計画・工学風工学

風の通り道をつくる——ビル風・防風林・公園の微気候

富士ヶ丘サービス株式会社 大石浩之

学問領域:風工学 公開・更新 2026-08-17 本文 約21,177字 読了目安 39分

要旨

本稿の目的は、風工学(wind engineering・風と建物や人の暮らしとの関わりを扱う工学分野)の基本概念を用いて、都市公園と風との関係を、子育て世代・行政・地域の関係者にも読める形で整理することである。方法は文献整理と概念分析であり、A. G. ダベンポートに始まる近代風工学の枠組み、地表面の粗さが風の鉛直分布を決めるという大気境界層の考え方、建物まわりの流れの剥離と増速として説明されるいわゆるビル風、そして防風林の減風効果に関する古典的知見を手がかりに、公園という開けた空間が風に対して何をしているのかを検討する。

検討の結果、公園と風の関係は三つの層に分けて理解できるという見通しが得られた。第一に、公園は樹林と広場という粗さの異なる面を併せ持ち、開けた芝生広場は風を通し、樹林は風の運動量を吸収して弱めるという、地表面粗度の観点からの役割である。第二に、公園は周囲の建物がつくる流れの中に置かれた「すきま」であり、建物の高層化にともなう吹き下ろしや街路の増速といったビル風の現象と無関係ではいられないという、市街地スケールの役割である。第三に、公園の内部には風の強い場所と淀む場所が同時に生まれ、夏は風を通し冬は風を遮るという季節ごとに相反する要求を、園内の場所の使い分けとして解くほかないという、微気候設計の論点である。

最後に、磐田市の都市公園100園を種別と面積から読み直し、総合公園や地区公園のような大きな園では樹林と広場の配置そのものが風の条件を左右しうること、街区公園51園と都市緑地10園のような小さな空間では周囲の建物と樹木の影響が相対的に大きくなりうることを示す。ただし当サイトの現地踏査は始まっておらず、各園の樹林の疎密・卓越風の向き・ベンチや砂場の位置といった論点はすべて今後の踏査課題として残す。本稿は特定の地点の風環境を評価したり断定したりするものではなく、強い風のもとでの行動の判断は、気象情報と関係機関の指示に従っていただきたい。

キーワード風工学大気境界層地表面粗度ビル風防風林微気候磐田市

1. はじめに——問題の所在

公園を語るとき、私たちはたいてい目に見えるものから語り始める。遊具があるか、木陰があるか、トイレがあるか、駐車場があるか。しかし公園で過ごした時間を思い返すと、記憶に残っているのは目に見えないものであることが少なくない。砂場の砂が舞って目をこすったこと、ブランコが誰も乗っていないのに揺れていたこと、冬の広場が思いのほか寒くて早々に切り上げたこと、夏の木陰に入った瞬間に汗が引いたこと。これらはいずれもの話である。風は公園の設備一覧には載らないが、その公園で過ごせる時間の長さと快適さを、静かに、しかし確実に左右している。

本稿は、この目に見えない条件を風工学(wind engineering)の枠組みから捉え直す試みである。風工学とは、風と、建物・構造物・都市・そこで暮らす人との関わりを扱う工学分野をいう。橋や高層建築が風で揺れないようにする構造の問題から、街路の歩行者が受ける風の強さを予測する環境の問題まで、対象は広い。公園はこの分野の主役として論じられることが多くはないが、公園こそ、市街地の中で空が開けた数少ない場所であり、風の通り道にも風のたまり場にもなりうる空間である。

1.1 本稿の問い

本稿が立てる問いは三つである。第一に、風はそもそもどのように吹いており、地表面の状態によってどう変わるのか。第二に、建物と樹木は風をどう変えるのか——高層の建物のまわりで風が強まる現象と、樹林が風を弱める現象を、同じ枠組みで説明できるか。第三に、公園という空間は、周囲の風環境に対して何をしているのか、また公園の中の風はどう設計されうるのか。この三つを順に検討したうえで、磐田市の公園100園に引きつけて考える。

問いの立て方には、あらかじめ一つの制約を置く。本稿は、特定の公園や特定の地点の風環境を評価したり、そこが風が強いあるいは弱いと断定したりするものではない。風は同じ場所でも季節・時刻・気圧配置によって変わり、周囲の建物が一棟建て替わるだけでも変化しうる。実際の風環境を述べるには、その場所での観測か、境界層風洞実験か、検証済みの数値解析が要る。本稿が扱うのは、そうした評価の前提となる考え方のほうである。

建物樹木問い
図1公園と風の関係を、風そのものの性質・建物による変化・樹木による変化の三つに分けて問い直す。本稿は考え方を整理するもので、特定地点の評価は行わない。

1.2 方法と資料

方法は文献整理と概念分析である。近代風工学の成立を告げたダベンポートの1961年の論文、地面に近い大気の気候を扱ったガイガーの古典、都市の境界層気候を体系化したオークの教科書、そして日本の建築分野で蓄積されてきた風環境予測の枠組みを手がかりにする。数値については、法令や省庁の指針に明記のあるもの——建築基準法に基づく地表面粗度区分、気象庁が定める平均風速と瞬間風速の定義——のほかは、具体的な値を挙げず、「〜とされる」という形で傾向のみを述べる。風工学の実務値は対象と条件に強く依存し、切り離して引用すると誤解を招くからである。

磐田市に関する事実は、市のオープンデータ「都市公園一覧」と市の施設ガイドに記載のある範囲に限る。当サイト(ATAWI PARK)は磐田市の公園100園のデータベースであるが、現地の踏査はこれから始まる段階にあり、各園の風の様子を歩いて確かめた記録はまだない。したがって第8節では、既存の記載から言えることと、踏査で確かめるべきこととを分けて書く。

1.3 構成と、安全についての断り

以下の構成をとる。第2節で風工学という分野の成立と主要概念を整理する。第3節で大気境界層と地表面粗度、すなわち「地面の粗さが風の高さ方向の分布を決める」という基本を説明する。第4節で建物まわりの流れ——剥離・吹き下ろし・街路の増速——を扱い、第5節で樹木と防風林による減風を扱う。第6節では夏は風を通し冬は風を遮りたいという相反する要求を微気候設計の問題として検討し、第7節で風洞実験・数値流体解析・風環境の評価尺度という調べ方を概観する。第8節で強い風のもとでの公園について、気象庁の定義と備えの考え方を述べ、第9節で磐田市への示唆、第10節で結論と課題を示す。

註:本稿は安全に関わる主題を含む。強い風が予想されるとき、あるいは風が強まってきたときの行動の判断は、気象庁の気象情報と、市などの関係機関が出す情報・指示に従っていただきたい。本稿の記述は一般的な仕組みの説明であり、個別の状況における判断の根拠として用いるべきものではない。

