計画にも参照しうる知見として位置づけられる。
7. 光害対策の技術——配光制御と照明の進展
7.1 配光制御という技術的対応
光害を抑えつつ必要な明るさを確保する技術的な対応として、配光制御と呼ばれる考え方が挙げられる。これは、照明器具が光を照らす方向や範囲を設計によって制御し、必要な場所だけを照らして、不要な方向——特に水平より上向きや、隣接する敷地の方向——への光の漏れを抑えるというものである。環境省の光害対策ガイドラインは、上方光束比を抑えた器具の使用や、必要な範囲だけを照らす配光、点灯時間の見直しといった考え方を示しているとされる。
屋外照明の設計に関しては、日本産業規格JIS Z9110「照明基準総則」など、用途に応じた照度の目安を定める規格も存在するとされる。こうした規格は、道路や公園、駐車場といった場所ごとに、必要とされる明るさの目安を示すものであり、過不足のない照明計画を検討する際の参照点になると考えられる。
7.2 光源技術の進展と色温度
近年、屋外照明ではLED(発光ダイオード)への転換が進んでいるとされる。LED照明は、水銀灯やナトリウム灯など従来の光源と比べて、配光や色温度を制御しやすいという技術的な特徴を持つとされる。一方で、LED照明の中には青色光成分を多く含むものがあり、青色光は大気中で散乱しやすくスカイグローに寄与しやすいという指摘や、生きものへの影響がより大きい可能性があるという議論がある。こうした議論を踏まえ、暖色系の光——色温度の低い、赤みがかった光——を選ぶという工夫が提案されることがある。
点灯の制御という面では、人感センサーによる調光——人がいないときは照度を落とし、人が近づくと明るくなる仕組み——や、深夜の時間帯に照度を落とす運用も、エネルギー消費の抑制と光害の低減を同時に図る方法として挙げられる。これらは、常時同じ明るさで照らし続けるのではなく、必要な時間・場所に応じて光を配分するという発想に基づいている。
エネルギー消費という観点からも、配光制御や色温度の調整は意味を持つとされる。必要な範囲だけを照らし、不要な方向への光を減らすことは、同じ明るさを得るために必要な電力を抑えることにつながると考えられている。LED照明への転換自体も、従来の光源に比べて消費電力あたりの明るさが大きいとされ、エネルギー効率の向上に寄与してきたと考えられている。
配光制御の技術は、新設の照明器具だけでなく、既存の照明器具に後付けの遮光板(シールド)を取り付けるといった簡便な対応も含むとされる。すべての照明を一度に更新するのではなく、光害漏れの大きい器具から優先的に対応するという段階的な進め方も、現実的な選択肢として考えられる。
維持管理の観点では、LED照明は従来の光源に比べて寿命が長いとされ、交換の頻度を減らせる可能性がある。ただし、初期の導入費用や、既存の照明設備との互換性など、更新にあたって検討すべき要素は複数あり、一律にLED化を進めればよいという単純な話ではないと考えられる。
技術的な対応は、あくまで防犯上必要な明るさを確保したうえでの工夫であり、光害への配慮を理由に必要な明るさそのものを削ることを意味しない。配光制御や色温度の調整は、明るさの「量」を変えずに「質」を変える手段として位置づけられる点に注意が必要である。
| 対応 | 内容 | 主なねらい |
|---|---|---|
| 配光制御 | 光を必要な範囲だけに向ける器具設計 | 光害漏れ・グレアの抑制 |
| 上方光束比の低減 | 水平より上向きに漏れる光を減らす | スカイグローの抑制 |
| 色温度の調整 | 青色成分の少ない暖色系の光を選ぶ | 生きものへの影響への配慮 |
| 時間・人感制御 | 時間帯や人の有無に応じて照度を変える | エネルギー消費と光害の同時抑制 |
これらの技術は、既存の照明を更新する際に一定の費用がかかると考えられ、公園の照明をどこまで、どの程度の速さで更新できるかは、財政や維持管理体制という別の制約とも関わる論点である。技術的に望ましい対応と、実際に導入できる範囲との間には、常に一定の隔たりがありうることを踏まえておく必要がある。