2. 先行研究と概念の整理——風工学はどこから来たか

風工学という言葉が定着したのは20世紀の後半である。しかし風と人工物の関係が問題として意識されたのは、それよりずっと古い。帆船の時代、風の強さを帆の状態から読み取る尺度が要請され、19世紀初頭にフランシス・ボーフォートがまとめたビューフォート風力階級が広く用いられるようになった。これは風速計のない時代に、海面の様子や陸上の木の枝の動き方から風の強さを段階で表すもので、いまも「風速いくつ」という数値を体感に翻訳する道具として生き続けている。公園で保護者が木の葉の動きから風を判断するとき、実はこの古い尺度と同じことをしている。

2.1 ダベンポートと「風荷重の連鎖」

近代風工学の出発点として広く参照されるのは、A. G. ダベンポートが1961年に発表した論文である。ダベンポートは、風を単一の速度としてではなく、平均風速のまわりで絶えず変動する統計的な量として扱い、その変動が構造物にどう伝わって応答を生むかを一連の流れとして定式化した。風の気候(その土地でどんな風がどれくらいの頻度で吹くか)、地形と地表面の粗さによる修正、建物のまわりの流れと圧力、構造の応答、そして設計の判断。この鎖のどこか一つを欠いても風の問題は解けない、という見方が確立した。

ダベンポートはまた、実際の大気の風を実験室で再現するために、地面の粗さによって生じる速度の分布と乱れを模擬する境界層風洞の整備を進めた。それ以前の風洞は一様な流れを扱っており、地表近くの風の性質——高さとともに速度が増し、絶えず乱れているという性質——を再現できていなかった。地表面の粗さを再現しなければ都市の風は解けない、という認識は、本稿の第3節の内容そのものである。

古典統計連鎖
図2風工学は、風を平均と変動からなる統計的な量として扱い、風の気候・地表の粗さ・物体まわりの流れ・応答を一つの連鎖として捉えるところから出発した。

2.2 農学・気象学からの流れ——防風林の研究

もう一つの源流は、建築ではなく農地にある。R. ガイガーが1927年に著した地面に近い大気の気候についての古典は、地表から数メートルの層でおきる温度・湿度・風の変化を体系的に扱い、その中で防風林(windbreak・shelterbelt)の効果を主題の一つとした。作物を風から守り、土壌の飛散と乾燥を抑えるという実利のために、林の高さ・幅・密度と、風下でどこまで風が弱まるかとの関係が、各地で観測・整理されてきた。この蓄積は、公園の樹林が風に対して何をしているかを考えるときの、最も確かな手がかりである。

さらに都市の側からは、T. R. オークが都市の境界層気候を体系化し、建物が立ち並ぶ市街地の上に独特の空気の層ができること、街路が谷(キャニオン)のような形をとることで風・熱・放射がまとめて変わることを示した。都市気候学と風工学は、対象を「都市の中の空気」として共有しており、公園の涼しさを論じるときにも風は欠かせない変数となる。

2.3 日本におけるビル風と予測技術

日本で風の問題が広く知られるようになったのは、市街地の高層化にともなって、建物の足もとで風が強まる現象——一般にビル風と呼ばれる——が生活上の問題として現れてからである。建築分野では、日本建築学会が構造設計のための荷重指針を整備するとともに、歩行者レベルの風環境をどう予測し、どう評価するかという手法の整理を進めてきた。法制度の側でも、建築基準法とこれに基づく告示が、風圧力の計算に用いる基準風速と地表面粗度区分を定めている。風は、意匠や好みの問題ではなく、法令が数値を定める設計条件の一つである。

予測の技術は、風洞実験から数値計算へと広がった。村上周三らは数値流体解析(CFD)を建築・都市の環境設計に応用する体系をまとめ、日本建築学会は歩行者レベルの風環境を対象とする計算の実務指針を国際的な形でも公表している。計算はいまや実務の標準的な道具だが、同時に、計算格子の取り方や乱流モデルの選び方で結果が変わりうることも共有された知見である。だからこそ、実測や風洞との照合(検証)が求められる。

先行研究の配置を確かめると、公園そのものを主題とした風工学の研究は、建物や橋を主題としたものに比べて多くない。理由は察しがつく。風工学は、風によって壊れうるもの、あるいは風によって使えなくなる場所を対象として発展してきた。公園は構造物としての危険度が高くなく、また風が強いからといって立入りが制限される種類の施設でもない。しかし、公園が市街地の中で風の通り道になりうること、そして公園の使われ方が風に左右されることを考えれば、この空白は研究上の余地を意味している。本稿が試みるのは、その余地に既存の概念を持ち込むことである。

2.4 用語の整理

以下で繰り返し使う言葉を先に定めておく。平均風速は、ある時間の平均をとった風の速さで、気象庁は10分間の平均をこれに当てる。瞬間風速は瞬間の値で、気象庁は3秒間の平均をこれに当てる。同じ風でも瞬間風速は平均風速より大きくなり、両者の比は突風率と呼ばれる。乱れ強さは、平均に対する変動の大きさの割合で、地面が粗いほど大きくなる。増速率(風速比)は、ある地点の風速を、周囲に建物がない場合の同じ高さの風速で割った値であり、ビル風の議論で「どれだけ強まったか」を表すのに使われる。これらはいずれも比の量であり、絶対値ではないことに注意したい。

3. 地面が風をつくる——大気境界層と地表面粗度

風は空の上から一様に吹き下ろしてくるのではない。上空では気圧の傾きと地球の自転で決まる流れがあり、地面に近づくにつれて、地表との摩擦によって減速する。この摩擦の影響が及ぶ層を大気境界層という。その厚さは条件によって変わるが、市街地では数百メートルの規模になるとされ、私たちの生活はすべてこの層の底で営まれている。公園も遊具も子どもの背丈も、境界層のいちばん下の、地面の摩擦がもっとも効いている数メートルの中にある。

3.1 高さとともに風は強くなる

境界層の中では、地表に近いほど風が弱く、高いほど強い。この高さ方向の変化を近似する式として、風工学では風速が高さのべき乗に比例するというべき法則が広く用いられる。指数が小さければ地表近くでも風が落ちにくく、指数が大きければ地表近くで急激に弱まる。指数の大小を決めるのは、その土地の地表面粗度、すなわち地面の凹凸の粗さである。海面や広い水面は滑らかで指数が小さく、樹林や住宅地は粗くて指数が大きい。

この考え方は日本の法制度にも取り込まれている。建築基準法に基づく告示は、建築物に作用する風圧力を計算するために、その土地の状況に応じた地表面粗度区分を四つに分け、区分ごとに風速の高さ方向の分布を与えている。海に面した開けた土地から、密集した市街地まで、同じ高さでも設計に用いる風速は変わる。風の強さは土地の性格の関数である、という理解が法令のレベルで共有されているわけである。

地表面の状態粗さ地表近くの風公園での対応物
広い水面・干潟きわめて小さい低い高さでも弱まりにくい大きな池や河川敷の水面
畑・草地・芝生の広場小さい比較的よく通る芝生広場・多目的広場
低い樹木・生垣・住宅地中くらい地表近くで弱まる植栽帯・生垣・戸建ての住宅地
高い樹林・密集市街地大きい地表近くで大きく弱まるが乱れが増す樹林地・高い建物に囲まれた小公園

表の右端に公園での対応物を並べたのは、一つの公園の中にすら粗さの異なる面が同居していることを示すためである。芝生広場と樹林とでは、同じ園内でも風の通り方が違う。公園を「一つの点」として扱うのではなく、粗さの異なる面の集まりとして見ることが、以降の議論の前提になる。

もう一つ、粗さについて重要な性質がある。風が粗さの違う面へ移ったとき、風の分布はただちに新しい面に見合った形に変わるのではなく、地表から徐々に調整されていく。市街地から開けた広場へ出た流れは、しばらくの間は市街地の分布の名残をとどめ、進むにつれて下から順に開けた面に見合う分布へと変わる。逆に開けた面から樹林へ入った流れも、林縁から奥へ進むにつれて減速していく。この調整の途中にできる層を内部境界層という。公園の風が縁と中央で違いうるのは、公園が周囲と粗さの異なる面であり、その内側でこの調整が進行しているからである。小さな公園ほど、調整が終わらないうちに反対側の縁に達することになる。

高さ開けた面粗い面
図3風は高さとともに強くなり、その増え方は地面の粗さで決まる。開けた広場は風を通し、樹林や住宅地は地表近くの風を弱める。

3.2 風は絶えず揺らいでいる——乱れと突風

境界層の風は、平均値のまわりで絶えず速さと向きを変えている。この揺らぎを乱れという。乱れは地面の凹凸によって生まれるため、粗い地面の上ほど強い。市街地の風が「強くはないのに落ち着かない」と感じられるのは、平均風速が大きいというより、乱れが大きいためであることが多い。逆に開けた海岸や広い水面の上では、平均風速が大きくても乱れは相対的に小さく、風がまっすぐに吹く感じになる。

この乱れの大きさが、平均風速と瞬間風速の差を生む。気象庁は、平均風速を10分間の平均、瞬間風速を3秒間の平均と定義したうえで、瞬間風速は平均風速のおおむね1.5倍程度になることがあると説明している。天気予報で「風速10メートル」と聞いても、体が受けるのはそれよりずっと強い一瞬の風でありうる。公園で物が飛んだり、傘があおられたりするのは、平均ではなく、この一瞬の風による。予報の数値を読むときには、平均か瞬間かを確かめるのが第一歩である。

3.3 子どもの背丈で吹く風

べき法則が示すことを、公園の目線に置き換えてみたい。高さとともに風が強くなるのだから、大人の顔の高さで受ける風と、幼児の顔の高さで受ける風は同じではない。数値としてどれだけ違うかは地表面の状態と条件次第だが、傾向としては低いほど弱い。抱っこやベビーカーで高さが変わると、受ける風も変わる。冬の広場で、大人はそれほど気にならないのに子どもだけが早く冷えるように見えることがあるのは、風だけの効果ではなく、体格に対する体表面積の比や、活動量の違いも重なる。判断は保護者の観察と、必要に応じて医療機関に委ねられるべきだが、風の高さ方向の分布という物理は、その観察を裏づける一つの視点になる。

他方、地表近くには別の現象がある。飛砂である。砂は風によって転がり、跳ね、舞い上がるが、その多くは地表からごく低い高さの層で運ばれるとされる。つまり砂が飛ぶ現象は、大人の顔より子どもの顔に近いところで起きやすい。砂場や裸地のそばで風が出てきたときの配慮は、この高さの違いから説明できる。乾いた砂ほど動きやすく、湿った砂は動きにくいという単純な関係も、雨の翌日と乾いた日の違いとして観察できるはずである。

4. 建物のまわりで風が変わる——剥離・吹き下ろし・街路の増速

前節では地面の粗さが風の分布を決めることを述べた。本節では、その流れの中に一棟の建物が置かれたとき何が起きるかを見る。ここで鍵になるのが剥離という現象である。流れが物体の表面に沿って回り込めなくなり、角のところで表面から離れることを剥離という。角の丸い物体では剥離の位置が条件によって動くが、角張った建物では角そのもので剥離が起こるため、位置がほぼ固定される。ビル風の議論で建物の形——とくに角の形と平面の比——が重視されるのは、このためである。

4.1 高い建物が風を地面に降ろす

高い建物が風上から風を受けると、上空の強い風が壁面にぶつかり、行き場を失って上・横・下に分かれる。このうち下へ向かう流れを吹き下ろしという。上空ほど風は強いから、吹き下ろしは高い高度の運動量を地面近くまで持ち込むことになる。降りてきた流れは建物の足もとで水平に広がり、風上側の地面には渦(馬蹄形の渦と呼ばれることがある)ができ、建物の左右の角では流れが加速して回り込む。建物が高いほど、また壁面が広いほど、この一連の現象は大きくなる傾向がある。

同じ原理は、建物の隅角部や、二棟の建物の間の狭いすきま、建物の下部に開けられた通り抜け(ピロティ)にも働く。断面が狭まると流れは速くならざるをえず、狭い場所で風が強まる。街路が風向とそろっているときに街路に沿って風が加速する現象は、しばしば街路風や谷間風と呼ばれる。都市の風の問題は、多くの場合、風が新たに生まれたのではなく、もともと上空にあった風が形によって集められ、地面に降ろされたことによる。

現象の型起きやすい場所風の変化
吹き下ろし高い建物の風上側の壁の足もと上空の強い風が地面近くに降りる
隅角部の回り込み建物の角のまわり断面が狭まり流れが加速する
すきま風・通り抜け建物どうしの間、建物の下の通路狭い断面を通るため速さが増す
街路に沿う流れ風向とそろった直線的な道路沿道に沿って風が集まる
風下の渦と逆流建物の風下側平均風速は落ちるが向きが乱れ、逆向きの流れも生じる

表の最後の行に注意したい。建物の風下は「風が弱い場所」と考えられがちだが、実際には流れが剥離してできた渦が居座り、風向が定まらず、ときに本来の風向と逆向きの流れが生じる。これは風が弱いのとは違う状態である。落ち葉や紙くずが一か所でくるくると回り続けている場所を見たことがあるなら、それがこの渦の可視化である。

高い建物吹き下ろし街路風増速
図4ビル風は風が新しく生まれる現象ではなく、上空の風が建物の形によって集められ地面近くへ降ろされる現象である。角・すきま・街路で強まりやすい。

4.2 「強い場所」と「淀む場所」は同時にできる

ビル風という語は風が強まる側面ばかりを指しがちだが、建物は同時に風の淀みもつくる。風下の渦の内側、囲まれた中庭、三方を建物で囲まれた行き止まりの空間では、平均風速が小さくなり、空気の入れ替わりが鈍る。この淀みは、夏には熱と湿りがこもる原因となり、都市気候の観点からは望ましくない。逆に冬には、風が当たらない居場所として価値をもつ。同じ物理現象が、季節と目的によって長所にも短所にもなる。この両義性は第6節の主題である。