照明の色や配光を数値で管理するという発想は、公園の管理者にとって専門的な知識を要する場合もあると考えられる。実際の導入にあたっては、照明メーカーや専門の事業者による助言、あるいは国や都道府県が示す指針を参照しながら進めることが現実的だと考えられる。
本節で紹介した技術的対応は、いずれも単独で完結するものではなく、組み合わせて用いられることが多いと考えられる。例えば、配光制御によって光を必要な範囲に絞ったうえで、さらに人感センサーによって不要な時間帯の照度を落とすといった組み合わせは、光害への配慮とエネルギー消費の抑制を同時に進める方向性として整理できる。
8. 反論と両立可能性——暗さと安心はトレードオフか
8.1 暗さを一律に減らす立場への疑問
ここまでの整理に対しては、防犯上の理由から公園の照明を減らすべきではないという反論が想定される。この反論は、街灯の存在そのものが安心につながるという実感に基づいており、軽視すべきではない。特に子どもや高齢者を連れて公園を利用する家族にとって、夜間や夕方以降の見通しの悪さは、現実的な懸念になりうる。
一方で、本稿がこれまで示してきた知見は、光を単純に減らすことを主張するものではない。むしろ、光の質と配分を見直すことを提案するものであり、防犯上の要請と生態系への配慮とは、必ずしも対立するとは限らない。第6節で確認したとおり、犯罪学の実証研究も、明るさの総量ではなく配光や均斉度の重要性を指摘してきた。
8.2 設計による両立の試み
例えば、園路や出入口といった人の動線に沿って必要な明るさを確保しつつ、植栽や水辺の周辺では光害漏れを抑えるという設計は、防犯と生態配慮を同時に満たしうる考え方として提示できる。動線を照らすことと、公園全体を一様に明るくすることとは、同じではない。
ゾーニング——空間を用途や性質ごとに区分けする考え方——を照明計画に応用し、人の活動が多い広場や出入口と、より暗さを保つ緑地や植栽帯とを区別するという発想も、都市公園の設計を論じる文脈で語られてきたと考えられる。すべての場所を同じ明るさで照らす必要はなく、場所ごとの役割に応じて光を配分するという発想である。
こうした設計上の工夫を実際に導入するには、既存の照明配置を見直すための調査や、器具の交換にかかる費用といった現実的な制約が伴う。理論上望ましいとされる配光であっても、既存の電源配線や柱の位置といった物理的な制約によって、思うように配置を変えられない場合もあると考えられる。両立可能性を論じる際には、こうした現場の制約も踏まえておく必要がある。
もう一つ想定される反論は、こうした議論は大規模な都市公園にしか当てはまらず、身近な街区公園には縁遠いというものである。しかし街区公園のような小さな公園でも、出入口や園路灯の向き、点灯の時間帯を見直す余地はあり、規模の大小にかかわらず検討しうる論点である。むしろ規模が小さいからこそ、少数の照明器具の配置を見直すだけで、公園全体の光の使い方を変えられるという見方もできる。
両立を模索するうえでは、公園の利用時間帯によって照明の必要性が変わるという点も踏まえる必要がある。日没後まもない時間帯は利用者が比較的多く、明るさへの需要も高いと考えられる一方、深夜に近づくにつれて利用者は減り、必要とされる明るさの水準も変わりうる。時間帯に応じた調光は、こうした需要の変化に対応する手段として位置づけられる。
地域住民との合意形成も、両立を図るうえで欠かせない要素である。防犯灯の明るさや配置についての感じ方は、住民一人ひとりの経験や立場によって異なりうる。技術的に望ましいとされる対応であっても、地域の納得が得られなければ実現は難しく、光害への配慮は技術論だけでなく、合意形成のプロセスとしても捉える必要がある。
本節の結論として、防犯照明の必要性と光害への配慮は二者択一ではなく、光の当て方という設計の工夫によって重ね合わせうる、という立場を取る。ただし、個々の公園でどこまで実現可能かは、財政や維持管理体制、地域の合意形成という別の条件にも左右される。