公園はこの構図の中で独特の位置にある。公園は市街地に開いた「すきま」であり、周囲より粗さが小さい面である。風上側から見れば、公園は流れが抜けやすい経路であり、風下側から見れば、公園は建物列の切れ目である。したがって公園の縁——建物が途切れて広場が始まるところ——では、粗さが急に変わることによる流れの調整が起きる。開けた面に出た流れは徐々に速さを取り戻し、逆に樹林に入った流れは減速する。この「粗さの変わり目」で何が起きるかは、公園の風を考えるうえで最も本質的な問いの一つである。

4.3 反論への応答——公園があるから風が強いのか

ここで想定される反論に答えておきたい。公園が開けているために風が抜け、周囲より風が強く感じられるのだとすれば、公園は風の問題を悪化させているのではないか、という見方である。この見方は現象の一面を捉えている。しかし三点を補いたい。第一に、公園の広場に生じる風は上空にもともとあった風であり、公園がなければその風は別の経路——たとえば街路——に集まる。第二に、公園には樹林という減風の装置を組み込む余地があり、開けた面と粗い面をどう配置するかは設計の対象になる。第三に、風が通ること自体は夏の暑さや空気の入れ替わりの観点では利点でもある。したがって問題は「風を通すか遮るか」の二択ではなく、どこで通しどこで遮るかという配置の問題に置き換わる。

5. 樹木は風をどう弱めるか——防風林の疎密と減風の及ぶ範囲

建物が風を集める装置であるとすれば、樹林は風を散らす装置である。ただし両者の働き方は本質的に異なる。建物は流れを通さない固い壁であり、流れは表面で剥離して迂回するほかない。これに対して樹木は、幹・枝・葉という無数の細かい要素からなる多孔質の抵抗体であり、風はその内部を通り抜けながら、少しずつ運動量を奪われる。この違いが、防風林の設計における最も重要な原則を導く。すなわち、風を完全に遮る壁より、風を適度に透かす林のほうが、風下の広い範囲を穏やかにするという原則である。

5.1 密な壁と疎な林

隙間のない壁に風が当たると、流れは壁を越えるために持ち上げられ、壁の直後には強い渦のある領域ができる。そこでは平均風速は確かに小さいが、乱れが大きく、しかも越えていった強い流れが比較的近い距離で地面に降りてくるため、減風の効く範囲は壁の高さの割に短い。これに対し、適度に隙間のある防風林では、林を通り抜けた弱い流れが林の背後を満たし、上を越えた流れが降りてくるのを妨げる。その結果、強い渦は生じにくく、減風の効果は風下のより遠くまで、なだらかに及ぶとされる。

この原則は農地の防風林の観測から繰り返し確認されてきた。減風の及ぶ範囲は、林の高さを単位として測るのが慣例で、風上側では林の高さの数倍程度、風下側では高さの二十倍から三十倍程度に及ぶことがあるとされる。高さ10メートルの樹列があれば、風下の百メートルを超える範囲に、程度の差はあれ影響が及びうるという見当になる。ただしこれは条件の整った農地の観測から得られた目安であり、建物が混在する市街地でそのまま成り立つとは限らない。公園の樹林についてどこまで当てはまるかは、実測を要する問いである。

樹林疎な林密な壁風下
図5風を完全に遮る密な壁は直後に強い渦をつくり効果が長続きしない。適度に風を透かす林のほうが、風下の遠くまでなだらかに風を弱めるとされる。

5.2 高さ・幅・向き・季節

防風の効き方を決める要素は、疎密のほかに少なくとも四つある。第一に高さ。減風範囲は高さに比例して測られるから、同じ本数でも高木のほうが広い範囲に効く。第二に幅(奥行き)。ある程度の幅は必要だが、厚くすればするほど効くわけではなく、厚すぎる林は密な壁に近づく。第三に向き。防風効果は風向に対して直角に近いほど大きく、斜めから受けると効きが落ちる。したがって、どの季節のどの風向を対象とするかを決めずに防風林は設計できない。

第四に季節による変化である。落葉樹は冬に葉を落とすため、葉のある季節と落とした季節とで風の透け方が大きく変わる。日射の観点では、夏に日を遮り冬に日を通す落葉樹は理にかなった選択とされるが、風の観点では、冬に防風を期待する場合に落葉樹だけでは足りないことになる。常緑樹と落葉樹、高木と低木、樹木と生垣を組み合わせる理由はここにある。単一の樹種が万能ではない。

5.3 一本の木、築山、生垣

公園には連続した防風林がないことのほうが多い。では孤立した一本の木や、小さな植栽帯は無意味かというと、そうではない。孤立木の風下には、木の大きさに応じた小さな減風の領域ができる。ただしそれは林ほど広くも安定してもおらず、幹のまわりを回り込む流れが局所的に速くなることもある。木陰と風よけは同じではなく、木陰を求めて立った場所が風よけになっているとは限らない。夏には木陰かつ風の通るところ、冬には日なたかつ風の弱いところが望ましいが、この二つが同じ場所にあるとは限らない、というのが実務的な含意である。

地形も風を変える。人工の小山、いわゆる築山は、斜面を登る流れを加速させ、頂部で最も速く、背後には剥離した渦をつくる。磐田市の施設ガイドには、竜洋川袋公園と福田ふるさと公園の園内施設として築山の記載がある。築山は滑り降りる遊び場であると同時に、風に対しては地形の凹凸として働く。生垣やフェンス、パーゴラや東屋の壁も同様に、それぞれの疎密に応じて風を変える小さな装置である。公園の風は、樹木だけでなく、こうした要素の総体として決まる。

5.4 樹木を風から守るという逆の視点

ここまでは樹木が風から人を守る側面を述べたが、逆の関係もある。強い風は樹木にとって負荷であり、枝が折れたり、根返りが起きたりすることがある。国土交通省は都市公園における樹木の点検・診断に関する指針をまとめており、幹や根株の腐朽、枝の枯れ、樹形の偏りといった兆候を点検する枠組みが示されている。公園の樹木は管理者が点検する対象であり、利用者が診断すべきものではない。ただ、折れた枝が落ちている、幹に大きな空洞があるなど、気づいたことを管理者に伝えることには意味がある。磐田市の公園を所管するのは都市整備課(電話 0538-37-4806)である。風が強かった日の後に園内の様子が普段と違うと感じたときの連絡先として、覚えておいてよい。

6. 通風と遮蔽のトレードオフ——夏は通し、冬は遮る

風に対する要求は季節によって正反対になる。夏、風は歓迎される。風は肌の表面から汗を蒸発させ、熱を運び去る。同じ気温でも、風があるときとないときとでは体感がまったく違う。暑さ指数(WBGT)の測定に用いられる自然湿球温度は、風によって値が下がる性質をもち、風の有無が暑さの評価に反映される仕組みになっている。他方、冬の風は体感温度を下げる。風速が増すほど体感が寒くなるという経験則は古くから知られており、気温が同じでも風の強い日の広場は長くいられない。夏に望ましい条件は、冬には望ましくない。ここに設計上のトレードオフが生じる。