第三の反論として、光害への配慮という考え方自体が、天文学者や一部の環境保護に関心を持つ人々の間だけで通用する専門的な議論であり、一般の公園利用者の関心とはかけ離れているという見方もありうる。しかし、本稿がここまで示してきたように、光害研究は防犯・生態系・エネルギーという、公園利用者にとっても身近な論点と結びついている。夜間の安心、身近な虫や鳥の姿、公共施設の維持管理費といった論点は、いずれも光害という視点を通じて互いに関連づけて考えることができる。
こうした反論への応答を踏まえると、光害への配慮は、天体観望という限られた関心を持つ人々のためだけの議論ではなく、公園を日常的に利用するすべての人に関わりうる論点として位置づけ直すことができる。次節では、この立場から、磐田市の公園という具体的な対象に照らして検討する。
9. 磐田市の公園への示唆
磐田市の都市公園データベースであるATAWI PARKは、磐田市オープンデータ「都市公園一覧」に基づく94園と、市施設ガイドのみに掲載のある6園を合わせ、100園の公園情報を収録している。だが、これらの情報に夜間の照明の有無や明るさに関する項目は含まれておらず、当サイトはまだ現地踏査を行っていない。本節で述べることは、公園の種別・面積・地区といった既知の情報から導かれる一般的な見通しであり、個々の公園の実際の照明環境は今後の踏査で確かめるべき課題である。
磐田市の都市公園は、都市公園法上の種別で見ると、街区公園51園・近隣公園14園・都市緑地10園・地区公園4園・総合公園3園・運動公園3園・風致公園3園・広場公園2園・緑道2園・墓園1園・歴史公園1園、および法対象外の6園に分かれる。国土交通省の標準では、街区公園は誘致距離250メートル程度・面積0.25ヘクタール程度の身近な公園、近隣公園は誘致距離500メートル程度・面積2ヘクタール程度、総合公園や運動公園はより広い範囲から利用される規模の大きい公園とされる。街区公園のような身近な公園は住宅に近接する分、防犯照明への要請が強く働きやすいと考えられる一方、総合公園・運動公園のような大規模な公園は住宅からやや離れた立地であることが多く、照明のあり方を検討する余地が異なりうる。
| 種別 | 国の目安(誘致距離・面積) | 磐田市の該当園数 |
|---|---|---|
| 街区公園 | 誘致距離250m・面積0.25ha | 51園 |
| 近隣公園 | 誘致距離500m・面積2ha | 14園 |
| 地区公園 | 誘致距離1km・面積4ha | 4園 |
| 総合公園 | 面積10〜50ha | 3園 |
| 運動公園 | 面積15〜75ha | 3園 |
面積で見ると、竜洋海洋公園(総合公園・竜洋地区・221,722平方メートル)やかぶと塚公園(総合公園・見付地区・106,982平方メートル)、磐田スポーツ交流の里ゆめりあ(運動公園・向陽地区・57,500平方メートル)、兎山公園(地区公園・御厨地区・56,193平方メートル)のような大規模な公園がある一方、豊田上新屋ポケットパーク(都市緑地・豊田地区・156平方メートル)のような小さな緑地も多数含まれる。中央公園(地区公園・中泉地区・41,642平方メートル)のように、駐車場や複合遊具を備え、市街地に位置する地区公園もある。こうした規模の幅は、そのまま照明計画の考え方の幅にもつながりうる。
磐田市の施設ガイドの記載を見る限り、園内施設として遊具やトイレ、駐車場の有無は個別に記されているが、照明設備についての記載は見当たらない。したがって、どの公園にどのような照明が設置されているか、上方光束比や色温度がどのように配慮されているかは、当サイトが持つ情報からは判断できない。この点は、市の管理課(都市整備課、電話0538-37-4806)への確認や、今後の現地踏査によって初めて明らかになる事柄である。
安久路公園(地区公園・御厨地区・32,001平方メートル)のように、インクルーシブエリアを備えた複合遊具や流れといった多様な施設を持つ公園では、日没後まで滞在する家族連れも一定数想定される。こうした公園では、遊具や園路の安全な利用に必要な明るさと、光害への配慮とのバランスが、特に具体的な検討課題になりうると考えられる。ただし、これも現時点では一般論であり、実際の利用時間帯や照明状況は確認できていない。