6.1 季節で風向が変わるという前提

このトレードオフを解く鍵は、季節によって風の向きが変わることにある。日本の多くの地域では、夏は南寄りの風が、冬は北西寄りの季節風が卓越するとされる。向きが違うのであれば、夏の風向に対しては開き、冬の風向に対しては閉じるという配置が原理的には成り立つ。冬の卓越風の側に常緑の樹林や生垣を置き、夏の風向の側は広場や低い植栽にして風を通す。この考え方は、屋敷林や防風垣として各地の民家に古くから見られる工夫と同じである。

ただし、この原理をそのまま公園に当てはめるには慎重さが要る。第一に、卓越風は統計的な傾向であって、毎日その向きに吹くわけではない。第二に、市街地では周囲の建物によって風向が曲げられ、上空の風向と地上の風向が一致しないことがある。第三に、地形や海陸の分布によって、日中と夜間で風向が入れ替わる局地的な風が生じる地域もある。したがって、ある公園の卓越風がどちらかは、上空の一般的な傾向からは決められない。実測か、周辺の建物を含めた解析が要る。

夏は通す冬は遮る落葉
図6夏は風がほしく冬は風を避けたい。季節で風向が変わることを手がかりに、園内の場所ごとに開くところと閉じるところを分けるのが基本の考え方である。

6.2 「園内に複数の微気候をつくる」という解

季節ごとに公園の形を変えることはできない。ならば、一つの公園の中に条件の異なる場所を複数用意し、利用者が選べるようにするのが現実的な解になる。微気候(microclimate)とは、地表近くのごく狭い範囲で成り立つ気候条件をいう。同じ公園でも、樹林の中・木陰の縁・開けた広場の中央・建物や生垣の風下では、日射・風・湿りの組み合わせが異なる。設計とは、この組み合わせの選択肢を意図的に増やすことだと言い換えられる。

  • 夏の昼——木陰があり、かつ風が通る縁の部分。樹林の内部は日射は遮られるが風が弱く、蒸し暑くなることがある。
  • 夏の夕方——開けた広場。地面が空へ熱を放ちやすく、風も通る。
  • 冬の昼——日なたで、かつ風上側に樹林や生垣がある場所。日射を受けながら風を避けられる。
  • 雨や風の強い日——屋根のある空間。ただし吹き込む向きによって使い勝手が変わる。

この四つは、一つの園にすべて揃うとは限らない。しかし、どの条件がどこにあるかを利用者が知っていれば、同じ公園でも季節と時刻に応じた使い方ができる。当サイトが各園について記録したいのは、まさにこの種の情報である。設備の有無だけでなく、その設備がどんな微気候の中にあるか。踏査の課題として、この節の視点は具体的な観察項目に翻訳できる。

6.3 通風を望ましくする条件、望ましくなくする条件

通風は常に善ではない。同じ風でも、砂ぼこりを運べば目や口に入り、花粉を運べば症状のある人にはつらく、乾いた季節には肌や喉の乾きを早める。逆に淀みも常に悪ではない。赤ちゃんを連れた休憩や、食事の時間には、風の弱い場所のほうが過ごしやすい。つまり通風と遮蔽の評価は、その場所で何をするかによって変わる。ベンチ・砂場・水飲み場・おむつ替えのできる場所といった機能ごとに、望ましい風の条件は異なる。

風は、それ自体が快・不快を決めるだけでなく、他のものを運ぶ媒体でもある。風は音を運び、においを運び、砂と花粉と落ち葉を運び、そして熱と水蒸気を運ぶ。公園の樹林が蒸散によって周囲より低い温度の空気をつくるとき、その空気が周りへ広がっていくかどうかは風にかかっている。無風のときは公園の縁からゆっくりとにじみ出すにとどまり、風があれば風下側へ運ばれる。公園の効果を園内だけで考えず、風下も含めて考えるべき理由がここにある。逆に、公園に隣接する道路や施設から何かが運び込まれる可能性も、同じ論理から出てくる。通風の設計は、何を通し何を通したくないかの検討を含む。

風工学の側からこの点に付け加えられるのは、風の淀みは空気の入れ替わりの鈍さでもある、という視点である。都市の中庭や囲まれた空間では、熱や湿り、あるいは交通由来の空気が滞留しやすい。したがって、完全に閉じた居場所ではなく、風上側だけを守り、弱い流れは通す——防風林の疎密の原則をそのまま人の居場所に応用する——という形が、多くの場合に穏当な解になる。これは第5節で述べた「密な壁より疎な林」の原則の、人の居場所への読み替えである。

7. 風はどう調べられるか——実測・風洞・数値解析と評価尺度

ここまで述べた仕組みは、どうやって確かめられるのか。風工学が実務として成立しているのは、風を調べる方法が三通り確立しているからである。実測、風洞実験、そして数値流体解析(CFD)。三つは代替関係ではなく、互いに補い合い、検証し合う関係にある。公園の風を考える市民や行政の立場からも、それぞれが何を答えられて何を答えられないかを知っておくことには意味がある。

7.1 実測——その場所の風を知る唯一の直接の方法

最も確かなのは、その場所で測ることである。気象官署やアメダスの観測は、決められた高さと露出条件で長期間続けられており、その土地の風の気候——どの向きの風がどの季節にどれくらいの頻度で吹くか——を知る基礎になる。風向別の頻度と風速を放射状にまとめた図は風配図と呼ばれ、卓越風向を読み取る標準的な道具である。ただし、観測点の風がそのまま数百メートル離れた公園の風になるわけではない。観測点は周囲の障害物の影響を避けるよう選ばれており、市街地の中の一地点の風はそこから直接には得られない。

短期の現地観測も行われる。可搬型の風速計を目的の高さに設置し、同時に基準となる観測点の値と比べて、両者の比を求める方法である。ある地点が周囲に対してどれだけ風が強いかを表す増速率は、こうして得られる。ただし短期観測は、その期間に吹いた風向しか評価できないという制約をもつ。年間を通じた評価には、長期の観測記録との組み合わせが要る。

7.2 風洞実験——縮尺模型で流れを再現する

境界層風洞は、実際の大気境界層と同じ性質——高さとともに増す風速の分布と、地表の粗さに応じた乱れ——を人工的につくり出す装置である。その中に、対象地区の建物と地形を縮尺した模型を置き、地表面の各点で風速を測る。風向を変えて何通りも測ることができ、建物を建てる前と後を比べることもできるため、計画段階の検討に適している。角張った建物では剥離の位置が角で固定されるため、模型と実物で流れの大きな構造が対応しやすい、という理論的な裏づけもある。