竜洋昆虫自然観察公園(風致公園・竜洋地区・29,119平方メートル)のように、名称からも生きものの観察を主目的とすると考えられる公園では、本稿で述べた昆虫・鳥への影響という論点が特に関わりうる。豊田ラブリバー公園(近隣公園・豊田地区・16,030平方メートル)のようにテニスコートや複合遊具を備え、夜間まで利用されうる大きな公園でも、照明の配置と周囲の樹林との関係は検討の対象になりうる。ただし、これらの公園の夜間の利用実態や照明の状況について、当サイトはまだ確かめていない。
また、磐田市オープンデータの集計によれば、トイレを備える公園は69園、車いす対応トイレを備える公園は34園、砂場を備える公園は43園、遊具を備える公園は64園にのぼり、駐車場を備える公園は33園とされる。これらの数値は照明とは直接関わらないが、こうした基本的な公園施設の整備状況ですら、当サイトはオープンデータと市施設ガイドの記載から把握しているにとどまり、照明のようにデータ自体が存在しない項目については、把握のしようがないという限界を改めて示している。
以上を踏まえると、磐田市の公園を光害という視点から考える際の当面の論点は、大規模公園と身近な街区公園とで照明への要請が異なりうること、そして施設ガイドには照明に関する情報が乏しく、現状の把握そのものが今後の課題であること、の二点に整理できる。踏査済(L2)の公園が2026年8月16日時点で0園である現状を踏まえれば、本節で述べた内容は、あくまで種別・面積・地区という既知の情報から導かれる仮説にとどまる。
9地区で見ると、豊田地区(28園)や見付地区(21園)のように公園数の多い地区では、住宅地に近接する街区公園・都市緑地の割合が高く、身近な防犯照明への要請がまとまって生じやすいと考えられる。一方、南部地区や向陽地区のように公園数が少ない地区では、磐田スポーツ交流の里ゆめりあのような運動公園が地区の公園利用の中心を担っており、照明のあり方を検討する際の前提が異なりうる。いずれについても、具体的な照明の状況は今後の踏査を待つ必要がある。
10. 結論と今後の課題
本稿は、光害を天体観望という文脈から離れ、防犯・生態系・エネルギーという星空以外の側面から検討してきた。夜間の人工照明は、昆虫の走光性を通じて捕食関係をゆがめうること、渡り鳥の飛行や植物の季節応答に影響しうること、人を含む生物の概日リズムをめぐる議論と結びついていること、そして防犯という社会的要請と生態系への配慮とがせめぎ合う場であることを、それぞれ確認できる限りの知見に基づいて整理した。
これらの知見を貫く立場は、光害を「光の量」の問題としてではなく、「光の質と配分」の問題として捉え直すことである。配光制御・上方光束比の低減・色温度の調整・時間帯や人感による調光といった技術的対応は、防犯上必要な明るさを保ちながら、光害漏れやスカイグローを抑える方向性を示している。第8節で検討したとおり、防犯と生態配慮は対立するとは限らず、動線に沿った明るさの確保とゾーニングという発想によって、両立の余地を探ることができる。
磐田市の公園については、種別や面積、地区ごとの分布は把握できるものの、照明の実態そのものは施設ガイドの情報からは分からず、当サイトの現地踏査はこれからである。したがって本稿で示した論点は、実際の公園に当てはめて検証すべき仮説にとどまる。街区公園のような身近な公園と、総合公園・運動公園のような規模の大きい公園とでは、照明への要請の性質が異なりうるという見立ても、今後の踏査によって初めて具体的に検討できるようになる。
本稿を通じて一貫して強調してきたのは、光害を「明るいか暗いか」という単純な二分法ではなく、「どこに、どれだけ、どのような性質の光を配分するか」という設計の問題として捉える視点である。この視点は、防犯灯を減らすべきだという主張にも、増やすべきだという主張にも、直接には結びつかない。むしろ、既にある照明をどう見直すか、新設する際にどのような器具を選ぶかという、具体的な意思決定の場面で活用されるべき視点である。