とはいえ風洞にも限界がある。模型化する範囲の外の地形や樹林は簡略化せざるをえず、樹木の疎密のように多孔質の性質をもつものを縮尺で再現するのは容易でない。植栽の効果は、金網や多孔板などで近似されることが多い。実験は条件を制御できる代わりに、現実の複雑さを切り落とすことで成立している。

数値解析可視化評価尺度
図7風の調べ方は実測・風洞・数値解析の三通りで、互いを検証し合う。どの方法にも前提と限界があり、単独の結果を断定の根拠にはできない。

7.3 数値流体解析——計算で流れを解く

計算機の性能向上により、流体の運動方程式を数値的に解いて建物まわりの流れを求める方法が実用化した。村上周三らは、これを建築・都市の環境設計に体系的に応用する道筋をまとめ、日本建築学会は歩行者レベルの風環境を対象とする計算の実務指針を整理して国際的にも公表している。数値解析の利点は、任意の点の風速と風向を得られること、可視化によって流れの構造を直観的に把握できること、そして条件を変えた比較が比較的容易なことにある。

一方で、結果は前提に依存する。計算領域をどこまで取るか、格子をどれだけ細かく切るか、乱流をどのモデルで表すか、流入する風の分布と乱れをどう与えるか——これらの選択で答えは変わりうる。実務指針が計算条件の推奨をあえて明文化しているのは、この依存性を抑えるためである。したがって数値解析の結果は、風洞実験や実測との照合を経てはじめて信頼に足るものになる。計算結果の図が精密に見えることと、それが正しいこととは別である。

7.4 評価尺度——強さではなく頻度で測る

風環境の良し悪しを、ある一日の最大風速だけで決めることはできない。日本で用いられてきた評価の考え方は、超過頻度に基づく。すなわち、ある地点で日最大の瞬間風速がある値を超える日が年間何日あるかを推定し、その頻度によって段階を分ける。そして、住宅地・低層の市街地・中高層の市街地・繁華街といった土地利用ごとに、許容される頻度の水準を変える。静かな住宅地で許されない頻度でも、風が強いことが前提の広場では許されうる、という相対的な評価である。

評価尺度にはもう一つの側面がある。強い風の頻度だけでなく、風が弱すぎることを問題にする視点である。歩行者の風環境では強風側だけが評価されてきたが、夏の暑さや空気の入れ替わりを考えれば、風の乏しさもまた条件の一つである。近年の都市環境の議論が、風を「抑えるべき外力」としてだけでなく「確保すべき資源」としても扱うようになったのは、この両面性を反映している。公園における風の評価も、強さの上限と下限の両方を含む形で立てられるべきだろう。

この考え方は公園を論じるうえで示唆的である。公園の風環境を評価するには、まず「その場所で何が行われるか」を決めなければならない。乳幼児がよちよち歩きをする場所と、球技のできる広場と、健康器具のある一角では、望ましい風の条件が違う。風環境の評価は物理量だけでは閉じず、用途の想定を含む。逆に言えば、公園の使われ方を決めずに風の良し悪しを論じることはできない。第8節と第9節では、この用途の側から風の条件を考える。

8. 風が強い日の公園——気象情報の読み方と備えの考え方

ここまでは風の仕組みと設計の話をしてきた。本節では、実際に風が強い日に公園をどう考えるかという、利用者と管理者の双方に関わる実務的な論点を扱う。あらかじめ立場を明確にしておく。本稿は、どの風速で何をしてよいかを判断する基準を示すものではない。判断の根拠は、気象庁が発表する気象情報と、市などの関係機関が出す情報・指示にある。本節が述べるのは、その情報を読むための言葉の整理と、風の物理から説明できる範囲の一般的な備えの考え方にとどまる。

8.1 言葉の定義を押さえる

気象情報を読むうえで最初に必要なのは、言葉の定義である。第2節で触れたとおり、気象庁のいう平均風速は10分間の平均であり、瞬間風速は3秒間の平均である。予報や実況で示される「風速」は通常、平均風速を指す。そして瞬間風速は平均風速のおおむね1.5倍程度になることがあると気象庁は説明している。つまり「風速10メートル」の予報の日に、瞬間的にはそれを上回る風が吹きうる。物が飛ばされたり、傘があおられたりするのは、平均ではなくこの一瞬の風の側による。

気象庁は、平均風速の大きさに応じて風の強さを段階で表す用語を定めている。予報で用いられるこの区分と、それぞれの段階で屋外の人が受ける影響の目安は、気象庁が公表している。段階の名称と風速の範囲を整理すると次のようになる。

気象庁の用語平均風速の範囲屋外での目安(気象庁の説明の要約)
やや強い風毎秒10メートル以上15メートル未満風に向かって歩きにくくなり、傘がさしにくくなる
強い風毎秒15メートル以上20メートル未満風に向かって歩けなくなり、転倒する人も出るとされる
非常に強い風毎秒20メートル以上30メートル未満何かにつかまっていないと立っていられない状態になるとされる
猛烈な風毎秒30メートル以上気象庁は屋外での行動は危険としている

この表で注目したいのは、「やや強い風」という穏やかな名称の段階ですでに、傘がさしにくくなる程度の影響が想定されていることである。名称の印象と実際の影響には隔たりがある。予報の言葉を、その段階に対応づけられた影響の記述と一緒に読む習慣が、情報を使いこなす第一歩になる。

強い風気象情報関係機関持ち物
図8風の強い日の判断は気象情報と関係機関の指示に従う。予報の用語は、対応づけられた影響の記述とあわせて読むと意味が取りやすい。

8.2 注意報・警報の基準は地域ごとに決まっている

強風注意報や暴風警報といった発表は、全国一律の風速で決まっているわけではない。基準は市町村等を単位として地域ごとに定められており、地形や土地利用、過去の影響の実績が反映されている。したがって、他の地域の基準を持ち込んで考えることには意味がない。磐田市に関する基準と発表状況は、気象庁の情報と磐田市が発信する防災情報で確認することになる。市は風水害への備えについての情報を公開しており、日ごろから発信の経路を確かめておくことが、当日の判断を早める。

また、風の強い日には風だけが問題になるとは限らない。前線や積乱雲にともなう突風、雷、急な雨は同時に起こりうる。とくに雷を伴う可能性があるときは、公園のような開けた場所や、高い木の下は適した場所ではないとされ、頑丈な建物や車の中に移動することが一般に推奨されている。この点についても、判断は気象情報と関係機関の指示に従っていただきたい。

8.3 風の物理から言える備え

備えについて、風の物理から説明できる範囲のことを述べる。物が風で動くかどうかは、受ける風の力とその物の重さ・形の関係で決まる。風の力はおおむね風速の二乗に比例して増えるため、風速が少し増えるだけで力は大きく増える。面積が広く軽いものほど動きやすい。公園に持ち込むものでいえば、レジャーシート、日よけ、簡易テントやタープ、紙皿や紙コップ、帽子といったものがこれに当たる。とくに面で風を受ける構造のものは、風が出てきたら早めに畳むという判断が理にかなう。

  • 面が広くて軽いものは風で動きやすい。日よけやシートは風が出てきたら早めに畳む。
  • 乾いた砂や落ち葉は地表近くを運ばれる。砂場や裸地のそばでは風向きに応じた立ち位置を選ぶ。
  • ブランコやボールなど、動く遊具や道具は風の影響を受ける。周囲の間隔に余裕をとる。
  • 自転車やベビーカーは面積が大きく、停めた状態で風を受ける。置き方に注意する。
  • 風の強い日は体感温度が下がりやすい。一枚多く用意しておくと切り上げの判断に幅ができる。

備えの考え方には、時間の要素も入る。風は一日のうちでも変化し、また前線の通過にともなって短時間で変わることがある。出かける前に確認した予報と、公園にいる間の実際とが食い違うことは珍しくない。したがって、出発時の判断だけでなく、滞在中に情報を見直せるようにしておくことに意味がある。あわせて、風が強まってきたときにどこへ移動するかを、公園に着いた時点で見当をつけておくと、判断が遅れにくい。第9節で述べる屋根のある空間の位置は、この点でも意味をもつ情報である。

管理の側の論点も一つ挙げておく。強い風の後には、園内の状態が普段と変わっていることがある。枝が折れて掛かったままになっている、遊具に飛来物が絡んでいる、看板が傾いているといった状況である。遊具については国土交通省の指針が点検の枠組みを定めており、点検と補修は管理者の役割である。利用者にできるのは、気づいたことを伝えることであり、磐田市の公園については都市整備課(電話 0538-37-4806)が窓口となっている。

9. 磐田市の公園への示唆

ここまでの整理を、磐田市の公園に引きつけて考える。あらためて断っておくが、当サイトが収録する100園について、現地の踏査はまだ始まっていない。したがって以下は、市のオープンデータと施設ガイドに記載のある種別・面積・園内施設から論理的に言えることと、踏査で確かめるべき問いとを分けて述べるものであり、個々の園の風環境を評価するものではない。

9.1 種別と面積から見た、風に対する立場の違い

磐田市の都市公園は、街区公園51園、近隣公園14園、都市緑地10園、地区公園4園、総合公園3園、運動公園3園、風致公園3園、広場公園2園、緑道2園、墓園1園、歴史公園1園に、法の対象外の6園を加えた100園で構成されている。種別は本来、規模と誘致距離という都市計画上の考え方に基づく分類だが、風の観点から読み直すと別の意味が現れる。規模が大きいほど、園内に粗さの異なる面——樹林と広場——を併せ持ちうるからである。

面積の大きい園を見ると、竜洋海洋公園(総合公園・竜洋)が221,722平方メートル、かぶと塚公園(総合公園・見付)が106,982平方メートル、つつじ公園(風致公園・見付)が61,937平方メートル、磐田スポーツ交流の里ゆめりあ(運動公園・向陽)が57,500平方メートル、兎山公園(地区公園・御厨)が56,193平方メートル、福田公園(総合公園・福田)が49,620平方メートルとなっている。これらの規模であれば、園の内部に風の条件が異なる場所が複数生じうる。第6節で述べた「園内に複数の微気候をつくる」という考え方が、設計としても利用としても成り立つ規模である。

他方、小さな緑地はまったく別の立場に置かれる。二之宮東第2緑地(都市緑地・中泉)は17平方メートル、豊田上新屋ポケットパーク(都市緑地・豊田)は156平方メートル、豊田第1緑地(都市緑地・豊田)は254平方メートル、豊田森下ポケットパーク(都市緑地・豊田)は286平方メートルである。この規模では、園内で風の条件をつくるというより、周囲の建物と樹木がつくる流れの中に置かれた小さな面と考えるほうが実態に近い。第4節で述べた、建物の風下の渦や街路に沿う流れの影響を受ける側になりうる。どのような影響があるかは、周囲の建物配置を含めて見なければ言えない。

地区配置面積樹林
図9大きな園は内部に風の条件の違いをつくりうるが、小さな緑地は周囲の建物がつくる流れの中に置かれる。規模によって風に対する立場が変わる。

9.2 地区ごとの分布と、条件の多様さ

9地区の内訳は、豊田28園、見付21園、中泉14園、御厨13園、竜洋13園、福田4園、豊岡3園、南部2園、向陽2園である。地区によって市街地の密度も土地の性格も異なり、風の条件も一様ではありえない。密集した市街地の中の街区公園と、田畑に接した農村公園とでは、地表面の粗さも、周囲の建物による流れの変化も違う。市の施設ガイドには、豊田海老塚農村公園・豊田富里農村公園・豊田中野戸農村公園・豊田森本農村公園・浜部農村公園といった、農村公園の名を含む園が記載されている。周囲が開けているほど風は通りやすく、樹林や建物に囲まれるほど地表近くの風は弱まりつつ乱れる——第3節の原則がそのまま当てはまる場面である。

また、海に近い土地では、潮を含んだ風と飛砂という条件が加わることが一般に知られている。塩分は植物や金属部材に影響し、飛砂は舗装や砂場の状態を変える。海に近い公園の樹種選定に耐潮性が考慮されることも、防砂の目的で植栽が行われることもある。磐田市の100園のうち、どの園がそうした条件のもとにあるかは、位置と周囲の状況を現地で確かめなければ言えない。当サイトはこれを踏査の課題として引き受ける。

9.3 施設ガイドの記載から立てられる問い

市の施設ガイドの記載には、風と関わる要素がいくつも含まれている。今之浦公園(近隣公園・見付)の園内施設には、屋根付広場・芝生広場・噴水広場・じゃぶじゃぶスポット・流れといった記載がある。屋根のある空間は風の吹き込む向きによって使い勝手が変わり、芝生広場は粗さの小さい開けた面であり、水を扱う施設は風で水滴が流されうる。はまぼう公園(福田)にも芝生広場の記載がある。竜洋川袋公園(街区公園・竜洋)と福田ふるさと公園(街区公園・福田)には築山の記載があり、第5節で述べた地形による風の変化に関わる。これらはいずれも、記載から立てられる問いであって、答えではない。

踏査で確かめたい観察項目を、風工学の枠組みから整理すると次のようになる。いずれも特別な機材を要さず、記録として蓄積できるものである。

  • 樹木の枝ぶりや樹形に偏りがあるか(長期間の卓越風の手がかりになることがある)
  • 園の風上側にあたる方向に樹林・生垣・建物があるか、その疎密はどうか
  • ベンチ・東屋・砂場・水飲み場が、開けた面と樹林のどちらに近いか
  • 砂場や裸地の砂が乾いた日にどの向きへ動いているか
  • 屋根のある空間が、どの向きの風と雨に対して有効か
  • 落ち葉やごみが一か所に吹き寄せられている場所はどこか(風の淀みの手がかりになる)