今後の課題は大きく三つある。第一に、個々の公園の照明の実態——設置の有無、器具の向き、点灯時間帯——を現地踏査で確かめること。第二に、公園の立地——住宅地との近接度、水辺や樹林との位置関係——が光害の影響をどう左右するかを、確認可能な範囲で検討すること。第三に、防犯灯の管理者である行政と、地域住民との間で、明るさをめぐる合意形成がどのように行われているかを調べることである。
本稿で扱った論点の多くは、確立した定説というよりも、なお研究が積み重ねられている途上にある知見であることも付言しておきたい。昆虫や鳥への影響、概日リズムをめぐる議論のいずれも、今後の研究によって理解が更新されていく可能性がある。本稿はあくまで、現時点で確認できる範囲の知見を整理したものである。
本稿の作成過程で改めて確認できたのは、光害という一つの語のもとに、天文学・生態学・生理学・犯罪学・照明工学という異なる学問領域の知見が集まっているという事実である。公園という具体的な場を通じてこれらの知見を横断的に整理する試みは、個々の学問領域だけでは見えにくい、光の使い方をめぐる全体像を示す一つの手がかりになりうると考えられる。
光害という視点を公園学術論文シリーズに加えることの意義は、夜間という、これまで十分に光を当てられてこなかった時間帯の公園利用について、複数の学問領域を横断しながら考える手がかりを示すことにある。防犯・生態系・エネルギーという三つの切り口は、それぞれ独立した論点でありながら、公園の照明という一つの具体的な対象を通じて結びついている。
当サイトATAWI PARKは、磐田市の都市公園100園について、今後の踏査を通じて情報を積み重ねていく計画である。照明の実態を含め、本稿で示した論点がどの程度実際の公園に当てはまるのかは、その踏査の中で明らかにされていくべき課題として、ここに位置づけておきたい。
医学的な健康影響や個々の防犯上の判断については、本稿の扱える範囲を超えており、最終的な判断は医療機関や警察・行政といった関係機関の情報に委ねるべきである。光害という視点は、公園の夜間照明を「あるかないか」という二者択一の問題としてではなく、「どう設計するか」という問いへと開く一つの手がかりであり、今後の踏査のなかで具体的な検討を重ねていく必要がある。
最後に、本稿の限界を確認しておく。本稿で紹介した研究の多くは、日本国外の都市や、公園以外の対象を扱ったものであり、磐田市の公園に直接当てはまることを示したものではない。また、光害という現象の測定には専門的な機材や継続的な観測が必要とされ、本稿のような文献整理と概念分析だけでは、個々の公園の状況を明らかにすることはできない。これらの限界を踏まえたうえで、本稿は今後の踏査に向けた見取り図を提供するものと位置づけられる。
参考文献
- 環境省「光害対策ガイドライン」(1998年策定・2021年改訂)
- F. Falchi, P. Cinzano, D. Duriscoe, C. C. M. Kyba, C. D. Elvidge, K. Baugh, B. A. Portnov, N. A. Rybnikova, R. Furgoni(2016)『The New World Atlas of Artificial Night Sky Brightness』Science Advances, 2(6)
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- 日本産業規格 JIS Z9110「照明基準総則」
- 都市公園法(昭和31年法律第79号)・都市公園法施行令(国土交通省 都市公園のページ)
- 国土交通省「都市公園における遊具の安全確保に関する指針(改訂第3版)」(令和6年6月)
- 磐田市オープンデータ「都市公園一覧」(CC BY 3.0・出典:磐田市)
- 磐田市 施設ガイド(公園)
本稿は ATAWI PARK 編集部による総説的な論考であり、学会誌等の査読を経た学術論文ではありません。引用は広く知られた著作・公的資料に限り、磐田市固有の事実は当サイトのデータベースと磐田市の公開情報にもとづきます。個々の公園の設備・状態は現地でご確認ください。医療・安全に関する判断は医療機関・関係機関の指示を優先してください。