最後の項目は、風工学の実測の代わりにはならないが、日常の観察として有効である。落ち葉や紙が集まる場所は、流れが淀む場所であることが多い。逆に、いつも吹き払われて何も残らない場所は、風が抜ける経路にあたる可能性がある。こうした観察を園ごとに記録していけば、100園を風という一つの軸で並べ直す手がかりになる。当サイトは磐田市の公園データベースとして、設備の有無だけでなく、こうした「その場の条件」を記録していくことを目指している。運営は不動産・介護事業を営む富士ヶ丘サービス株式会社であるが、本稿の目的は地域の公園を学術的な視点から読み直すことにある。

10. 結論と今後の課題

本稿は、風工学の基本概念を手がかりに、公園と風の関係を整理してきた。得られた見通しを四つに絞って述べる。

第一に、風は地表面の性質が決める現象である。地面に近づくほど摩擦で弱まり、その弱まり方は地表の粗さによって変わる。建築基準法に基づく告示が地表面粗度区分を定めているのは、この関係が設計条件として確立しているからである。公園は樹林と広場という粗さの異なる面を併せ持つ空間であり、単一の性質をもつ点として扱うことはできない。

第二に、建物と樹木は、同じ流れに対して異なる働きをする。建物は流れを通さないため、剥離と迂回を生み、上空の風を地面近くへ降ろし、狭い断面で加速させる。樹木は多孔質の抵抗体として、通り抜ける流れから少しずつ運動量を奪う。風を完全に遮る密な壁より、適度に透かす疎な林のほうが風下の遠くまで穏やかに効くという防風林の原則は、公園の植栽にも、人の居場所のつくり方にも読み替えられる。

第三に、風に対する要求は季節と用途によって相反する。夏は風を通したく、冬は遮りたい。休憩や食事の場では淀みが望ましく、暑い日中や空気の入れ替わりの観点では通風が望ましい。この矛盾は一つの答えでは解けず、園内に条件の異なる場所を複数用意し、利用者が選べるようにするという配置の問題に置き換わる。風環境の評価が、用途の想定を含んではじめて成り立つのも同じ理由による。

第四に、風は調べられるが、調べるには方法と前提が要る。実測・風洞実験・数値流体解析はそれぞれ長所と限界をもち、互いの検証によって信頼性を得る。逆に言えば、こうした手続きを経ずに、ある地点の風環境を良い・悪いと断定することはできない。本稿が磐田市の個々の公園について風の評価を述べなかったのは、この制約に忠実であろうとしたためである。

記録100園課題
図10風は地表面が決め、建物と樹木が変え、季節と用途で評価が変わる。特定地点の断定は避け、観察の蓄積を今後の課題として残す。

10.1 今後の課題

課題は四つある。第一に踏査である。第9節に挙げた観察項目——樹形の偏り、風上側の樹林の疎密、居場所と開けた面の位置関係、砂の動き、屋根のある空間の向き、吹き寄せられた落ち葉の場所——を、100園について記録していくこと。これは特別な機材を要さないが、継続と、季節をまたいだ複数回の観察を要する。第二に、記録の様式を定めることである。観察が主観に流れないよう、何をどの順で見るかをあらかじめ決めておく必要がある。

第三に、他分野との接続である。風は単独では働かない。日射と組み合わされば体感の暑さ寒さを決め、蒸散と組み合わされば公園の冷気の広がり方を決め、樹木の健全性と組み合わされば管理の課題になり、音の伝わり方にも関わる。都市気候学・生気象学・樹木学といった隣接分野の論考と読み合わせることで、風の位置づけはより正確になる。第四に、風向の資料の整理である。地域の風の気候をどう参照するかについて、公開されている観測資料の範囲と限界を確かめる作業が残っている。

あわせて、本稿が扱わなかった論点も記しておきたい。一つは、風を利用する遊びである。凧、風車、シャボン玉、落ち葉を舞わせる遊びなど、子どもは風を障害としてではなく素材として扱う。風工学が主に風を制御すべき外力として論じてきたのに対し、遊びの側から見れば風は与件であり資源である。もう一つは、風の音と気配である。木々のざわめきや旗のはためきは、風速計とは別の仕方で風を伝える。これらは物理量に還元しきれないが、公園の体験を構成する要素であることに変わりはない。

最後に、本稿の限界を明記しておく。本稿は文献整理と概念分析にとどまり、独自の観測も計算も行っていない。したがって本稿から、特定の公園が風の強い場所である、あるいは弱い場所であるといった結論を引き出すことはできない。強い風が予想されるとき、また風が強まってきたときの行動については、気象庁の気象情報と、磐田市をはじめとする関係機関が発表する情報・指示に従っていただきたい。公園の樹木や遊具の状態について気づいたことがあれば、管理者である市の担当課へ伝えることが、次に訪れる人のためになる。風は目に見えないが、見えないものを言葉にして共有することはできる。本稿がその共有の語彙を少し増やせたなら、目的は果たされたことになる。

参考文献

  1. A. G. ダベンポート(1961)「The application of statistical concepts to the wind loading of structures」Proceedings of the Institution of Civil Engineers, 19
  2. R. ガイガー(1927)『Das Klima der bodennahen Luftschicht』(英訳『The Climate Near the Ground』)
  3. T. R. オーク(1987)『Boundary Layer Climates』第2版(Routledge)
  4. 村上周三(2000)『CFDによる建築・都市の環境設計工学』(東京大学出版会)
  5. 富永禎秀ほか(2008)「AIJ guidelines for practical applications of CFD to pedestrian wind environment around buildings」Journal of Wind Engineering and Industrial Aerodynamics, 96
  6. 日本建築学会『建築物荷重指針・同解説』
  7. 建築基準法(昭和25年法律第201号)・同施行令、平成12年建設省告示第1454号(地表面粗度区分および基準風速)
  8. 気象庁「風の強さと吹き方」(予報用語・平均風速と瞬間風速の定義)
  9. 国土交通省「都市公園における樹木の点検・診断に関する指針(案)」(平成29年3月)
  10. 都市公園法(昭和31年法律第79号)・都市公園法施行令(国土交通省 都市公園のページ)
  11. 国土交通省「都市公園における遊具の安全確保に関する指針(改訂第3版)」(令和6年6月)
  12. 環境省 熱中症予防情報サイト(暑さ指数 WBGT)
  13. 磐田市オープンデータ「都市公園一覧」(CC BY 3.0・出典:磐田市)
  14. 磐田市 施設ガイド(公園)
  15. 磐田市 防災(風水害への備え)

本稿は ATAWI PARK 編集部による総説的な論考であり、学会誌等の査読を経た学術論文ではありません。引用は広く知られた著作・公的資料に限り、磐田市固有の事実は当サイトのデータベースと磐田市の公開情報にもとづきます。個々の公園の設備・状態は現地でご確認ください。医療・安全に関する判断は医療機関・関係機関の指示を優先してください。

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